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ポイント解説・金商法 #14:公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告【後編:大量保有報告制度のあり方・実質株主の透明性について】

2023年12月25日、公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループの報告が公表されました。本noteは後編として、大量保有報告制度のあり方・実質株主の透明性について、同報告の要点をまとめました(前編については「ポイント解説・金商法 #13をご参照ください。)。


1. 大量保有報告制度のあり方について

(1)重要提案行為の範囲

【現行制度】
金融商品取引業者等が特例報告制度(*1)を利用するためには、その要件として、重要提案行為を行うことを保有の目的としないことが必要。

【問題点】
役員の指名や一定割合以上の議決権の取得などと異なり、配当方針・資本政策に関する変更などといった企業支配権等に直接関係しない事項の提案行為を目的とする場合については、単に提案行為を行うことのみによって直ちに経営に対して大きな影響が生じるものとは言い難い。

【提言】
①企業支配権等に直接関係しない行為を目的とする提案行為を、②その採否を発行会社の経営陣に委ねるような態様(*2)により行う場合には、特例報告制度を利用できる規律とすることが適当である。

*1 金融商品取引業者等については、事前に届け出た月2回の基準日において、大量保有報告書・変更報告書の提出義務を判断し、当該基準日から5営業日以内に大量保有報告書・変更報告書を提出すれば足りる旨の緩和措置が講じられています。
*2 例えば、株主提案権の行使、株式の追加取得等を示唆して提案を行う場合が考えられます。

(2)共同保有者の範囲

【現行制度】
保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者については、例外なく共同保有者に該当する。

【問題点】
上記合意に黙示の合意が含まれることとなる結果、機関投資家による協働エンゲージメント(*3)に萎縮効果をもたらしている。

【提言】
機関投資家による協働エンゲージメントに関して、共同して重要提案行為等を行うことを合意の目的とせず、かつ継続的でない議決権行使に関する合意をしているような場合については、共同保有者概念から除外することが適当である。

*3 他の機関投資家と協働して個別の企業に対して対話を行うことをいいます。

(3)デリバティブ取引の取扱い

【現行制度】
現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引のロングポジションを保有するのみでは、基本的に大量保有報告制度の適用対象にならない。

【問題点】
現金決済型のエクイティ・デリバティブ取引であっても、現物決済型のエクイティ・デリバティブ取引に変更することを前提としている事例や、そのようなポジションを有することをもって発行会社にエンゲージメントを行う事例が存在する。

【提言】
取引開始時点で潜在的に経営に対する影響力を有しているものや、実質的に大量保有報告制度を潜脱する効果を有すると評価できるものについては、大量保有報告制度の適用対象とすることが適当である(*4)。

*4 例えば、①取引の相手方から株券等を取得することを目的とするもの、②取引の相手方が保有する株券等に係る議決権行使に一定の影響力を及ぼすことを目的とするもの、③これら①②のような地位にあることをもって発行会社に重要提案行為等を行うことを目的とするもの等が考えられます。

(4)大量保有報告制度の実効性の確保

【現行制度】
大量保有報告書等の不提出及び不実記載は、課徴金制度の対象とされている。

【問題点】
実際には大量保有報告書等の提出遅延等は相次いでおり、大量保有報告制度の実効性が確保されていない。

【提言】
① 故意性が疑われる不提出や著しい提出遅延など、市場の公正性を脅かしかねない事例については積極的に対応を講じ、当局の対応を強化すべき。

② そのような対応を促進する観点から、共同保有者の認定に係る立証の困難性の問題を解決すべく、一定の外形的事実が存在する場合には共同保有者とみなす旨の規定(*5)を拡充すべき。

③ 大量保有報告制度を遵守しないまま公開買付けを開始しようとする事例に対しては、事前相談の際に大量保有報告書の提出や訂正を求めるなど、適切な対応を講じるべき。

④ 公開買付届出書の提出後に大量保有報告制度の違反が発覚した場合には、訂正命令等の是正措置を行うことができるような枠組みを整備すべき。

*5 現行の大量保有報告制度上、保有者との間で、一定の資本関係、親族関係その他特別の関係がある者については共同保有者とみなす旨の規律が設けられているところ、役員兼任関係や資金提供関係などに着目して検討することが考えられるとされています。

(5) その他の課題

① 株券等保有割合の算出に際して、取得請求権付株式や取得条項付株式の転換後の株式数が勘案されていないところ、転換後の株式数も勘案の上、いずれか多いほうを株券等保有割合の算出に用いることとすること。

② 「保有目的」や「当該株券等に関する担保契約等重要な契約」等について、その記載内容・記載方法が必ずしも明確化されておらず、提出者によって記載ぶりが区々となっている。現行の記載方法が複雑であることが提出遅延の一因となっている可能性があり、記載内容・記載方法の明確化及び見直しを行うべき。

③ 一定の資本関係がある場合には、別個独立に議決権等を行使する方針であったとしても、共同保有者とみなされてしまう点について、一定の場合(*6)には当局の承認を得ること等によって共同保有者から除外される制度とすべきである。

*6 例えば、資産運用会社とその親会社である金融持株会社(及びその子会社)について、これらの者が別個独立に議決権行使等に関する判断を行う体制が整備されているか否か等を考慮した上で、これらの者を共同保有者から除外するような場面等が考えられます。

2. 実質株主の透明性について

【現行制度・問題点】
名義株主については、会社法上の株主名簿や有価証券報告書等の大株主の状況に関する開示を通じて、発行会社や他の株主がこれを把握する制度が整備されている。
一方、実質株主(当該株式について議決権指図権限や投資権限を有する者)については、大量保有報告制度の適用対象(5%超)となる場合を除き、発行会社や他の株主がこれを把握する制度が存在しない。

【提言】
① 機関投資家の行動原則としてその保有状況を発行会社から質問された場合にはこれに回答すべきであることを明示すべき。

② ①のような回答を法制度上義務づけるべき。


Authors

弁護士 後藤 徹也(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。ニューヨーク州弁護士、一種証券外務員資格・内部管理責任者資格。21年8月から現職。
『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『会社訴訟・紛争実務の基礎-ケースで学ぶ実務対応』(有斐閣、2017年〔共著〕)、『公開買付けの理論と実務〔第3版〕』(商事法務、2016年〔共著〕)、『アドバンス会社法』(商事法務、2016年〔執筆協力〕)等、著書・論文多数。

弁護士 豊島 諒(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2018年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2020年慶應義塾大学法科大学院修了、2022年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2022年4月から現職。企業買収・公開買付けといったM&A案件を中心に、企業法務全般を広く取り扱う。

弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年一橋大学法学部卒業、2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。
『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年〔共著〕)、『金融商品取引法コンメンタール1―定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018年〔共著〕)、『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務、2008年〔共著〕)等、著書・論文多数。

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