電波塔にて


 きみのいうことがうそならそれもうそ ちがう芝居をたぐる演劇

 誘導灯ならぶ路次があやしい夜のこと 近づいて来る少女ゐたりぬ

 抜ける光りあり 週末をめぐる冒険さそう写真館のあたり

 ゆうまぐれ踊る警備のひとだれかとめておくれよ立入禁止

 鞭のごとき愛ありぬたしかめあう傷みをもってふたり繋がれり

 なまえを失った場所に咲く花を摘む──そしてぼくはひとり

 街頭スナップを撮るおれの愉楽よ坂をあがって神戸シナゴーグまで

 昭和モダニズム建築群撮影する夏至越えてあたりの電飾がつづく

 みなよりはぐれて花の臭きを識る 孤立無援のひとあるばかり 

 青春と呼べるものなどあらず石の城抱えるジュラの山にて

 ジュネ曰く「美には傷以外の起源はない。」──銃創のごとく詩はあって

 たとえばきみのはるかを流れるものありぬ精肉店の保冷庫

 ほんのいつわりに過ぎぬ態度みせるきみたちに鉛降れ鉛降れ

 雲さわぐ真午の月が解けてゆく女のようなおもざしをして 

 うつろ陽の悪魔ささやくきみの耳「ルビコンの川を渡れ」と聴けり

 なにがなくとも季節の花は咲き乱れ神経症の発作うながす

 琴鳥の唄う祝祭 いびつなる魂しいまでも射抜けるものを
 
 あかるさを調節しつつ午を待つ不在の母を呼ぶ声はなし

 町の果てにつづく悪夢がいやらしい電波塔にくみしだかれて

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