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Stones alive complex (Rhodorite Garnet)


遊園地のどこからでも見られる超巨大な観覧車の中央や、あちこち無数にあるテーマパークの入口に設置されている電光掲示板がオンになり、

【3分後に投票結果が発表されます!
ご注目ください!】

のアナウンスを明滅させた。

続いて。
空となってる天井すべてがモニターに切り替わり。
3万人強の人間が乗せられたこの宇宙移民船「ロードライトガーネット号」が、その軌道を周回している緑の惑星の、生命が満ち満ちる地表の映像を映し出す。

【我々が待ち望んでいた新しい故郷です!】

【豊かで手つかずの大自然が広がる!】

【天然の食べ物が無尽蔵に!】

惑星の地表を覆う原始の森林や透明な海、その他様々な魅力をアピールする映像へ、そんな煽るキャプションが次々とかぶさってゆく。

「今回で、この住民投票も24回目ですね・・・」

副士官の気のないトーンのコメントへ、
この移民船の船長は、それに負け劣らぬ気のないトーンで答える。

「あの惑星が見つかってから、ちょうど二年が経っちまったってことか・・・
移住を煽るコマーシャル映像も半年くらい前から誰も改編しなくなっちゃって、マンネリ極まりないなぁ。
月イチの投票も、そろそろしなくてもいいんじゃね?ってムードが船内にさらに増すばかり・・・」

船長は、ガーネット号の航行系施設以外のほとんどを占めた広大な遊園地のエリアを、高みから見渡した。

最初の頃は。
いったいいつ新天地が見つかるのか分からない不安ばかりの旅だった。

乗船した3万人強の移住民のメンタル面が、ゴールが見えない旅の途中でいちぢるしく荒廃することを危惧され、
ガーネット号には船の一角にストレス緩和のための娯楽施設が設けられていた。

それは、ささやかでちっぽけな遊園地だった。

しかし。
そのしょぼい遊園地はすぐに飽きられた。
不安も満載だけど、暇も満載だった住民たちは、
それぞれが持つ様々な職能を活用し、その遊園地を次々と改造したり増築したりしていった。
不安さと暇さとが強力なタッグを組んだ勢いで、厳しい現実から心をずっとそらすことができる非日常的なアイディアが、それへと惜しみなく過激に盛り込まれた。

長い旅のうちに移民船の内部は。
船の航行に必要最低限の区画以外は、
すべて遊園地としてカスタマイズされてしまったのだ。

決して飽きることなく進化し続ける凝りに凝られた中毒性の高いアトラクションに人々は夢中になり、のめり込んでいった。

その状況は、人間が居住可能なあの惑星がようやく発見されてからも、まったく変わらなかった。

調査隊が派遣され、惑星の分析映像が船内で公開された。
文句無しの移住先だった。
汚染が一切ない手つかずで豊かな原始の大自然。
SF映画でありがちな、無駄に攻撃的な猛獣も潜んでいない。

だが。
その映像を観終わった3万人強の住人たちの大多数は、こう思った。

(あそこには、住めることは住めそうだけど・・・
一から文明を開拓すんのは、メッチャ大変そうやし・・・
ここの遊園地で遊んでる方が、よっぽど楽しいやんけ!)

良い側面ならびに、こうなると悪い側面として。
移民船は無限の人工食糧の生産が可能にされているなど、最低限度の衣食住だけは永遠に安心であった。

すでにこの船の、
実質的な移民船としての意義は失われつつあった・・・

電光掲示板が、激しく明滅する。

【移住の可否を問う!
運命の住民投票第24回結果発表!】

すべての住民が、関心の薄いぼんやりな顔つきをあちこちのモニターへと向け、

【移住賛成1.3%】
【移住反対98.7%】
【今回も圧倒的大多数で移住は否決されました!】

の結果表示をチラリと視野の端で確認してから、かすかにホッとした表情を浮かべ、今楽しんでいるアトラクションへ関心を戻した。

「さてと、もう一周しますか?」

副士官が、陽気に船長へ声をかけた。

「無論だ。この船のコースは、これまでどおりあの星の周回軌道を維持させる。
みんなの気が変わる時が来るとしたらまで・・・
船長とて、住民投票の総意には従わねばならないからな」

船長は毅然と宣言した後、小声でつけ加える。

「手つかずの大自然、ってアピールがむしろ逆効果になってんだよなあ・・・
誰にも言うなよ。
今回は俺も、反対に投票しちゃたんだ・・・」

ぺろ、と舌を出した。

副士官は、クスッと笑った。

「違いますよ!
私がさっき聞いたのは、もう一周このメリーゴーランドに乗りますか?ってことですよ」

船長は、
またがっていた木製の馬の頭を撫でて、

「そういうことなら、そっちの答えも無論だ!
このジェットコースター型メリーゴーランドのスリルは何回乗っても飽きないのだっ!」

船長と副士官が乗ったメリーゴーランドは、
立体的にくねった鉄の線路のいちばん高い所へ到達し、周りながら急降下を始めた。

うきゃーーーっ!!!
((o(*>ω<*)o))!

(おわり)

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