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Stones alive complex (Charoite)

43階・・・44階・・・

エレベーターの天井近くに光ってるデジタル表示が、カウントを上げてゆく。

『超運すぎる魔女』の異名で恐れられているフリーランスの傭兵のチャロアイトは、背中の鞘に収められているライトソードの柄に手をかけ、突撃の準備をした。

今回のターゲットとして依頼された暗黒街を取り仕切るボスは、50階北のスイートルームにいる。当然、数えきれない護衛たちに囲まれて。

チャロアイトの襲撃を1階フロアで待ち構えていた十数人の武装した下っ端たちは、超運すぎる運のおかげであっけなく処理できた。

ホテルへ乗り込んだチャロアイトはすぐ、
ひとりの太りすぎて動きの鈍そうな下っ端の背後へ電光石火で回り込み、腰を全力で持ち上げるとブレーンバスターをかけた。
そいつは、重みで背中方向へ投げきれずによろめいてるチャロアイトに、だき抱えられてるあいだじゅうマシンガンをめくらめっぼうに乱射し、ようやく大理石の床へと後頭部から落下。
気絶して動かなくなってもなお、マシンガンの引き金には、太い指がはさまったままだった。

そいつのマシンガンが弾切れになるころには、
下っ端たちは、みんなその流れ弾でやられていた。

下っ端の太った身体の下敷きになってたおかげで流れ弾を逃れていたチャロアイトは、悠々とエレベーターへ乗り込んだ。

今日も運の超良すぎる日だわ。
いつもどおりな通常運転の快調さに、チャロアイトはほくそ笑む。

1階でのチャロアイトの超運な襲撃っぷりは、すでにボスの耳へ届いているはずだ。
チャロアイトの手持ちの武器は、ライトソードが一本きりだということも。
50階フロアのエレベーター前には、ボスの下っ端がさらに大人数で待ち構えているだろう。

45階になったデジタル表示を確認し、
チャロアイトの鼓動は早くなった。

これからの展開をシュミレーションしてみる。

50階でエレベーターのドアが開いたとたん、
マシンガンの弾が正面からスコールのように降ってくるはずだ。

チャロアイトほどの剣の達人ならば。
3丁くらいの弾なら至近距離でも目にも止まらぬライトソードの連続旋回で、余裕のよっちゃんに弾き返せる。

しかし。言うまでもなく。
自分を待ち構えているマシンガンは3丁どころではないだろう。1桁はいるはずだ。
エレベーターの狭い箱の中では、弾丸の洗礼を避ける場がない。
ここは、天国へエレベートされし袋小路となる。

いくら超運の魔女と呼ばれているワタシでも・・・
・・・ライトソードたった一本でこの修羅場を切り抜けるのは、さすがにキツいわね・・・
なら、なんでもっと装備を固めてこなかったのか?という自分へのツッコミは今は禁止。

残された僅かな時間。
人生、運のみで乗り切ってきたチャロアイトにしては珍しく、
超運になど頼らず、生まれて初めてちゃんと戦略を考えることにした。

まず。
エレベーターの天井に穴を開けて、天井裏に隠れる。
待ち伏せしているやつらはドアが開いたらすかさず、マシンガンを乱射してくる。

しかし、エレベーターの中には誰もいない。

おやおや?って拍子の抜けた顔をしてエレベーターにのこのこ入ってくる下っ端たち。
そこへ!
エレベーターの天井からライトソードを振り回し飛び降りてくる超運の魔女!
パニクって混乱する下っ端たちの乱れた陣形の隙を突き、一気にボスの所まで斬り抜ける!

よし!
この作戦で、なんとかいけるわ!

チャロアイトは背中の鞘からしゅんとライトソードを引き抜き天井の一角へ突き刺すと、天板を高熱で溶かしながらマンホール程度の穴にくり抜いた。

丸く、くり抜かれた板が床へどかんと落ちてくる。
・・・と、一緒に。

その穴から、下っ端がひとり、マシンガンを構えた姿勢のまんま落ちてきて、激しく脳天を床に打ち付けた。

あらあら・・・?!

「う、ううっ・・・
なぜ、俺が天井裏から狙ってることに気がついた・・・?」

床にうつ伏せになったその下っ端は、
面白い角度に曲がった顔で、そううめいた。

チャロアイトは、
「あの・・・えっと・・・きちんと説明すると少し長くなるんだけど・・・
やっぱ、これも超運ってことになるのかしら・・・?
あのね実はね。
今回はワタシとて運などに頼らずに・・・」
もごもご言う。

チャロアイトの説明が終わるのを消えゆく意識が待ちきれないようで、

「さ・・・すが・・・評判どおりの超運だ・・・な・・・」

賞賛を言い残し下っ端は、両の黒目を真ん中へ寄せてがくっと気を失った。
手から離れたマシンガンが、ガチャっと床に音をたてる。

チャロアイトは、ごついマシンガンを拾い上げて、構えた。
やっぱり運が超いいわ、ワタシって。
この装備でもまだ、無傷で帰れそうもないけどね。

左手にマシンガン、右手にライトソードをぶら下げ、運命に身を委ねる。

デジタル表示が、49階を表示した。
あと1階で決戦が始まる・・・
計画どおりに、天井裏へ飛び上がろうとしたら、

チンと音がして、
49階のドアが開いた。

ちょ!待ってよー!
誰なのよ!
こんな時に乗りこんでくる間の悪いやつは!?
一般客を巻き込んだら、すんごく後味が悪いじゃなーい!

初老の男が、ひとりぽつんとフロアに立っていた。
高級そうなスーツで、大きな旅行カバンを両手に持ち、おどおど言った。

「あ!すいません!
ボタンを間違えました!
下へ行きます・・・」

チャロアイトは、閉まってゆくドアをマシンガンでさえぎった。

ぺこりと頭を下げたその男の顔は、チャロアイトには見覚えがあった。
依頼されたターゲットの写真とそっくりだった。

どうやら。
50階に配置した部下たちを囮にして、
ひとりでこっそり49階から下へ逃げようとしていたボスが、
エレベーターの上へ行く下へ行くボタンを押し間違えたのだった。

(おわり)

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