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招集株主による上場会社の株主総会開催の実務 Vol.5:株主総会当日および総会後の事務

1. 当日の受付、集計

総会当日の受付の流れは、会社開催株主総会と変わるところはありません。

本人確認および出席票の交付
招集通知にあらかじめ総会出席にあたっては議決権行使書面を持参するよう記載しておき、受付時に議決権行使書面をもって株主であることを確認します。議決権行使書面を忘れた株主の本人確認方法としては、身分証明書を提示させ、株主名簿と照らし合わせることが考えられます。また、Vol.4で紹介したように、株主には出席票を交付し、入退場を管理します。

2. 投票用紙の交付

当日、投票の可能性がある場合は、投票用紙を作成しておき、出席者に交付します。その場合、あらかじめ投票用紙に番号を付し、交付した投票用紙と株主を紐づけられるようにしておけば投票の集計作業が行いやすくなります。筆者らが関与した件では、議決権行使書面に株主情報を記録したバーコードを付しておき、当該バーコードで議決権数等の株主情報を読み取り、投票用紙の番号を紐づけることでデータ管理する方法を採用しました。

《実務のポイント》議場での投票のやり方
投票の集計においては当日出席の株主について議案ごとの賛否の議決権数を集計し、さらに事前集計分との重複を差し引いた上で、当日出席者分と合算する作業が必要になります。
 
方法としては、当日出席の株主にそれぞれ総会の出席番号を割り振った出席票とバーコード付きの投票用紙を配布し、受付時に出席番号と株主情報(株主番号、議決権数等)を紐づけたリストを作成した上で、投票の際には投票用紙に記載されたバーコードを読み込むことで賛否を記録するやり方などがあります。
 
さらに、当日出席する株主の中には、すでに委任状や議決権行使書面を提出済みの株主がいる可能性があります。この場合、議場での議決権行使が優先するため、事前に集計された委任状や議決権行使書面の議決数から除く必要があります。具体的にはデータ上で委任状や議決権行使書面を提出している株主情報を管理しておき、出席株主が持参した議決権行使書面のバーコードで読み取った株主情報と照らし合わせて重複されている議決権行使をすぐに確認できるようなデータを作成しておくことが考えられます。

3. 株主総会後の取締役会

株主が招集する株主総会において、取締役の選解任が行われた場合、新たなメンバーの中で誰を取締役社長等に選定するかが決まっていません。このため、定款にこれらの職位にある者が議長となる旨の定めがあったとしても、自動的に議長が決まるわけではありません。したがって、取締役会開始後、直ちに仮議長を取締役の互選によって定め、これらの職位の者が選定された時点で議長を交代することとなります。この点は定時株主総会後の取締役会と同様の手続きとなります。

4. 株主総会議事録

株主が招集した株主総会については、招集株主が株主総会の議事録(会社法318条、施行規則72条)を作成するとされています(奥島 孝康ほか『基本法コンメンタール 会社法2(第2版)』(日本評論社、2016)55頁)。最終的な議事録の作成者は招集株主の代表者となるのが通常でしょう。

なお、株主総会議事録は役員変更等の登記申請の添付書類とされているところ、決議事項が登記事項である場合には決議の日から2週間以内に本店所在地において変更の登記を行う必要があるため、早期に議事録を作成する必要あります。

《実務のポイント》
このように招集株主は議事録の作成をする必要がありますので、あらかじめ株主総会議事録の作成の基礎となる記録を取る者を用意しておく必要があります。また、株主総会議事録はその後の役員変更登記申請の際の添付資料となるため、あらかじめ商業登記の経験が豊富な司法書士に相談し、総会後の手続きについても準備しておく必要があります。

5. 株主総会議事録等の備置

株主が招集する株主総会についても、株主総会議事録の原本を本店において総会の日から10年間(写しを支店において総会の日から5年間)備え置く必要があります(会社法318条2項・3項)。
 
また、委任状および議決権行使書面についても、株主総会の日から3か月間、本店に備え置く必要があります(会社法310条6項、311条3項)。これらについて他の株主は、委任状および議決権行使書面の閲覧・謄写を請求することができます(会社法310条7項、311条4項)。株主が招集する株主総会に関しては決議取消訴訟が提起される可能性もあるため、これらの書面についても適切に作成の上、備え置く必要があります。

6. 開示関係書類適時開示、臨時報告書

上場会社は株主総会等により、一定の重要事項の変更を決定した場合には適時開示が求められます(上場規程402条)。また、株主総会において決議事項が決議された場合、遅滞なく臨時報告書を提出することにより、議決権行使結果を公表しなければなりません(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項9号の2)。
 
株主開催総会についても、会社において、当該適時開示および臨時報告書を作成し提出する必要がありますが、仮に招集株主が経営権を獲得する場合には、その後は招集株主が作成、提出することとなりますので、この点を含めた手続準備が必要となります。

《実務のポイント》
これらの開示は株主総会後に遅滞なく行う必要があるため、事前に会社側の代理人を通して、会社が使用していた各種開示書類のフォーマットの取得しておくことも検討の余地があるでしょう。なお、検査役に対し、総会の出席者人数等総会当日の情報提供にあたって、これら適時開示、臨時報告書の資料等も提出することとなります。

7. その他の手続き

株主招集総会において取締役の選解任が行われる場合、解任される旧経営陣と新たに選任される経営陣との間で十分な引継ぎがなされないことが考えられます。したがって新経営陣としては、自身が行った行為かどうかを明確にする意味で会社印、代表印等を新たなものに変更することも考えられます。

《実務のポイント》株主開催総会で選任された取締役の任期はいつまでか?
株主開催総会において、任期中の取締役が解任され、株主が提案する候補者が新取締役に選任された場合、当該新取締役の任期は解任された取締役に予定されていた任期まででしょうか。あるいは任期が新たにカウントされ直すのでしょうか。見落とされがちな論点ですが、任期中の取締役を解任し、新任取締役を選任する議案を検討する際には、実務上、意識されるべきポイントの一つであるためご紹介します。

取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する最終事業年度に関する定時株主総会の終結までとされています(会社法第332条第1項本文)。しかし、任期途中で取締役が死亡等の事情で交代する場合、臨時株主総会で選任される新取締役はあくまで補欠として一時的に選任される場合が通常だと思われます。そのため、このような場合に備え、定款で新取締役の任期を前任者の残任期のみとして任期を短縮することが認められています。(同条同項但書)。

取締役が任期途中で選解任される場合にも、新任取締役が、通常の取締役として新たに2年の任期を有するか、補欠選任の取締役として前任者の残任期のみを有するか、その解釈が問題となることがあります。

新たに選任される取締役が通常の任期での取締役かまたは補欠選任の取締役であるかは、選任された株主総会の意思によって定まると考えられています(監査役の補欠選任の場合につき、稲葉威雄ら編著『実務相談株式会社法Ⅰ(新訂版)』(商事法務研究会、1992)640頁)。このため、いずれであるかは議案の中で明示される必要があり、補欠選任であることが明示されない限りは通常任期の下に選任されたものと考えられています(中村直人編著『取締役・執行役ハンドブック(第3版)』(商事法務、2021)38頁)。

通常、招集株主としては、株主開催総会で選任される取締役には新たに2年の任期を与えたいと考えるケースが多いと思われます。このため(補欠選任であることを明示しない限りは通常選任と考えられるものの)、上記補欠選任の取締役に関する定款の定めがある会社の場合には、解釈上の疑義を避けるため、招集通知の議案において「定款〇(注:該当条文を記載)条の定めにかかわらず、通常の任期の新任取締役として選任する」といった趣旨の文言を盛り込み、通常の任期での選任であること(補欠としての選任でないこと)を明確にすることも考えられるでしょう。


Authors

弁護士 鍵﨑 亮一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2002年弁護士登録(東京弁護士会所属)。02年~11年牛島総合法律事務所、12年~17年株式会社LIXIL法務部、17年~18年LINE株式会社法務室勤務を経て、19年1月から現職。

弁護士 今村 潤(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2011年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2019年税理士登録(東京税理士所属)。12年~15年共栄法律事務所、15年~18年関東財務局において統括法務監査官として勤務。19年1月から現職。

弁護士 小倉 徹(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)。16年~18年ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)を経て、19年1月から現職。

弁護士 小林 智洋(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2017年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。17年~19年渥美坂井法律事務所・外国法共同事業を経て、19年10月から現職。

三浦法律事務所 商事紛争プラクティスグループについて
三浦法律事務所の商事紛争プラクティスグループでは、会社の支配権を巡る訴訟・仮処分、組織再編の効力を巡る訴訟・仮処分、株主名簿・取締役会議事録・会計帳簿等の閲覧謄写請求事件、株主代表訴訟など、商事訴訟・非訟事件全般に関する多くの案件を手掛けています。

また、上場会社における敵対的な公開買付け・委任状勧誘や非公開会社の役員解任及び責任追及、少数株主としての株式買取請求などについても豊富な知識、経験を有しています。


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