ポイント解説・金商法 #4:サステナビリティ情報の開示・四半期開示の一本化を含むディスクロージャーワーキング・グループ報告書とCGコード②
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サステナビリティ情報の開示・四半期開示の一本化を含むディスクロージャーワーキング・グループ報告書とCGコード①
4. 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
4-1 四半期開示
「ポイント解説・金商法 #1」では、4月18日開催のDWGの第8回会合において議論された四半期開示の見直しを中心に取り上げたところ、結論としては、以下のとおりとなりました。
「ポイント解説・金商法 #1」でも指摘した点ですが、①開示の内容、②虚偽記載に対する課徴金・刑事罰の対象になる場合には業績予想等の将来情報も含めてその対象とするのか(あるいは決算短信とは別の開示とし、課徴金・刑事罰の対象としないのか)、③発行開示に際して有価証券届出書や発行登録書を提出する場合において四半期情報をどのように組み入れるのか(現行法では、組込情報や参照情報として四半期報告書の情報を利用しています。)など、四半期報告書の廃止と四半期決算短信への一本化は、今後の継続的な情報開示や発行開示の実務に大きな影響を及ぼすため、今後の動向に注意する必要があります。
4-2 適時開示のあり方
コロナ禍やロシア・ウクライナ情勢による影響等の開示状況を踏まえ、投資家の投資判断上、よりタイムリーに企業の状況変化に関する情報が企業から開示されるよう取引所において適時開示の促進を検討すべきであり、その検討に当たっては、適時開示のエンフォースメントのあり方についても整理することが期待されるとされています。
現行の適時開示制度は、投資者の投資判断に著しい影響を与える会社情報は直ちに開示しなければならないとの考えのもと、インサイダー取引規制を踏まえた個別具体的な開示項目に加え、包括的な開示項目も設けられており、開示すべきか迷ったときは常に投資者の視点に立って行動することが求められているところですが(有価証券上場規程401条)、今後、金融商品取引所においてどのような議論がされるか注目されます。
4-3 有価証券報告書の株主総会前提出
議論の対象となったものの、「必ずしも十分に早い時期でなくとも株主総会前に有価証券報告書を提出するといった取組みが期待される」との指摘に留まり、実務上は大きな変更は生じないものと見込まれます。
4-4 重要情報の公表タイミング
議論の対象となったものの、「社内手続きなどを了したタイミングで速やかに開示することが基本であり、このような開示を促す取組みを進めるべきである」との指摘に留まり、実務上は大きな変更は生じないものと見込まれます。
5. その他の開示に係る個別課題
5-1「重要な契約」の開示
個別類型として、①「企業・株主間のガバナンスに関する合意」、②「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」および③「ローンと社債に付される財務上の特約」が締結されている場合、以下の<開示対象となる要素>を含む各合意については「重要な契約」として開示を求め、以下の<主な開示内容>に記載の各事項を記載すべきことを明確化すべきとされています。
(1)「企業・株主間のガバナンスに関する合意」
(2)「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」
(3)「ローンと社債に付される財務上の特約」
なお、上記合意を含む契約について開示対象等の明確化に当たっては、既契約の取扱い等、実務的な課題についても十分検討を行うべきとされています。
また、上記以外の重要な契約についても、投資家の投資判断に重要な情報を含む契約については適切な開示を行うという実務の定着に向け、例えば「記述情報の開示の好事例集」等を通し、投資家にとって重要な情報が十分に開示されるよう促すべきとされています。
これらについては、今までは積極的に情報開示を行っている会社からそうではない会社まで幅広くあり、有価証券報告書において記載がないにもかかわらず、突如としてガバナンスに影響のある事項や財務的に重要な情報が開示されることがあり、投資者にとっては好ましくない状況が生じていると評価されるような場合もあったことから、このような情報が開示されることは追加的な対応が必要としても好ましいものと考えられます。
もっとも、開示する内容については、上記の整理は一見明確なようにも思われますが、個別の契約内容によっては開示項目に該当するか否かといった法的な判断が実際には悩ましい場合もあり得、かつ、契約書そのものを開示する必要はないため、個別の開示に際しては情報開示の観点から専門家に相談する等、適切な検討を行う必要があるものと考えます。
なお、この点に関連して、上場子会社についてはすでにコーポレート・ガバナンス報告書において「グループ経営に関する考え方及び方針として記載されるべき内容に関連した契約(その他の名称で行われる合意を含む。)を締結している場合は、その内容を併せて記載することが望まれます」とされており(コーポレート・ガバナンス報告書記載要領Ⅰ5.)、また、事業報告において「重要な親会社及び子会社の状況(当該親会社と当該株式会社との間に当該株式会社の重要な財務及び事業の方針に関する契約等が存在する場合には、その内容の概要を含む。)」を記載することとされているところですので(会社法施行規則120条1項7号)、これらも参考に開示を検討することが考えられます。
5-2 企業情報の英文開示
議論の対象となったものの、金融庁の提供する有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム(EDINET)の英語サイトにおいて、英訳した有価証券報告書を自社ウェブサイト上に掲載している企業に加え、有価証券報告書上で特に英文開示が求められる「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析」、「コーポレート・ガバナンスの概要」、「株式の保有状況」を英訳した企業についても一覧として公表して海外投資家に対して情報発信することや、翻訳ツールを利用しやすいように改修を進めるなどの指摘に留まっています。
従って、企業に対する義務付けはなく、各社の必要性に応じて対応を検討することになるものと見込まれますが、CGコードの補充原則3-1②は「上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべき」としており、2021年改訂コードは「特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべき」としたことも踏まえて対応の検討を進めることが求められます。
5-3 有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の記載事項の関係
両者の開示については、前回2018年6月のDWG報告において、それぞれの特徴があるものの、内容の重複が指摘されていました。
これに関し、報告書では有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスに関する情報として、取締役会、委員会等の活動状況の「記載欄」を設けるべきとされているところ(ポイント解説・金商法 #3の「3. コーポレートガバナンスに関する開示」)、この項目はコーポレート・ガバナンス報告書においてすでに「開示推奨項目」とされているため、両者の関係については、例えば、
有価証券報告書では、提出前1年間の「基本的な活動状況」を記載することとした上で
コーポレート・ガバナンス報告書では、必要に応じ、時々の企業の置かれた状況を踏まえ、より具体的な活動内容や有価証券報告書提出後の活動等について記載することを推奨する
などにより、有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の特徴やそれぞれの開示システムの利便性等を踏まえて整理することが考えられるとされています。
このように、記載内容や時期について現時点では積極的な調整はされないようですが、機関投資家からは有価証券報告書は法定開示書類として記載情報の重要性や信頼度の高さがあり、他方で、コーポレート・ガバナンス報告書はエンゲージメント等によって年度途中で変更があった場合に迅速に反映できるといった利点があるとの指摘もあることを踏まえ、両者における開示を行うことが重要となります。
6. 事務上の留意点や今後の課題
報告書に基づく改正等により、サステナビリティ情報や重要な契約に関する情報を含めて開示項目が増加すると共に、CGコードやコーポレート・ガバナンス報告書との記載関連性がより増加することとなります。これは投資者にとっては望ましいものである一方、企業側では金融商品取引法に基づく不実記載の責任が生じないようにするため、有価証券報告書の作成に際しては、幅広い内容についてサステナビリティ関連をはじめとした部署と全社横断的な連携や専門家への相談等の重要性が増すものと考えられます。
Authors
弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年一橋大学法学部卒業、2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。
『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年〔共著〕)、『金融商品取引法コンメンタール1―定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018年〔共著〕)、『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務、2008年〔共著〕)等、著書・論文多数。
弁護士 関本正樹(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2007年東京大学法学部卒業、2008年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士。21年7月から現職。18年から20年にかけては株式会社東京証券取引所 上場部企画グループに出向し、上場制度の企画・設計に携わる。『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『対話で読み解く サステナビリティ・ESGの法務』(中央経済社、2022年)、『支配株主・支配的な株主を有する上場会社における少数株主保護─東証「中間整理」の解説─』 (旬刊商事法務 、2020 年)、 『上場子会社のガバナンスの向上等に関する上場制度整備の概要』(旬刊商事法務、 2020年)等、著書・論文多数。