見出し画像

Stones alive complex (Cantera opal)


このゲームの初番は、チェスに限りなく似ている。

福音収束のカンテラオパールは、
ビショップをCZの盤面の95のマスへ移動する。

白く細い指がクレーンのブームみたいにその塔の駒を持ち上げ、
何百手先までも考え抜いたのであろうそのポジションへ配置した。

彼女のこれは。
ボクが、前衛となってるポーンをCZの真上のBZの盤面で42に移動し、
彼女のキングを動けなくした作戦に対抗したのだ。

このゲームがチェスと根本的に違うのは。
相手のキングを取ったら勝ちというシンプルなルールじゃなく。
複雑な多階層のフィールドでランダムに折り重なってる無数にある盤面のどこかに自分の城を建て、
その城の中に住む駒をたくさん集め増やして、相手よりも幸せにした方が勝ちというのがルールというとこ。

「駒の幸せ」とは何なのか?
その定義は、ひとまず置いとくとして。

ふはは、福音収束のカンテラオパールよ!
そこへキミがビショップを置くのは、とうに想定しておったのだよ!

すかさずボクは、ルークをBZの188へ飛ばし!
CY盤面を我がものにせんとしてるボクのキングの正面に立ちはだかってる彼女のナイトへ、
斜め上から体当たりさせて吹き飛ばす!

よっしゃあー!
これでCY盤は我がものになること確実!
自分のお城を建てられるまで、あと一歩!

ボクは肩を反らせてカンテラへ言う。

だからね。
今さらこっちの完璧な布陣に抗ってみても、意味がないのだよ。
どうしてかわかるかい?
なぜなら、我々は革新派だが、正々堂々と幸せの必勝セオリーどおりやるからなのだ。
少なくとも見た目は正々堂々と振舞うことにしてる。

だから。
必勝セオリーが理解できる頭さえあれば、そのセオリーに抗えるわけがないと悟るのだ。
だって、あんまりにも道理にかないすぎているんだからっ!
<(`^´)>

自分のターンがきたカンテラオパールは。
ボクの、のけぞったテンションの口上を、
しれっと聞き流しながら。
クイーンをすいっと109へ動かす。

・・・(°д°)

なにいっー!
しまったあー!
その手があったのかーっ!
ボクは頭をかきむしる・・・

カンテラオパールは、ほくそ笑む。
動けなくされていた彼女のビショップは、
109の位置からほとばしるクイーンの圧倒的な御威光の庇護を受け、
自分を抑えていたボクのポーンを頭づきで盤の外へと弾き出した!

「CYの盤はアナタに奪われそうだけれど。
CZの盤面は、ほぼワタシのクイーンが牛耳ったわね。
これでCNからCZまでの盤は、ワタシの領地よ!」

このゲームはチェスの要素に加え、
何枚もある盤面にはオセロの要素があり。
支配した盤面で囲われた内側の盤面は、すべて自分の領地になる。

「CNからCZまでの領地に、築城します!」

カンテラオパールは誇らしげに宣言した。

地続きで盤が10枚繋がれば、
もう奪われることのない絶対領地にすることができ。
そこに自分のお城が建てられる。

C盤面北東部の半分近くがカンテラオパールの絶対領地となり。
カンテラオパールの宣言で、あちこちからポーンが集まってきて、お城を建て始めた。

肩に少しかかってる髪をかきあげ、
カンテラオパールは、ボクにやや挑戦的な笑みを向けてきた。

「リアル空間もバーチャルフィールドも、
隅々までがアナタの言う、それに服従してる。
でもね。革新より大切なものは、核心なのよ」

カンテラオパールが最初の城を築いた時点で、
このゲームは次の局面へと向かう。

ここまでどおりのチェスの陣取合戦をしつつ、
オセロもしつつ、
さらには築いた城の中を豊かに繁栄させる育成ゲームもせねばならない。

「世の中の誰しもが追い求めてるものなのに、
肝心なそのものの正体を誰もが知らないの。

知らないのなら探り出そうとするものだけど、
なぜだか誰も探ろうとはしない。

それゆえに。
必死で追い求めてるものの正体を知らずして、
それを表す言葉だけが有難がられ、
ひとり歩きの空回りが続けてられている。
これこそが、このゲーム世界の最大の謎なのよ」

まだボクは負けたわけではない!
こっちには、先の展開でしか使えないが奥の手があるんだ!

このゲームは、チェスとオセロと育成の要素に加えて、
いずれモンスターハントの要素も出てくる!
その種類の盤面が展開してゆけば、こっちの得意分野だ!

ボクは闘志を改めてラフに注入する!

こっちの話をちょっとは聞きなさいよ!の目つきをしてカンテラオパールは、

「何度も繰り返し言っておくけど、
このゲームは決着をつけるのが目的じゃないからね。
むしろ。
決着をつけるまでのプロセスに最も価値があるゲームなの。
肝心なものはプロセスの副産物として手渡される仕組みだから」

カンテラオパールは自分の胸に指を当て、

「注意深く見ておくのよ。
エッシャーの絵のようにレイアウトされてゆく盤面の美しさもね・・・」

ポーンたちがみるみる大きく組みあげる最初の自分の城を、
カンテラオパールはうっとり眺めた。

(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?