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日本語教師のための"正しい"辞書の使い方とその指導

はじめまして。miu7200です。
この度ながさわさんの『使える!国語辞書:日本語教師読本4』を読んで、きちんと感想をまとめてみたく、このため(だけ)にnoteを始めました。長文を書くのが久しぶりすぎて心許ないですが、日本語教育に携わるみなさま、また辞書を使う多くの方にお読みいただければ幸いです!


Ⅰ.はじめに 〜この記事の経緯と目的〜

0.1 まずはこれ、ながさわ著 『使える!国語辞書』

まずはこちらをお読みください。日本語教師のために、国語辞典の基本的な使い方から各辞書の特徴に至るまで、わかりやすくまとめられている名著です! 「日本語教師だもの、国語辞典ぐらい引いたことあるよ」なんて言わずに、どうか読んでみてください。きっと新しい発見がいっぱいだと思いますよ〜。Kindleで1人100冊ずつ買って読みましょう! この記事を先に読んでいただいてもだいじょうぶですが、本編はこちらの本なので、ぜひ合わせてどうぞ。
<紙版も発売されました。詳しくはこちら 版元の紹介ページ


さて、国語辞典は、現在のところ日本語母語話者を想定して作られており、「話すため」「書くため」の辞書、つまり「発信用」としては、まだまだ弱いといわざるをえません。そんな中ながさわさんが、「こういう部分は発信用として使えるよ!」ということを、『使える!国語辞書』の中でどしどし書いているではありませんか。

さすが、本当によく辞書を読んでらっしゃる。すごいすごい! と夢中で読みました。ならば、私はその内容にプラスして、中級以上を教える日本語教師が知っておくとさらにいいことを、まとめてみたいと思ったのです。

ながさわさんが国語辞典というもののあり方全般、そして一つ一つの辞書の特徴について詳しく分析してくださっているので、私は発信用として辞書を使っていくために、「機能別」といいますか、「目的別」にざっくり述べていきたいと思います。

そして、ながさわさんは「(現在入手しやすい)国語辞典に絞って書く」という依頼を受けて執筆されたそうですが、私は実際に日本語教師や学習者が使うということも考えて、国語辞典以外の辞書もご紹介しています。当然ながさわさんと重複する点も出てくるかと思いますが、そこはご容赦くださいね。


■ここで自己紹介 〜miu7200とは〜

□ながさわファン
ながさわさんには、辞書仲間としてちょくちょくお目にかかることがあります。ながさわさんという人は、国語辞典に対する知識・情熱が並々ならないだけでなく、飄々としかつ爽やかで、私はもうとにかくながさわさんの大ファンだし、なんなら会った人全員ながさわさんのファンですね。

本当は、私もながさわさんと同じく「辞書マニアです!」と名乗りたくてたまらないのですが、大学院で国語辞典について専門的な指導を受けておきながら「マニアです」と名乗るのはまたちょっと違うかなと、いつも逡巡しています。でもまあ、辞書沼に棲息しているモノだと思っていただいて間違いありません^^

□元日本語教師
420時間の研修および日本語教育能力検定合格+大学院で日本語学をやりましたので、日本語教育についてひととおりのことはわかるといってよいかと思います。教歴はわずか3年半ほどで、その後は英会話講師に転向し、経験は英語の方がずっと長いです。元日本語教師の知見を活かし、日本語母語話者がどうしてその英語を間違っちゃうのか解説すると、だいたい「目ウロコです!」と言っていただけるので、毎日とても楽しいです。

いちおう最終学歴は早稲田大学文学学術院博士後期課程を中退したということになりますが、身元を明かしたいわけではないので何年卒とか突っ込まないでね。。


0.2 この記事の目的 〜発信のための辞書引き〜

本記事の目的は、『使える!国語辞書』に加えて「日本語学習者が日本語を書く・話すという目的で辞書を引こうとしたとき、自分で辞書を引けるようになるため、またその指導をするために知っておくべきこと」をお伝えすることです。

0.2.1 辞書を自分で引けるようになる
私は、学習者が自身で辞書を引けることは、とても大切だと考えています。なぜかというと、文法は有限なのに対し、語彙・表現は、実質無限だからです。

文法は、習ってきちんとマスターすれば、それで終わりにすることが可能です。基礎的な文法の学習が永遠に続くということはありません。しかし、語法やコロケーション、さまざまな表現ということになると、これは(たとえ自分の母語であっても)学習が終わることはありません。語彙・表現は人から習うのでは限度があり、自分に必要なものを自力で身につけていかなければ、上級、その上への道はなかなか開けないでしょう。そこで、自分で辞書を引き、自力で身につけるということが、とても有効なのです。

0.2.2 発信のために辞書を使う
残念ながら現行の国語辞典には、「発信のため」に必要な情報をしっかり盛り込むことを第一の目的に作られたものはありません。しかし、ながさわさんも書かれていた通り、発信用に使うことができる部分もたくさんあります。その観点を、私は以下の点に絞ってご紹介したいと思います。


 1. 漢字を使えるようになりたいときに見るべき辞書

 2. 正しい助詞が選べるようになりたいときに見るべき辞書
  2.1 ナ形容詞・名詞編
  2.2 動詞基本構文編

 3. 中型辞典の注意点 〜広辞苑・大辞林・大辞泉〜

 4. 電子版について

発信のための要素はこのほかにも数多くありますが、このエントリーの本編ともいうべき『使える!国語辞書』を読んでいただければ十分であることが多く、また漢字助詞日本語学習者を悩ます2大ポイントかと思いますので、ここに絞ることとしました。3.と4.はオマケです。

では、中身の方に移っていきましょう。


Ⅱ.発信のための辞書の見方

1. 漢字を使えるようになりたいときに見るべき辞書

まず漢字の表記について、国語辞典の中で常用漢字表外字送り仮名などがどのように示されているかは、『使える!国語辞書』をお読みのみなさんはおわかりかと思います。そこで、「この漢字の意味は?」「どうやって使えるの?」「どういう熟語があるの?」ということをもう一歩踏み込んで調べたいときどうしたらよいか、お話したいと思います。

1.1 漢和辞典はダメ
漢字を辞書で調べようと思ったとき、真っ先に思いつくのが漢和辞典。………という方、残念ながらその考えは改めていただかねばなりません。なぜなら、漢和辞典は漢文を読むための辞書だからです。

「漢和辞典」という名称をよくみてみてください。何と似てますか? 「漢和辞典」と似ているのは、「英和辞典(=英語と日本語の辞書)」とか「露和辞典(=ロシア語と日本語の辞書)」などですね。そうなんです、漢和辞典は、英和辞典や露和辞典と同じく、二言語辞書なんです。「(漢をはじめとする)古代中国語で書かれた文章を日本語に訳すための辞書」、それが漢和辞典なのです。

とはいえ漢和辞典の作りはとても親切なので、「日本語としての漢字」の情報もずいぶん載っています。しかし、学習者にとって、どこまでが古代中国語の意味で、どこからが日本語の意味として通用するのかを見分けるのは至難の技です。漢和辞典は日本語学習者が使うのには向いていないということを、よく覚えておいてください。

(漢和辞典は二言語辞書だという事実がまったく知られていないことは不思議ですね。そして、困ったことだと思います。ぜひ豆知識として、周りの人にも広めてくださいね!)

1.2 オススメは、小学漢字辞典!
漢和辞典がダメなら何を見ればいいの? とお思いのことと思います。選択肢はいくつかありますが、まずオススメしたいのは、小学生向けの漢字辞典です。上にお話した通りですので、小学生向けの漢字の辞書に「漢和」と冠しているものは、(今は)ありません。「(日本語の)漢字の辞典」なので、「漢字辞典」です。

そして、子供用と侮るなかれ、日本語能力試験N1相当がおよそ2000字、常用漢字が約2000字であるのに対し、小学生向け漢字辞典は概ね3000字を超える漢字を収録していますし、内容的にも十分中上級向けの使用に堪えます

引き方は、読みがわかる漢字の場合、音訓さくいんを使って読みから引くことができます。そして、読みがわからなくても画数や部首から引けるというのが、漢字辞典の強みですね。この点を忘れずに指導してあげてください。

小学生向けでオススメしたいものは、2つに絞りました。ひとつは三省堂の例解小学漢字辞典、もうひとつは小学館の例解学習漢字辞典です。

まず、両辞書に共通しているのは、総ルビであるという点です。本文やコラムなども含め、すべての漢字にふりがながついていますので、中級からでも引けると思います。そして、同音の漢字の使い分けや、その他のコラムも、それぞれに充実していておもしろく、漢字のみならず、日本の文化や生活について触れるという点でも役立つことでしょう。

中身を、まず三省堂の方からみていきます。

パンダ版もクソかわいいです!(中身は同じ)

三省堂の特徴は、なんといってもUDデジタル教科書体で書かれていること。色使いなども工夫されていて、多様性に配慮しているのがいいところ(詳しくはこちらの動画で!)。細かい字体の差、書体による線の違いは、時に日本語学習者を悩ませるものですが、三省堂の小学生用辞典は、UDデジタル教科書体で安定の読みやすさを実現しています。(UDデジタル教科書体は、Windows 10などに搭載されていることがありますので、使える方はぜひ使ってくださいね!)

そしてもうひとつ特筆すべきは、熟語例が意味ごとにまとまっていることです。

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「❶〈あそぶ〉の意味で」「❷〈あちこちへ行く〉の意味で」のように、漢字の意味と使い方が、よく整理されているのがわかります。

続いて、小学館の漢字辞典をみてみましょう。

アニメ好きならドラえもんバージョンも。

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図版もなかなかよいですね。そして、熟語の欄は、漢語だけに限らずその漢字を含む複合語や慣用表現までを広く採録しています。小学館の方は、電子版があるのも魅力です。(電子版は下の4.でご紹介します)

いかがでしょうか。小学生用の漢字辞典でも、中級から上級にかけての内容が、かなり広くカバーされているということがおわかりいただけたかと思います。

1.3 国語辞典で漢字を調べる
あまり知られていないことですが、日本語の漢字を調べたいなら、実はもうひとつの正解は、国語辞典に当たることです。漢字辞典が入手できればよいのですが、予算やスペースの都合で1冊で済ませたいのでしたら、国語辞典で調べるのもひとつの選択肢です。中級向けにはやはり漢字辞典がよいですが、上級ならば国語辞典でいける人もいるでしょう。

漢字を調べるなら、岩波国語辞典(岩国)新明解国語辞典(新明解)が特にオススメ。なぜならこの2つの辞書は、単漢字項目があり、熟語を構成する漢字を1つずつ取り出して説明してくれているからです。

まずは岩国から見てみましょう。こちらは岩国の「てい」のページです。音読みが「てい」の漢字がズラリと並んでいます。

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例えば「贈呈する」の「呈」ってどういう意味? どうやって使うのだろう? と思ったときは、ここを見ます。「呈」は、このように説明されています。

てい【呈】(異体字は省略)
テイ・あらわす・あらわれる
①すすめる。さし出す。さしあげる。「呈出・呈上・進呈・献呈・贈呈・謹呈・奉呈・捧呈」
②正直でかくさない。むきだし。あらわす。あらわれる。しめす。「呈示・露呈」

意味と使い方がよくわかりますね。同じものを、今度は新明解で見てみましょう。新明解の単漢字項目は、このように赤枠で囲まれています。

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新明解では簡単に、

【呈】 あらわれる。あらわす。「呈示・露呈」
→(本文)てい【呈】

となっていますが、本文の方を見ると、

てい [1] 【呈】
「さしあげること」の意の改まった表現。
「目録━・━目録〔=目録をさしあげます〕・━上・進━」

と示されています。「呈示」「露呈」のほかに、「呈目録」「呈上」「進呈」などの使い方ができるということがわかりますね。これらの熟語の意味がわからなければ、国語辞典ですからそのまま熟語の意味を調べることもできます。

このように、国語辞典は単語の意味を知るだけでなく、漢字の意味について調べることができ、どんどん語彙を増やして使えるようにしていく、という役割も持たせることができるのです。

そうそう、大辞林大辞泉にもちゃんと単漢字項目がありますので、中型辞典をお持ちの方はそちらもいいでしょう。それから広辞苑は書籍版が分冊になっていて、その別冊の方に「漢字小辞典」という形で入っています(これは便利!)。中型辞典の使い方は、下の3.にまとめてありますので、そちらもお読みいただければと思います。

1.4 オマケ
「漢字辞典」で検索すると、こちらがヒットすることもあるかもしれません。

こちらは小学生向けを除けば唯一の「日本語の漢字」のために作られた字典です。でも、学習者が自力で引くには親切な作りになっていないこと、収録字数が必要以上に多いこと、そして価格帯がだいぶ上だということもあり、特にお勧めはしていません。


2. 正しい助詞が選べるようになりたいときに見るべき辞書

次に、助詞のお話をしていきます。まずは、ナ形容詞と名詞について、次いで動詞の文型を構成するようなタイプの助詞についてみていきます。

2.1 ナ形容詞・名詞編

日本語を教えていると、ナ形容詞まわりはそんなにスッキリと割り切れないということに気づかれると思います(それを言ったらどこもかしこも割り切れない気もしますが😅)。語幹が名詞としても使えるものとそうでないものがあったり、「〜な」ともいえるけれど「〜の」ともいえるものもあり、また「〜に」という形が実質的にはないものなど、いろいろなパターンが存在していて、非日本語ネイティブには難しいポイントです。

ここで「ナ形容詞」と呼びましたが、学校文法では「形容動詞」、日本語教育では「ナ形容詞」と呼んだり「ナ名詞」といったり、流派はいろいろですね。細かいことをいうのはめんどうなので、ここでは便宜的に「ナ形容詞」に統一したいと思います。(「ナ形容詞相当のものを各辞書がどのように表示しているか」を示しているのであって、各辞書が「ナ形容詞」という用語ないし品詞を使っているまたは認めている、ということではないことにご注意ください)

では、さっそく見ていきましょう。

2.1.1 ナ形容詞に強いのは岩国
国語辞典の中でこの点について詳しいのは、ダントツで岩波国語辞典です。岩国は、独自の「語類」という分類を使って、名詞とナ形容詞の境目のような、品詞分類の難しい点を、辞書の中に記述しようと試みています。

まずはもっとも典型的なナ形容詞から見てみましょう。

しずか【静か】《ダナ》 動き・乱れがなく落ち着いたさま。(後略)
げんき【元気】《名・ダナ》 ①活動のもとになる気力。(後略)

この《ダナ》の部分が、岩国において「ナ形容詞である」ということを示す記号です。「元気」の方は、「元気がいい」「元気を出す」のように名詞としても使えるので、《名・ダナ》という記号で、「名詞およびナ形容詞だ」ということが示されています。

しかしこの記号、なぜ《ナ》ではなく《ダナ》なのでしょうか。ナ形容詞だということを示すには《ナ》だけでもよさそうです。岩国がこれを《ナ》としないのは、典型的でないものとの区別を細かくつけていくためです。そこで、「不明」という語を見てみましょう。

ふめい【不明】
《名ノナ》明らかでないこと。はっきりとは分からないこと。 (後略)

こちらは《名ノナ》という記号です。これは、不明という語が「不明点がある」とも「不明点がある」ともいうことができるということを表しているのです(「不明の」は不自然に感じる人もいるかもしれませんが、コーパス等で実例が確認できます)。これは、自分で表現ができるようになりたい非母語話者にとっては、とても重要な情報ですね。

もうちょっと詳しくいうと、岩国が《ダナ》とするものには、さらに細かい条件があるんです。これを巻末の「語類概説」で見てみましょう。これによると、岩国では

(1) 「ーに」という形が「する」「なる」以外の語を広く修飾する
(2) 連体修飾が「ーな」である
(3) 原則としてすべての活用形がそろっている

この3つの条件に当てはまるもののみを一般的なナ形容詞だと認め、それらに《ダナ》《名・ダナ》という記号を付すとしています。

条件(1)は、たとえば「元気」であれば、「元気に歩く」「元気に笑う」のように、「元気」がさまざまな動詞を修飾できるのに対し、「有能」「過多」などは「なる」「する」以外のものが接続しにくいという特徴がある、ということです。

この基準に照らしてみると、「不明に」は「なる」「する」しか接続できないことに気づきます。そして「ーの」に接続するという性質も鑑みると、「不明」は典型的なナ形容詞ではないことがわかります。そこで《名ノナ》という記号がつくこととなったんですね。

岩国では《ダナ》《名ノナ》の他にももう少し細かく分類が施されており、「名詞に何が後接するか」という点においては、やはり岩国が一歩先んじているといってよいでしょう。

2.1.2 新明解との比較
新明解では、ナ形容詞はこのようになっています。

⁑しずか [1] 【静(か)】(━な ━に)
①(うるさいと思うような音や声も聞こえず)騒音にわずらわされることのない状態(で何かが出来る様子)だ。 (後略)

新明解では、(ーな ーに)というのが、一般的なナ形容詞の印です。こちらもやはり、単純な「ナ」だけの記号にはしていませんね。新明解では、次の例のように「ーに」の形をとりにくいものを、(ーな)としています。

たぼう ⓪ 【多忙】(━な)
仕事が多くて、くつろぐひまが無い△こと(様子)。 (後略)

多忙は岩波では《名ノナ》となっており、やはり「の」が接続することは、新明解では項目内では明示されていません。

もう少し見てみましょう。

<岩国>
へいき【平気】 ①《名ノナ》 物事に驚き騒がず、いつもの心でいること。(略) ②《名》落ち着いて穏やかな気持ち。(後略)
<新明解>
へいき【平気】(ーな ーに) いかなる外的事情にあっても気にすることが全く無く、悠然として平常心を失わない△こと(様子)。

こうしてみると、再び岩国は「平気の」という形を拾い、新明解はそれを落としているかのように見えます。しかし、新明解はこの後「運用」欄が続き、より詳しい解説をみせてくれます。

[運用]
⑴感動詞的に、相手に対して、自分のことで心配するには及ばない、という意を表わすのに用いることがある。例、「『送って行こうか』『平気、平気、ひとりで帰れるから』」
⑵「平気で」の形で、副詞的に用いる時には、他人に迷惑をかけたり 他人の感情を害したり していることに無自覚である相手の言動を非難して言うことがある。例、「何度注意されても平気で遅刻する/道ばたに平気でごみを捨てる不届き者」

いかがでしょうか。「平気」については、やはり新明解に軍配が上がりますね。細かい点ではそれぞれに良さがあり、優劣はつけがたいものです。

2.1.3 その他の辞書では
他の辞書では、ナ形容詞について詳しく分析されていないものが多いです。例えば三省堂国語辞典(三国)でこれらの語を見てみましょう。

静か (形動ダ)
元気  一.(名) 二.(形動ダ)
不明 (名・形動ダ)
多忙 (名・形動ダ)
平気 (名・形動ダ)

(形動ダ)が、三国においてナ形容詞を表す記号です。どの語も「一般的なナ形容詞である」という以上のことは言っていません。多くの国語辞典でこのような扱いになっており(なぜならこれは母語話者向けには優先度の低い情報だから)、大辞林大辞泉でも事情はほぼ同じです。

広辞苑の場合は、そもそも「ナ形容詞」ないし「形容動詞」という品詞がありません(形容動詞/ナ形容詞という品詞を認めない文法学者もいるのです)。上の語を広辞苑で引くと、品詞の記号はすべて無印、つまりすべて名詞。ベースとなる文法的な考え方によって、どんな情報が書かれているのか(またいないのか)はまったく違うんですね。

このように、辞書によって、また語によって、カバーできていること、いないことが大幅に異なるというのは当たり前にあることです。ですから、どれかひとつの辞書だけ引いてそれで完璧、ということにはなかなかなりません。これはどこの国のどの言語の辞書でも、ある程度同じです。辞書はそれぞれに編集方針が異なり、どうしても限界はあります。各辞書の性質を知った上で、目的に合った使い方ができるのがベストだといえるでしょう。

ナ形容詞の細かいバリエーションについては、下の2.2.2でご紹介するコロケーション辞典をみてみるのもひとつの手だと思います。コロケーション辞典は語の意味は載っていないので、意味は別途辞書で調べる必要はあります。

ちなみに私自身は、岩国のこの名詞やナ形容詞についての情報、使うことはあまりありません。母語話者なので直感でかなりいけちゃいますし、岩国のことば遣いがちょっと古めで使いたい文体と合わないこともあります。また、実態と合っているのかというと、院生のころ調査したときには(当時まだ8版ではなかったけど)、えーっと、ごにょごにょごにょ。。つまり、学習者に指導するときには、「岩国ではナがつくかノがつくかなどを調べることができるけど、それはあくまで目安として役立ててね」と伝えることが大切なのではないかと思っています。

辞書の情報は、独習をどんどん進めたい学習者にとっては非常に有用なものです。上に述べたように、うまく合わないこともあるかもしれませんが、辞書の情報が完璧でないことは、原理的にしかたのないことだと考えるべきなのだと思います。情報は絞られていることに意味がある場合もありますし、ちょっと考えればすぐわかることかと思いますが、すべての言語情報を盛り込むということがそもそも無理ですしね。もちろん日々研究が重ねられており、改訂で改善されることもたくさんありますので、それを楽しみにしたいものです。

少し話がそれました。完全なものではありえないのですが、岩波国語を眺めていると、日本語の名詞ナ形容詞副詞(《ダナノ・副》や《副・ノダ》などもあるんです!)の3品詞が、それぞれ近接した領域にあるということを、こんなにもよく映し出していることに感動してしまいます。大好きな辞書のひとつです。

新明解にはトリコロール装丁(赤版・青版・白版)がありますが、いずれも中身は同じだということになっています。新明解というと、どうしてもおもしろ語釈が注目されてしまうのですが、次の動詞基本構文でも活躍します。今日はぜひ、「新明解は、"だけじゃない"!」って覚えて帰ってくださいね〜!

➡️2020年12月追記
2020年11月、新明解8版、出ました! 漢字項目の囲みの線が、赤ではなく黒になってしまいましたが、辞書全体の特徴は大きく変わっていないと思います。細かいところまで改訂されていますので、これから買う方はぜひ最新版を。8版もトリコロールあるので、3冊買うのも楽しいですね!(?) 物書堂版も出ています



2.2 動詞基本構文編

続いて、動詞の基本構文の国語辞典における扱いについてお話します。

動詞の基本構文とは、動詞がどんな格助詞を伴って使われるかということです。これを「文型」と呼ぶこともありますね。例えば「貸す」には「(人)ニ (物)ヲ」が、「借りる」なら「(人)カラ (物)ヲ」といった助詞がつきます。しかし、ここはオマケコーナーだと思っていただければよいかと思います。なぜならここで触れることは、『使える!国語辞典』を読めばちゃんとわかることだからです。

動詞の文型をきちんと扱っているのは、新明解国語辞典、それから小学館の日本語新辞典(日本語新)です。ながさわさんはこの2つの解説をしっかりしてくれていますが、離れた場所に書いてあるので慣れない方は頭に入っていないのではないかと思い、念を押したくなってこのコーナーを作ってみました。

2.2.1 新明解と日本語新
新明解と日本語新のどちらがよいかは、正直ちょっとわかりません。どちらも良さがあります。たとえば「反射する」などは、新明解ではこうなっています。

*はん しゃ [0]【反射】
[一]━する(自他サ)〈なにニ━する/なにヲ━する〉光・電波などが、何かの表面に当たって跳ね返ること。
「△西日がビルの窓ガラス(ビルの窓ガラスが西日)━する」
「━光線・━鏡〔=光・熱を反射して、一か所に集める凹面鏡〕」
[二](省略)

「なにニ」「なにヲ」という情報がしっかり書き込まれており、用例もそれに対応した形になっています。一方、日本語新は、この「反射する」について基本構文の型を載せていません。

しかし、新明解になくて日本語新にあるものもあります。新明解では「ぶつ」は重要語に選定されておらず、基本構文は載っていません。日本語新で「ぶつ」を引くと、以下のように、基本構文の型が示されています。

ぶつ【打つ・撃つ・撲つ】《他タ五》(「うつ(打)」の変化)
〔ヒトヲ、モノデ〕手や棒で相手の体を打つ。たたく。
(例)お尻をぶつ/背中をひどくぶたれた

ここでもうひとつだけ取り上げたいのは、明鏡国語辞典です。明鏡は、日本語教育に資することを意識して作られており、基本方針として

語の用いられ方文型を踏まえて、それぞれの語の意味を記述する。

としています。例文なども、文型(基本構文の型)を視野に入れて書かれているのではと思えるものが多くあります。先ほどの「反射する」を見てみましょう。

はんしゃ【反射】《名》
①《自他サ変》光・音・電波などが物の表面に当たって跳ね返ること。「月が太陽の光をーする」「湖面に日光がーする」

型の表示こそありませんが、「反射する」が「なにニ」「なにヲ」をとるということが、きちんと示されています。また、新明解や他の辞書でも、項目で明示していなくても、用例で使い方を示している場合があります

残念ながら、どの辞書も、基本構文の型を網羅的に掲載しているわけではありません。しかし、基本的な語の多くは、このような形で示されています。ぜひ書店や図書館で手にとって、ご自分の生徒さんにはどの辞書が勧められそうか、確かめてみてください。

➡️2020年9月追記
2020年12月、明鏡国語辞典第3版も出ました!

日本語新は惜しくも絶版なので、古書で安いものを探してくださいね。ヤフオクやメルカリに出てくることもあります。

2.2.2 コロケーション辞典
助詞選びには、コロケーション辞典が役立つことがあります。コロケーション辞典の中でも、特に動詞の基本構文の型がわかりやすいものを2点、ご紹介したいと思います。

てにをは辞典は、日本語教育に限らず、日本語で文章を書くすべての人にお勧めしたい辞書です。これで先ほどの「反射する」をみてみましょう。

はんしゃ【反射】
▲が 射し込む。ちらちらする。
▲を 浴びせる。受ける。きらめかせる。とらえる。防ぐ。
▼する 明かりが。朝日が。影が。光線が。太陽が。電光が。日光が。光が。日差しが。窓明かりが。陽光が。明かりを。外光を。輝きを。気持ちを。月光を。光線を。木漏れ日を。照明を。太陽を。灯火を。日光を。陽を。光を。日差しを。ライトを。内海に。海に。海面に。ガラスに。水に。雪に。きらきらと。ぎらぎらと。白々と。強く。鈍く。柔らかく。暁の白さが波に。
▲神経が 鋭い。鈍い。

いかがでしょうか。「なにニ」「なにヲ」に当たるところだけ太字にしてみましたが、基本構文がわかるとともに、多くのコロケーションが示され、さまざまな格や副詞、複合語などまでカバーされているので、語彙が一気に広がっていきますね。

また、「スキー」のような単純にみえる語も、てにをは辞典ではこのようになっています。

スキー
▲を 貸し出す。滑らせる。立てかける。楽しむ。取り付ける。脱ぐ。履く。
▲で 滑る。
▲に 誘う。乗る。行って雪焼けする。

私は第2言語(英語です)で文章を書くことが多いのですごくよくわかるのですが、このような豊富な例と見比べると、自分の作った文が不自然でないか確認することができ、自分の表現に自信を持つことができます。日本語学習者にとって、てにをは辞典はつよ〜い味方になることでしょう。

それからもう1点、研究社の日本語コロケーション辞典です。

こちらはもう、ザ・日本語教育のために作られた辞書ですから、ご存知の方も多いでしょう。この辞書は名詞とのコロケーションが豊富で、動詞に接続する格助詞については、型を示すとか、太字にするというような提示のし方はしてはいません。しかし、用例が非常に豊富で、ひとつひとつの用例をよく見ていけば、動詞の基本構文の型も、しっかり見出していくことができます

このように、国語辞典やコロケーション辞典をうまく使って、動詞の型を身につけていってほしいものですね。


3. 中型辞典の注意点 〜広辞苑・大辞林・大辞泉〜

『使える!国語辞書』をお読みの方はおわかりかと思いますが、中型辞典とは

  広辞苑
  大辞林
  大辞泉

の3つです。辞書マニアの間では、苑林泉(エンリンセン)三兄弟として親しまれています。

中型辞典は、ことばの解説のほかに、百科項目として多くの固有名詞や専門用語、時事用語などが載せられています。日本で生活したり、ニュースを読んだり仕事や大学で日本語を使うということになると、中型辞典を引いた方がいい場合もでてくるでしょうね。

しかし、中型辞典には大きな落とし穴もあるのです。学習者に辞書指導をする際は、以下の点にじゅうぶん注意していただければと思います。

3.1 そもそも現代語の辞書というわけじゃない
苑林泉は3つとも、現代語だけの辞書ではありません。古代から現代に至るまでの日本語を総合的に扱っていて、現代語も古語も分け隔てなく収録しているのです。

国語項目は、現代語はもとより、古代・中世・近世にわたって日本の古典にあらわれる古語を広く収集し、その重要なものを網羅した。 <苑>
この辞典は、現代の言語生活に立脚し、現代語を中心に古語や百科語をも含めた総合的な国語辞典として編集したものである。 <林>
本書には、現代の日本で用いられている語を中心に、古語、専門用語、地名・人名その他の固有名詞など、総項目数23万余語を収めた。 <泉>

ですから、どの辞書も現代ではもう使われていない語が見出し語として立てられており、かつそれが「古語である」という断り書きは特にありません。また、現代まで連綿と使われ続けている語については、どの語義が現代語の意味で、どの意味がもう廃れたものなのかもわかりません。古典から出典つきの用例がついていることもありますが、すべての古語についているわけでもありませんし、古語の用例がついているから現代使われていないと断ずることもできません。

3.2 広辞苑の歴史主義
広辞苑
については、特に注意が必要です。試しに広辞苑の「よむ」という語を引いてみましょう。

よむ 【読む・詠む】《他五》
①数をかぞえる。
②文章・詩歌・経文などを、1字ずつ声を立てて唱える。
③《詠》詩歌を作る。詠ずる。
④文字・文書を見て、意味をといて行く。
⑤(「訓む」とも書く)漢字を国語で訓ずる。訓読する。
⑥(講釈師が)講ずる。
⑦(内面に隠れていることやこれから起きることなどを)推しはかって知る。推察する。見通す。
⑧囲碁・将棋などで、先の手を考える。
(用例はすべて省略)

「よむ」の語義の1番目はなんと、「数をかぞえる」です。びっくりじゃないですか? これは、広辞苑が歴史主義をとっているからなんですね。つまり、読むという語の最も古い意味は、数を数えるだったということです。

これを見ると、読むという語はまず数を数えるということから始まり、それが声を立てて唱えるということに通じ、そこから歌を詠むこと、文章を読むことにまで意味が広がっていき、現代では④の意味あたりが中心義となっている、ということが見てとれます(実際にこんなに単純だったかはわかりませんが)。すばらしいですね、勉強になりますね。

広辞苑が歴史主義をとっているということは我々にとってたいへん意義深いことなのですが、日本語をこれから習得しようとしている学習者にとっては、向いているとは言い難いものなのです。

大辞林と大辞泉は現代語の意味が先に書かれており、もう少し使いやすいものになっています。

解説にあたっては、多義語は最初に現代語としての一般的な意味・用法を記し、そのあとに順次特殊な意味・用法、古語の意味・用法を記した。 <林>
語義の解説にあたっては、現在通行している意味や用法を先にし、古語としての解説をあとに記述した。 <泉>

3.3 表記にも気をつけて
これは中型辞典に限ったことではないのですが、表記という観点でも注意が必要です。この点はすでに『使える!国語辞書』に指摘がありますが、国語辞典の掲げる表記は多くの場合、「漢字で書いた場合どのように書けるか」を示すものです。「標準的にこの書き方をするとよい」という指標にはあまりなっていないことに留意してください。

この語が広辞苑に初めて載ったのは第6版のときでしたが、この表記、初めて見たときには半笑いが止まりませんでしたw

いけめん 【いけ面】
(「いけてる」の略「いけ」と顔を表す「面」とをあわせた俗語か。多く片仮名で書く)若い男性の顔かたちがすぐれていること。また、そのような男性。

でも見てください、最新の7版では、「多く片仮名で書く」という注記が追加されました。このように、改訂されるごとに進化している側面もたくさんあるんですね。

ちなみにイケメンの語源についての記述は林、泉に分があるかな〜と思います。いろいろな辞書で引き比べてみてくださいね。

学習者が中型辞典を使うということは、実はよくあることかと思います。たまたまもらったり買ったりした電子辞書に広辞苑や大辞林が入っていた、という話はよく聞きます。そしてなにより、ネットで無料の辞書を引くと、大辞泉か大辞林がヒットする場合も多いです。ご自分の生徒さんが中型辞典を使うようでしたら、どうぞ注意すべき点を伝えてあげてくださいね。


4. 電子版について

4.1 電子版と書籍版 〜オススメは電子版〜
本文中で辞書をご紹介するのに、アマゾンのリンクを貼っておきました。書影が見えて、イメージしやすいかなと思ったからです。アマゾンで表示されるのはどれも書籍版ですが、実際にお勧めしたいのは、どの辞書も、可能であれば電子版です。

紙の辞書の方がよいという向きも、よくわかります。紙の辞書の最も優れている点は一覧性で、目的以外のものが次々と目に入って世界が広がる楽しみがあります。また、読書を体験としてとらえたいとか、エクリチュールを大切にするとか、それから電子版と比べたときの疲れやすさ、頭に入りやすさなどを重視する方もいることでしょう。読書一般、また辞書についても"読む"ということでしたら、それらを優先するのもよいと思います。

しかし、辞書は本来的には読むものではなく、使うものです。使うこと、つまり必要な情報をいかに素早く取り出すかということになると、圧倒的に電子版の方が優れています。辞書の本領として、検索性の良さが重要なのです。

検索性の良さとは、辞書を引くスピードのことだけではありません。後方一致検索条件検索成句検索用例検索、ものによっては全文検索など、『使える!国語辞書』にも詳しいのでぜひそちらを参照してください。電子版は、特に先生ご自身が問題作成するときなどに、存分にその力を発揮するのではないでしょうか。

学習者にとっての大きなメリットは、読みがわからなくても調べられるということです。PCやスマホアプリなどでしたら、検索窓にコピペすればOK。またタッチパネル式のものでしたら指でその字を真似て書くことでも検索できます。

また、読みやすさという点でも、電子版が優れていることが多いです。書籍版はどうしても小さいスペースに細かい文字を詰め込むことになりますが、電子版では改行や色分けが施してあったり、文字を大きく表示できたりということもあり、学習者にとってかなり負担が少ないと考えられます。

携帯性もよく、特にスマホに辞書が入っていれば、学校、職場、電車の中、リビングや自室、枕元など、必要なときにいつでも辞書を引くことができてサイコーです

私自身は、多くの辞書を電子版と書籍版、両方で持っています。どちらも良さがあり、この記事を書くためにもかなりの紙の辞書を参照しました。でも、電子版に慣れると、どうしても必要なとき以外はなかなか紙を見なくなりますね〜、電子版があまりにも便利で。電子版が出ていないものを(しかたなく)紙で買っているというのが実情です。電子版は、棚板がたわんだり床が抜けたりすることがないというのも(我々辞書マニア&コレクターにとって)大きなメリットです!w

4.2 ごくごく簡単に電子版のご紹介

4.2.1 スマホ辞書アプリ
電子版にもいろいろな形態がありますが、iOSをお使いでしたら、辞書 by 物書堂は、強くお勧めできるものです。新明解大辞林、それから三省堂国語辞典など、使いやすいものが多く、とにかく軽いサクサクUI、英語や他の外国語辞書も引く方にはとにかくオススメの一押し辞書アプリです!(アンドロイド向けも開発が進んでいるそう)

広辞苑(ご紹介した通り日本語教育用としてはイマイチですが)や岩国(現在第7版新版が最新)や新明解を引きたいということでしたら、ロゴヴィスタに搭載されています。(リンク1つめがiOS、2つめがGoogle Play)

もうひとつ、DONGRIという辞書アプリをご紹介しておきます。DONGRIには、新明解明鏡スーパー大辞林3.0(第3版の増補版)を搭載できます。そして、小学館漢字辞典(例解学習漢字辞典)を引ける唯一のアプリでもあります。(ながさわさんの推し辞書、『現代国語例解辞典』があるのもここだけ!)

アプリ版は全般に、書籍版よりも低価格だというのもポイントです。複数の辞書をひとつのアプリに入れて串刺し検索ができるのはもう本当に便利過ぎて、慣れたら紙の辞書に戻ることはできなくなります。

4.2.2 無料のウェブ辞書
PC、スマホのブラウザから引ける辞書もいろいろありますね。しかし、ウェブ上の情報というのは玉石混交で、ここでいちいち良し悪しを挙げるのはなかなか大変なことです。辞書は有償のものを使うのがいちばん確実ですが、そうはいっても学習者はネットで調べてしまうでしょうから、どうせ見るなら以下のものがおすすめです。

無料の辞書サービスといえばまずはコトバンクですが、コトバンクのホームページよりも、下のサイトからの方が引きやすくなっています。たくさんの辞書が含まれていますが、国語辞典は大辞林(旧版の3版)大辞泉が引けます。

それから、Googleで「◯◯ 意味」とやると出てくるのは岩国だということがわかっています(おそらく第7版新版)。ただしフルの情報ではなく、補注などが削られていることが確認されています。

無料サービスだと、Weblioを使う人も多いですね。Weblioは初学者が信頼性の低い情報を選り分けるのがとても難しいサイトなので、私ならひとまず学習者に使わないよう指導します

ながさわさんもおっしゃっていますが、電子版については移り変わりが激しく、まとめるのが難しいところです。他にも電子辞書やPC版などいろいろありますので、本編の方を参照したり、必要に応じて調べてみたりしてくださいね。本当に、ごくごく簡単なご紹介でした。


Ⅲ.おわりに 〜そして日本語教育のためのあるべき辞書とは〜

ここまでダラダラと、長々と書いてしまいました。これは私の不明のためでもあるのですが、この記事が長くなってしまうということが、日本語教育の抱える大きな問題そのものでもあるといえます。日本語教育のための「日本語辞典」というべきものがなく、母語話者向けの「国語辞典」を渉猟しなければならないことになっているからです。

国語辞典は種類も多く、歴史と蓄積があり、それぞれに中身の濃いものです。しかし、これまで述べてきたように、発信用としてはまったく手薄であり(母語話者向けなので)、また、英語の学習辞書ではすでに主流を占めているコーパス準拠の辞書というものが、まだひとつもありません(一部コーパスを参照しているものはあります)。そして、語釈に使う語を基本語に限った辞書も、まだありません。

しかし、日本語教育のための辞書に必要な要素がどんなものかは、次第にはっきりしてきています。

 ・漢字の読み、意味、送り仮名、標準表記がわかる
 ・語釈が基本語で書かれている
 ・語の位相や語感がわかる
 ・類義語の使い分けがわかる
 ・派生語、複合語、熟語、コロケーションがわかる
 ・語素としての漢字項目がある
 ・基本的な構文が示されている
 ・典型的な使い方や基本構文などを含む用例がついている
 ・コーパスに基づいて作られている

こうした要素をすべて1冊の辞書に盛り込むというのは、なかなか難しいことではあると思います。日本各地で、理想の辞書を目指して取り組んでいる先生方も、大勢いらっしゃることと思います。一日も早く、複数の「日本語辞典」が出回って、レベルに応じて選んだり、引き比べたりできる日が来るといいなと思います。



※辞書からの引用部分は、そのまま表示できない記号を別のものに置き換えたり、適宜省略したりしています。

※太字は、著者が強調のために施したもので、原文のものではありません。


【掲出辞書一覧】
(いずれも2020年8月現在の最新版)
(2020年12月 追記しました)

『岩波国語辞典第8版』(2019)岩波書店 ★(ひとつ前の第7版新版は電子版あり)
『新明解国語辞典第7版』(2012)三省堂
『新明解国語辞典第8版』(2020)三省堂
『日本語新辞典』(2005)小学館 ★
『明鏡国語辞典第2版』(2010)大修館
『明鏡国語辞典第3版』(2020)大修館★
『例解小学漢字辞典第6版』(2019)三省堂 ★
『例解学習漢字辞典第9版』(2019)小学館 
『てにをは辞典』(2010)三省堂 ★
『日本語コロケーション辞典』(2012)研究社 
『広辞苑第7版』(2018)岩波書店
『大辞林第4版』(2019)三省堂
『大辞泉第2版』(2012)小学館

電子版がないものに★を付しました。

➡️2020年9月追記
『日本語コロケーション辞典』はロゴヴィスタのPC版がありましたので★を取りました、失礼しました。今月からはロゴヴィスタ統合アプリにも登場しましたね。

➡️2020年10月追記
Weblioの仕様変更に伴い「4.2.2 無料のウェブ辞書」の記述を一部変更しました。

➡️2020年12月追記
2020年12月14日でInfoseekの辞書サービスが終了するのに伴い、記事中にあったそちらへのリンクは削除しました。

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結局、全体で1万7000字を超えてしまいました。こんな長い記事を読んでくださる奇特な方がどれほどいらっしゃるかわかりませんが(>_<) お読みくださりありがとうございました。

私はツイッターにいることがいちばん多いので、もしもご意見ご感想ご質問など、どうしても言ってやらないと気が済まないということがありましたら、@miu7200 までお知らせください。ありがとうございました。


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