ベトナム法よもやま話-会社法-
1. はじめに
三浦法律事務所では東南アジアを中心とする新興国プラクティスをコンサルティングファームとして2021年に設立したM&P Asiaを中心に展開しています。おかげ様でM&P Asiaの拠点はインドネシア、ベトナム、中国、メキシコ、コロンビアに広がり(2023年12月現在)、各種案件をご依頼いただいておりますが(実績/TRACK RECORD)、それぞれの拠点のうち法務のニーズが高い場所から順に三浦法律事務所としても拠点を設立しています。
最初の東南アジア拠点として2023年4月にインドネシア・ジャカルタにAtama Law in association with Miura&Partnersを設立しました。
次いで2024年2月にベトナム拠点を設立します(CÔNG TY LUẬT TNHH MIURA & PARTNERS LPC VIỆT NAM 英語名称MIURA & PARTNERS LPC VIETNAM)。
本稿はベトナム拠点を開設するにあたり私が触れたベトナム会社法(LAW ON ENTERPRISES)をご紹介するものです。なお、本稿はベトナム会社法の最新情報を提供するものではなく、また、ベトナム会社法を網羅的にご紹介するものでもありませんので、気軽な読み物として取り扱いいただければ幸いです。
2. 会社形態
三浦法律事務所のベトナム拠点は「一人社員有限責任会社」(SINGLE-MEMBER LIMITED LIABILITY COMPANIES)として設立しました。ベトナム会社法上、会社の種類としては「二人以上社員有限責任会社」(MULTIPLE-MEMBER LIMITED LIABILITY COMPANIES)、「一人社員有限責任会社」(SINGLE-MEMBER LIMITED LIABILITY COMPANIES)、「株式会社」(JOINT STOCK COMPANIES)があります。
有限責任会社では「株式」を発行することができず、出資者(社員)は「持分」を有することになります。「二人以上社員有限責任会社」の社員は2~50名、「一人社員有限責任会社」の社員は1名、「株式会社」の株主は3名以上必要です。持分と株式とでは譲渡の仕方や種類株式の発行の可否などで違いがあり、また有限責任会社と株式会社では機関設計の柔軟性といった違いがありますが、三浦法律事務所のベトナム拠点設立にあたって出資者は三浦法律事務所のみですので、おのずと会社形態は「一人社員有限責任会社」となります。
3つの会社形態いずれもよくみますが、M&Aの対象会社が株式会社であれば株主が3名必要ですので、日本企業とベトナムのパートナー企業に加えベトナム人ファウンダーも株主にしたり日本側でSPCを作って株主としたりします。
3. 機関設計(総論)
会社形態を決めると次に機関設計を決める必要があります。会社形態ごとの機関設計は次のとおりであり、ベトナム会社法上の機関設計は複雑です。
三浦法律事務所のベトナム拠点は上述のとおり「一人社員有限責任会社」(SINGLE-MEMBER LIMITED LIABILITY COMPANIES)として設立しました。そして法人を社員とし、「会長、社長」のモデルを選択しています。
また、株式会社の機関設計についても上述のとおり2つのモデルから選択することができますが、取締役の20%以上を独立取締役(会社法155条2項に定義があります)とするハードルは高く、【機関構成①】を選択することが一般的です。また、ベトナム人数人のファウンダーで設立された株式会社は株主数が11人未満という要件を満たし、監査役会が設置されていないことが一般的ですが、他方で、日本企業がM&Aによりこのような株式会社の株式のマジョリティを取得した場合、「持株比率が50%を超える法人株主がいない場合」という要件を満たさなくなるため、監査役会の設置が必要となる点に注意が必要となります。
4. 法定代表者
ベトナム会社法において代表権を有する者(The enterprise’s legal representative)は「企業の取引から発生する各権利を行使し、義務を履行する際に企業を代表し、(中略)法令の規定に基づくその他の権利、義務につき企業を代表する個人」(会社法12条1項)と定められています。法定代表者は企業登録証明書(ERC)にも記載されます。法定代表者は1名選任することも複数選任することもできますが(会社法12条2項)、複数選任する場合は取締役会議長と社長は必ず法定代表者となります(会社法137条2項)。
ベトナム会社法では、「法定代表者」の権限は会社の機関(社長や取締役会議長の権利義務)としての権利義務とは必ずしも連動しません。ベトナム会社法12条2項において複数の法定代表者を選任した場合の権利義務の分掌については定款で定めるとされているため、実務上は、定款上、法定代表者(取締役会議長)は他方の法定代表者(社長)の承諾がなければ会社名義での取引を実施してはならないとしておくことがあります。
日本側とベトナム側とで合弁会社を設立する場合、それぞれが取締役会議長と社長のどちらかを指名することが一般的ですが、その際、取締役会議長と社長の権限・役割をきちんと理解した上で、取締役会議長と社長のどちらを指名することとするのかを決めることが重要です。
5. 取締役会、取締役会議長
取締役会は3名から11名の取締役で構成されます(会社法154条1項)。取締役会の定足数は4分の3(会社法157条8項)、決議要件は過半数とされています(会社法157条12項)。
取締役会議長の権限は、以下の通りとされています(会社法156条3項)。
a) 取締役会の活動計画を作成する。
b) 取締役会の議事次第、資料を準備し、取締役会を招集して議長を務める。
c) 取締役会の決議を行う。
d) 取締役会決議の執行状況を監督する。
e) 株主総会の議長を務める。
e) その他会社法・定款で定める事項
取締役会の決議において賛否同数の場合、取締役会議長が賛成票を投じた意見が決議内容とされ、取締役会議長がキャスティングボートを持ちます(会社法157条12項)。このような制度は日本の会社法においては採用されておらず、取締役会議長をベトナム側に譲る場合にはキャスティングボートが生じないような取締役の構成とする必要がある点に留意が必要です。
6. 社長
社長は会社の日々の業務執行を行う者と定義されています(会社法162条2項)。社長は必ずしも取締役の中から選任する必要はありません(会社法162条1項)。代表権を有する者が取締役でなくとも構わないという点では日本における指名委員会等設置会社と共通します。
社長の権限・義務は会社法162条3項に列挙されていますが、ベトナムにおいて取締役会議長は取締役会の運営を職務とし、会社の日常業務の責任者は社長とすることが一般的です。取締役会議長の英語表記はThe President of the Board of Directors、社長の英語表記はDirector/General Director.ですが、Presidentといった語感にかかわらず、合弁会社において取締役会議長か社長のいずれかをベトナム側に譲る必要がある場合には社長の指名権を日本側で確保しておくことが重要となります。
7. 監査役会
上述のとおり、株主が11人未満で、持株比率が50%を超える法人株主がいない場合、監査役会の設置は強制ではありません。監査役会の役割は取締役会及び社長による会社の管理・運営の監督であるとされています(会社法170条1項)。監査役会は3~5名の監査役により構成され(会社法168条1項)、監査役会において監査役の中から監査役会長が選任されます(会社法168条2項)。監査役の過半数はベトナム在住でなければならず(会社法168条2項)、日本側で複数の駐在員を出すことが難しい場合には、ベトナム側でベトナム在住者を選任してもらう必要があります。また、監査役会長は、経済、ファイナンス、会計、監査、法律、ビジネスアドミニストレーション等に関する大学以上の学歴を有している必要があります(会社法168条2項)。ここでいう「大学」は、必ずしもベトナムの大学である必要はなく日本の大学であっても良いと解されているようですが、在住者要件・大学の専攻に関する要件など、日本にはない要件が課されていることは興味深く感じました。
8. おわりに
いかがでしたでしょうか。会社のガバナンスは私が最も興味ある分野の一つですので、弊所のベトナム拠点設立をきっかけにベトナム会社法に触れてみました。今後もベトナムに関する情報を発信したいと思います。
次の写真は本年(2023年)7月にジャカルタで開催した東南アジアのリージョナルミーティングでの集合写真です。
Author
弁護士 三浦 亮太(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2000年 弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2000~2018年 森・濱田松本法律事務所。2019年に三浦法律事務所を旗揚げ。