見出し画像

Heaven(4話) ――どんな未来になったとしても、僕らは誰かを想うだろう 【連載小説】 都築 茂

 たき火が、バチバチっと音を立てて、火の粉が浮かび上がった。
「さて。聞きたいことは各自あると思うけど、今日はもう休もう。明日街の中を歩きながら、また話をしよう。」
 僕らは、顔を見合わせてから立ち上がった。もっと話を聞きたい気持ちもあったけど、3日間野宿をしながら歩き続けて疲れていた。口々におやすみなさいと言って、建物の中へ入った。さっきの部屋の壁際のベンチに、各々好きなように横になった。もう一つ奥の部屋にも小さなテーブルとベンチがあり、カンナとアキは荷物を持って奥へ入って行った。何を話しているのか、しばらくの間2人の話し声や笑い声が続いていて、僕はその声を聴きながらあっという間に眠ってしまった。


 次の日は良く晴れていて、風もなく、あたたかくなりそうな朝だった。僕らは持っていた木の実やビスケットを食べた後、出かける支度をした。今日の夜もここで眠るから、と、置いていけるものは置いて、荷物を軽くして出発した。
 昨日は小雨が降っていて下を見て歩いていたからか、今日は街の景色が違って見えた。草や花が日差しに向かって伸び、鳥の飛ぶ姿もあった。あの、固められた道を歩いて行くと、時々、家ほどの大きさの金属の箱が道に置かれている。不思議そうに見ていると、「これは、トラックという乗り物だよ。」と、マサトが教えてくれた。
「一日に何百キロも走ることが出来て、食べ物や物資をあちこちに運んでいた。そのおかげで、飢えや栄養失調で死ぬ人間は、ほとんどいなかったそうだ。」
 こんな大きな箱が1日に何百キロも動くなんて、僕には想像もできなかった。トラックという名の箱は、大人が十人で引っ張っても、動きそうになかった。
「…どうやって動かしていたんですか?こんな大きな箱。」
 僕の独り言のような問いに、カズマが答える。
「精製した石油を使っていたらしい。運転する人間が一人いるだけで動いたそうだ。」
 しばらく行くと、首の長い鳥が座っているような形の、大きな金属でできたものが見えた。何に使うのかわからないほど、大きい。
「あれは、土を掘り起こしたり、山を崩したりする機械だ。ショベルカーと言う。」
 ショベルなんて大きさじゃないだろう、と心の中で呟く。
 その首の先についているショベルは、大人が何人も入れそうな大きさだ。
「これも、石油で動いていた。日本では石油が全くと言っていいほど採れなくて、ほとんど外国から買っていたそうだ。」
 へえ、と思いながら周りを見ると、カンナは興味深そうに立ち止まってショベルカーを見ている。アキとタケルは右へ左へと視線を巡らせているけど、つまらなそうだ。コウイチは、少し後ろから歩いてくる。物を見るというより、街全体の空気を感じ取ろうとしているかのような表情だった。シンジは、街ではなくカズマの横顔を見ていて、僕と目が合うと肩をすくめて見せた。
 しばらく行くと建物がなくなり、さらに歩くと白い塀に囲まれた場所に着いた。塀は終わりがわからないほど遠くまで続いていて、この場所が広い敷地を占めていることが分かった。門には、金属製の看板があって、『火力発電所』の文字が読み取れた。
「ここは、昔、電気を作っていた場所だ。外国から買った天然ガスを燃やして、電気を作っていて、近くの街に電気を送っていた。当時のことを知ってもらうために、少し中に入ってみようと思う。」

――― 5話へつづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?