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Stones alive complex (Sleeping beauty Turquoise)

彼の眷属畑は初春の太陽を浴びて、産毛色に光っていた。

一般的な眷属(けんぞく)とは。

仏教系では、仏や菩薩につき従う者を眷属と言い。
例えば。
薬師如来の十二神将、千手観音の二十八部衆などで、常に如来や観音の周囲に配備され、御仏をお守りしている。

神道系ならば、神様の使いである霊的存在な動物として表されているものを言う。
龍、鶏、狐、猿、牛、狼、などなどである。

彼の畑では、植物系の眷属を育てていた。
イメージとしては、ハリポタにも出てきたマンドレイクに近いものだ。
特に何系の宗教に属すという、カテゴリーはなかった。

今年の出来栄えは、とびきり上等だった。
長年続けた品種改良の努力がようやく実りを迎え、飛び道具が撃てるまでに進化した。
これまで植物系の眷属はもっぱら、霧を出すとか葉で道を塞ぐとかの目くらましの技しかできなかった。
新種はその能力に加えて、なんと、トゲや種を高速で発射することができる。
これは、一箇所の眷属畑だけで作れるものではない。各地に独立して点在している眷属農家と連携し、それぞれの作物・・・じゃない・・・眷属の長所を何通りも掛け合わせた成果だ。

次に剣山の業務提携農家へ出張した時は、また何本か門外不出の株を内緒で譲ってもらおう。あそこの榊は、磁場を変圧して弓矢を構成する吸収盤として抜群の性質を持っている。

彼は成育した植物系眷属をプランターへ並べ、畑からトラックの荷台に積み込んだ。
さあ出荷だ・・・じゃなくて・・・奉納だ!
と、張り切って運転席に乗り込んでから別の考えがひらめいた。

今から奉納する合魔寺への途中にある七支刀神社へ寄って、新種のサンプルで新規営業を・・・じゃなくて・・・神饌をさせていただくというのはどうだろう?
販路拡充だ。

そもそも彼が栽培する植物系の眷属は、神社とは相性が悪かった。
なぜなら。
神社に属して経内にいる動物の眷属には、草食のやつらもいるからだ。
せっかく手塩にかけて育てた作物・・・じゃなくて・・・眷属を、そいつらのエサにされるのはたまらん。 初期の頃、試しに置いてもらったところ実際そうなりそうなケースもあった。
それ以来、もっぱら納品・・・じゃなくて・・・奉納はお寺にしかしていない。
しかし。
戦闘力が増したうちの野菜・・・じゃなくて・・・眷属ならば、うかつに食われはせんかもしれん。

トラックの運転席でエンジンだけスタートし、まだ少し寒い車内へヒーターをかけた。
お昼ご飯用に持ってきた結界六角形に握った三宝卵のおにぎりを一個、早々にがぶりと頬張る。

彼はカーナビを起動してパスワードを入力し、裏メニューのゴーストマップを開いた。
正式な眷属をたむろさせてる神社仏閣ならば当然、特殊な役割を務めているので常人の参拝客など来ない。
ましてや、普通の地図にどーんとその位置を公開してるわけがない。
それ以前に、常人の肉眼では目視できない御社もある。

七支刀神社の現在位置を確認すると、彼は指のご飯粒を舐めとってトラックのギアを入れた。

七支刀神社は確か、女性の神主さんだったな。
だったら、品種名『キューピットの強弓』がウケるかもしれんぞ!見た目の可憐さとは真逆に、めっちゃ気が強いけどな。

あそこのメインの眷属は確か、牛。
いきなり牛っつーのもハードル高いけど、商品テスト・・・じゃなくて・・・植物系眷属導入試験にはちょうどいいかもな。

ゴーストマップの上に座標マークされた七支刀神社は、管轄エリアの境界に沿ってゆっくり東へ移動していた。

牛に引かれて移動するタイプの神社なのだ。

彼はアクセルを踏み込むと、そのマークを追う。
販路拡充だーい!

(おわり)

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