招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.5:株主総会当日および総会後の事務
1. 当日の受付、集計
総会当日の受付の流れは、会社開催株主総会と変わるところはありません。
本人確認および出席票の交付
招集通知にあらかじめ総会出席にあたっては議決権行使書面を持参するよう記載しておき、受付時に議決権行使書面をもって株主であることを確認します。議決権行使書面を忘れた株主の本人確認方法としては、身分証明書を提示させ、株主名簿と照らし合わせることが考えられます。また、Vol.4で紹介したように、株主には出席票を交付し、入退場を管理します。
2. 投票用紙の交付
当日、投票の可能性がある場合は、投票用紙を作成しておき、出席者に交付します。その場合、あらかじめ投票用紙に番号を付し、交付した投票用紙と株主を紐づけられるようにしておけば投票の集計作業が行いやすくなります。筆者らが関与した件では、議決権行使書面に株主情報を記録したバーコードを付しておき、当該バーコードで議決権数等の株主情報を読み取り、投票用紙の番号を紐づけることでデータ管理する方法を採用しました。
3. 株主総会後の取締役会
株主が招集する株主総会において、取締役の選解任が行われた場合、新たなメンバーの中で誰を取締役社長等に選定するかが決まっていません。このため、定款にこれらの職位にある者が議長となる旨の定めがあったとしても、自動的に議長が決まるわけではありません。したがって、取締役会開始後、直ちに仮議長を取締役の互選によって定め、これらの職位の者が選定された時点で議長を交代することとなります。この点は定時株主総会後の取締役会と同様の手続きとなります。
4. 株主総会議事録
株主が招集した株主総会については、招集株主が株主総会の議事録(会社法318条、施行規則72条)を作成するとされています(奥島 孝康ほか『基本法コンメンタール 会社法2(第2版)』(日本評論社、2016)55頁)。最終的な議事録の作成者は招集株主の代表者となるのが通常でしょう。
なお、株主総会議事録は役員変更等の登記申請の添付書類とされているところ、決議事項が登記事項である場合には決議の日から2週間以内に本店所在地において変更の登記を行う必要があるため、早期に議事録を作成する必要あります。
5. 株主総会議事録等の備置
株主が招集する株主総会についても、株主総会議事録の原本を本店において総会の日から10年間(写しを支店において総会の日から5年間)備え置く必要があります(会社法318条2項・3項)。
また、委任状および議決権行使書面についても、株主総会の日から3か月間、本店に備え置く必要があります(会社法310条6項、311条3項)。これらについて他の株主は、委任状および議決権行使書面の閲覧・謄写を請求することができます(会社法310条7項、311条4項)。株主が招集する株主総会に関しては決議取消訴訟が提起される可能性もあるため、これらの書面についても適切に作成の上、備え置く必要があります。
6. 開示関係書類適時開示、臨時報告書
上場会社は株主総会等により、一定の重要事項の変更を決定した場合には適時開示が求められます(上場規程402条)。また、株主総会において決議事項が決議された場合、遅滞なく臨時報告書を提出することにより、議決権行使結果を公表しなければなりません(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項9号の2)。
株主開催総会についても、会社において、当該適時開示および臨時報告書を作成し提出する必要がありますが、仮に招集株主が経営権を獲得する場合には、その後は招集株主が作成、提出することとなりますので、この点を含めた手続準備が必要となります。
7. その他の手続き
株主招集総会において取締役の選解任が行われる場合、解任される旧経営陣と新たに選任される経営陣との間で十分な引継ぎがなされないことが考えられます。したがって新経営陣としては、自身が行った行為かどうかを明確にする意味で会社印、代表印等を新たなものに変更することも考えられます。
Authors
弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。
弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。
弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。
弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。
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