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Stones alive complex (Cantera opal)

頭の上で、ビッグバンが起こったかのようにドカンと眩い光が弾けるのを感じた。

ビビりながら、しばらく待ち。
全力でつぶってた目を恐る恐る開けてみたら、
人間サイズのティンカーベルみたいな存在が浮かんでいた。

「て、天使?」

「いえ。違います。
ワタクシは貸金庫業者的な者です。
これは、我がカンテラオパール社の制服です」

「な、何の用だ?
萌えすぎ系制服な配達員よ」

貸金庫業者的なその者は、萌えすぎ制服の胸元から伝票を引っ張り出し、こちらへ見せた。

「お預かり期限が来ましたので。
7歳の貴方様から、お預かりしてたものをお返しに来ました」

「預かり物?
7歳の時?
預けた記憶が、ぜんぜんないんだけど・・・」

その萌えすぎ系配達員は、
傍らにたずさえている大人が座れるほどの、肌色で卵型をした大きなカプセルへ手を置いた。

「確かに、これは貴方様からお預かりしましたものです」

意味深な笑いを浮かべそう言い、再度伝票を突き出す。

「お預かりした時のオプションとして、これをお預けになられた事実も、記憶から消すように頼まれました」

伝票の備考欄には、
『きおくまっしょう』と7歳児ぽい、ぐにゃぐにゃした字で書き込まれていた。

「なんでそんな事を?」

「さあ・・・
絶対に確実に、誰からも見つからないよう守るために。
御自身の記憶からも、預けたもの、預け先を消したかったというのであれば、それほどまでにこれは大事なものだったのではないでしょうか?
我社の御依頼主には、たまにあることですよ」

「なるほど・・・」

自分で言うのもなんだが、そこらへん小さい頃から用意周到であった自分ならば、やりそうな事ではある。

「愚問だけど、中身は何だろう?」

「おっしゃるとおりに、愚問ですね。
職務規定で、それにはお答えできません。
開けたらすぐ分かりますよ」

「だよね。
備考欄にもうひとつある『だいがえひんのようい』というのは、どういう意味?」

備考欄には同じくぐにゃぐにゃした字で、そうも書き添えられている。

「それにつきましても。
開けたら、すぐにお分かりになるかと・・・」

さっさと話を打ち切って次の仕事へ向かいたいのか、では!と伝票をそそくさとしまい。
配達員は、カプセルをそっと押した。
カプセルは、シャボン玉くらいの軽さでこちらへ漂ってきた。

「開け方は?」

「顔認証と虹彩認証と手足の指紋認証と声紋認証と骨格認証と、秘密の質問の『初恋のマリちゃんの気を引こうとして最初にしたイタズラは何?』を、カプセルへお答えください」

「めちゃくちゃセキュリティが厳重だな!
ええと、秘密の質問の答えは・・・
・・・これこそ、記憶から抹消しておきたいんだけども・・・結局その時の、考え抜かれた緻密で用意周到なイタズラは、緻密で用意周到すぎたせいで誰にも気づかれず、マリちゃんの気も引けずじまいだったのだ・・・イタズラがウケないならともかく、気がつかれないことほどプライドが傷つくことはないよね。スルーされるより見つかって怒られた方がよほどマシってもんだ・・・まったく、穴を掘って自分を埋めたかったくらい誰にも聞かれたくない答えだよ・・・」

黒歴史をぼぶやきつつ、ぱちぱち目配せをすると。

配達員は、はいはいうなづき、大げさな動作で耳をふさいだ。

カプセルへ向かって、ぼそぼそっと秘密の答えをつぶやく。
カプセルが呼応し、スキャンビームが放たれた。
身体中をレントゲンされる。

カプセルは、
セキュリティ合格!
風にオレンジ色の明滅を始め、静かに真ん中からふたつに割れた。

すると!
中から7歳くらいの男の子が走り出てきて、
驚いてる間もなく、こちらの背中を力任せにグイグイ押しまくり、割れたカプセルの間へ押し込んだ。

「えっ?おいおい?!
なにしてんねん!
ちょっと、ボク?!!」

その男の子は、
これまで長い間ホントにご苦労さん!という感じに手を振りながら、カプセルを閉じてゆく。

閉じゆく隙間から一瞬だけ見えたのは。
萌えすぎ系制服から新しい伝票を受け取る男の子の、すごく懐かしい純真でイタズラな表情だった。

(おわり)

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