ポイント解説・金商法 #1:四半期開示の見直し(四半期短信への一本化)
1. 金融審が四半期開示の一本化の方向性を示す
岸田首相が就任前から述べられていた四半期開示の見直しに関し、4月18日開催の金融審議会ディスクロージャー・ワーキング・グループ(以下「DWG」といいます。)の第8回会合において、以下のとおり、見直しの方針が示されました。
そして、2022年夏以降も、DWGにおいて「一本化」する四半期決算短信に係る諸論点の議論を深めることとされ、以下の点について論点整理がされる見込みです。
2007年の金融商品取引法の施行により導入された四半期報告書導入当時、導入理由については「各金融商品取引所の自主ルールによる四半期開示については、四半期情報に虚偽記載等がある場合でも罰則が適用されない等の問題も指摘されていたほか、四半期財務諸表の作成基準について一層の統一を図り、公認会計士・監査法人による四半期財務諸表の監査証明を義務付けるべきとの指摘があった。」点を踏まえて法律上の制度として導入されたと説明されている(三井秀範=池田唯一監修・松尾直彦編著『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務・2008)164頁。)ことから考えると、四半期報告書の廃止に際し、【今後の論点】で具体例として示された論点は重要なポイントと思われます。
この点、「虚偽記載に対するエンフォースメント」については、金融庁より、四半期短信と同じ内容を臨時報告書で開示する仕組みとすることで四半期報告書と同等の虚偽記載の責任を課すことが可能との説明がなされ、これに賛同する旨の意見もありました。
2. 現状の四半期開示制度と課題
上場会社は、現状、証券取引所規則に基づく四半期決算短信の作成・公表と金融商品取引法に基づく四半期報告書の提出が義務付けられています。形式的に項目を比較すると以下のとおりとなりますが、四半期決算短信の公表時には、企業によってはその添付資料において事業の状況に係る定性的な情報や補足説明資料の作成・公表も行っており、短期間ないし同時に、項目の似た書類を作成する企業の負担は大きいものと思われます。
3. 今後の見通し
今後、四半期開示については四半期決算短信に「一本化」する方向で議論が進み、年内にも方針が確定するものと思われますが、①開示の内容、②虚偽記載に対する課徴金・刑事罰の対象となる場合には業績予想等の将来情報も含めてその対象とするのか(あるいは短信とは別の開示とし、課徴金・刑事罰の対象としないのか)、③発行開示に際して有価証券届出書や発行登録書を提出する場合において四半期情報をどのように組み入れるのか(現行法では、組込情報や参照情報として四半期報告書の情報を利用しています。)、④監査人のレビューを必要とするのか(発行開示にも影響する内容となります。)等の論点もあるものと考えます。
なお、四半期開示のほか、投資家の投資判断上、よりタイムリーに企業の状況変化に関する情報が企業から開示されることが重要と考えられることから、四半期以外の適時開示の充実を図るための議論(日本では開示対象と重要性が定められている細則主義である一方、米英では原則主義。コロナ拡大時の開示状況やウクライナ情勢の開示状況)や有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の記載内容の整理等も議論されています。
近時、企業情報の開示の改正では開示内容の充実に関する改正が多くなされていましたが、今回の改正は開示制度の改正であり、各種対応が必要となるものであるため、今後とも注視し、情報発信していきます。
4. あとがき
今回が「ポイント解説・金商法」の第1回の発信となります。今後、金融商品取引法に関し、気候変動・ESG等を含む情報開示(役員報酬・公開買付規制なども含みます。)・不公正取引(インサイダー取引規制など)の改正に関する情報や拙稿「ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法」などで取り上げている論点などの簡単な解説を発信していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
Author
弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。02年~18年 濱田松本法律事務所(現 森・濱田松本法律事務所)を経て、19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。
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