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税務UPDATE Vol.15:【速報】マンション仕入税額控除事件最高裁判決

1. はじめに

だいぶ時間が経ってしまいましたが、以前の「税務UPDATE」において、マンション仕入税額控除事件の地裁判決(東京地判令和2年9月3日)をご紹介しました。

本日、ついに同事件の最高裁判決が出ました(*1)ので、今回は、従前の経緯および最高裁判決の内容についてご紹介いたします。

*1 前回ご紹介した地裁判決はA社事案のものですが、「令和元年判決」としてご紹介したB社事案についても同時に最高裁判決が出ました。

2. マンション仕入税額控除事件とは

マンション仕入税額控除事件とは、主に居住用かつ投資用のマンションの販売事業を行う事業者がマンションを取得した場合において、当該マンションの仕入れに係る消費税額を全額控除できるのか、それとも一部しか控除できないのか、消費税法上の個別対応方式における用途区分(消費税法30条2項1号)を、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」(「課税対応課税仕入れ」)とすべきか、それとも「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」(「共通対応課税仕入れ」)とすべきかという点(争点1)が争点となった事件です。

もともとの争点は上記のとおり仕入税額控除の問題ですが、この問題については従前税務当局が全額の控除を認めるかのような回答をしていたのに対し、その後、見解を変更して控除を認めない方針とし、課税処分に至ったものであるとして、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」が認められるのではないかという点(争点2)(*2)も争点となりました。

*2 過少申告となったことについて正当な理由が認められると加算税が賦課されないこととなります。

本日最高裁判決が出た2事案に係る高裁までの経緯は以下のとおりです。

A社事案の地裁判決については以前の税務UPDATEでご紹介させていただきました。これに対し、B社事案の高裁判決では、課税処分は適法としつつ、過少申告となったことにつき「正当な理由」があるとして加算税の賦課決定処分を取り消しました。

高裁判決は、従前は税務当局が課税対応課税仕入れに該当するとの回答(*3)をしており、その後見解を変更したものと認定した上で、税務当局としては、見解の変更を納税者に周知するなど、必要な措置を講じるのが相当であったと解されるとし、本件は「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当する」と判断しました。

*3 なお、本件で課税処分の対象となっている事業者に対して行った回答ではありません。

3. 最高裁判決の概要

最高裁(A社事案B社事案)は、課税処分は適法であり、かつ正当な理由はないものと判断しました。

まず、課税処分の適法性(A社事案のみ)については、「課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解されるのが相当」としました。そのうえで、A社の事業において行われた建物の購入に係る課税仕入れは、建物の転売(課税資産の譲渡等)のみならず、その他の資産の譲渡等である建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるので、A社の事業の位置付けやA社の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するものと判断しました。

次に、「正当な理由」の有無(A社事案、B社事案)については、以下のとおり判断して「正当な理由」があると認めることはできないとしました。

  • 遅くとも平成17年以降税務当局が本件と同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことが税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例および下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得る状況にあった。

  • 税務当局が平成7年に行った回答は、本件と同様の課税仕入れに直接言及するものではなく、その趣旨や前提となる事実関係が明らかでない等、必ずしも上記の見解と矛盾するものとはいえない。

  • 税務当局が平成9年に行った回答は税務当局が一般的に当該課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできず、またかかる回答が公表されるなどしたとの事情もうかがわれない。

  • 上記からすれば、税務当局が取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、共通対応課税仕入れとされる可能性を認識してしかるべきであった。

  • 本件の課税仕入れに係る取扱いは消費税法30条2項1号の文理等に照らして自然であるといえ、本件の申告当時、本件の課税仕入れと同様の課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分すべきものとした裁判例があったともうかがわれない。


Author

弁護士 山口 亮子(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2005年弁護士登録(2020年再登録、第二東京弁護士会所属)、18年~20年東京国税局調査第一部調査審理課において国際調査審理官(特定任期付職員)として勤務。20年7月から現職

弁護士 迫野 馨恵(弁護士法人三浦法律事務所 名古屋オフィス 法人カウンセル)
PROFILE:2007年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)、11年~16年東海財務局理財部において金融証券検査官、16年~21年名古屋国税局調査部調査審理課において国際調査審理官として勤務(いずれも特定任期付職員)。21年9月から現職

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