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Stones alive complex (Prehnite)

大波小波が、しつこく高耐食性ステンレスの船体にぶつかってくる。

その衝撃で揺さぶられても、
「ノア(National Ocean and Atmosphere)の箱舟」に乗っけられてる動物たちは、ぜんぜん平気だった。
なんせ今回避難しているのは、前回みたいな実物じゃなくて、情報化された動物の遺伝子情報だったからだ。

動物一種類につき、オスメスのつがいでワンセットに記録されたSDカードが、船内の密閉されたメモリースロットへ大量に差し込まれている。
その枚数は、箱舟が出港した時点で現存していた生き物の総種類だけあった。

哺乳類が種別されて、約6000枚。
鳥類種が、9000枚。
昆虫種が、95万枚。
植物種が、27万枚。
その他、なんだかんだ雑多な細かい生き物を総合して、
トータル約3000万枚のカードがあった。

彼らは来るべき新世界でクローン復活するために、大海原をもう150日ほどさ迷っていた。

箱舟の上空には、白い鳩の形をしたドローンが数機旋回している。
新しく生まれてきた新大陸を見つけたら、すぐに箱舟へと知らせ、そこへ誘導するためだ。
鳩ドローンの鳩胸ボックスの中には実存していた鳩データーのSDカードが入っていて、ドローンのAI知性と鳩の野性的方向感覚がハイブリッドになって機能している。

ふと。一機の鳩が、

「(ぽーっぽっぽぽ・・・)
隊長!
つかぬ事をお伺いしても、よろしいでしょうか?」

ローカルぽっぽ通信で、隊長機に話しかけた。

「(ぽぽっぽーっっっぽっぽ?)
なんだ?
作戦に関連する質問ならば受けつけよう。
もし暇つぶしの戯言だったならば、
罰として、長期の遠征偵察任務を申し渡すぞ!」

「ぽーっぽ・・・
そう言われると、微妙なラインだなあ・・・」

部下鳩は少しためらったのだが。
ハイブリッドしているAIが暇こきすぎていて、
なんやオモロいやん言うたれ言うたれ!
とやんちゃに煽ってきたので、思いきって尋ねてみた。

「隊長。
記録に残っている、前回の箱舟作戦のことなのですが。
あの当時は動物の実物そのものを、木製の船に乗せたんですよね?」

「そうだと聞いているぞ」

「どんくらい乗せてたんでしょうね?」

「どんくらいって?」

部下機は、翼が触れる距離まで隊長機に近づきぽっぽ通信する。

「半端なくでっかい木の船を造ったのか、詳しくは知りませんけど。
みっちみちに動物を詰めこんだとしても、乗せられるのは、せいぜい哺乳類を千種類くらいが限界じゃないですか?」

「んー。
まあ、そうだったろうな、物理的に。
それがどうかしたか?」

部下機は隊長機の上から、くちばしで耳元へひそひそできる距離まで近づき、

「千種類程度の動物しか助けられなかったのに。
その後、生態系や文明が完全復活するって、不思議じゃないですか?生態系には植物やバクテリアとかの地味な種も必要不可欠なんですから、理論上不可能ですよ。
今回はテクノロジーを駆使して、なんとか生き物を全乗せできましたが・・・
前回のミッションでは、なんか公式の史実では発表されてない、いくつか別の復活作戦も並行して展開されてたような気がしてならないんです・・・」

「なるほどな。
確かに、それは考えてもいなかったな・・・
どれ。
ちょいと箱舟のメインコンピューターにアクセスして、アーカイブを調べてみよう」

隊長機は、箱舟との通信回線を開いて情報開示リクエストをぽっぽした。
とたんに隊長機は、豆鉄砲をくらったような顔つきになって失速しそうになった。

「すまん。
ぜんぜん、あかんかったわ。
俺の権限レベルではアクセス不可だってさ。
秘密事項のNOA値を超えてるんだと・・・」

「ノア値って何ですか?」

「宗教的なNo Observed Adverseを超えてる情報だってさ」

(おわり)

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