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Stones alive complex (Rhodochrosite)


(・・・こちらはエージェントネーム『灼熱の鼓動』。
『花も恥じらう松果体』へ状況報告。
『つるつるのヒョウタンでぬるぬるのナマズを押さえこめるか作戦』は成功した。今から本部へ帰投する。予定どおりの時刻に『銀河系最速のガラクタ』と回収ポイントで合流する。
以上だ・・・)

灼熱の鼓動は、切ったスマホをスーツのポケットへ戻すと、アストンマーチンDB10の助手席から後ろをつけてくる不審なヘッドライトがいないか確認した。

よし。
我々の現在位置は、まだやつらに悟られていないようだ。

運転席に沈みスリットスカートから伸びた足で巧みにスーパーカーを操るエージェントネーム『妖気妃』のチラリズムもスマホを戻す瞬間に確認してることは、悟られていない。バディを組むのは初めてとはいえ、彼女の逃がし屋としての腕前は確認済みだ。

タフなミッションだった。

アウトバーンを200キロ程度でノロノロ走ってる他の車の隙間を全豪オープンのテニスプレイヤー並なフットワークですり抜けつつ、妖気妃は、

「さすが特Aクラスのエージェントさんね。
まさか本当に、つるつるのヒョウタンでぬるぬるのナマズが押さえこめるなんて・・・」

フッ・・・とこぼれそうになる笑みをこぼさず、灼熱の鼓動は彼女の賞賛に応じる。

「君こそ大したもんだ。
安全が完全に確認されるまでは暗号で会話するスタンスとは、見上げたプロの警戒心だ。
もしかすると、この車にも盗聴器が隠されていて、我々は泳がされてるだけなのかもしれないからな」

遅くまで浮かれ騒いだ人々の車のライトが揺らすビームを、感慨深げに灼熱の鼓動は見つめる。

ぬるぬるのナマズが押さえこめられてる間は、この世界の家路はヒョウタンで守られるだろう。

「ほんとにどうやったの?
『水戸黄門』でも絶対に不可能なはずよ。
守秘義務の範疇で、教えてくれない?」

妖気妃のしつこい賞賛に灼熱の鼓動は、
フッ・・・とこぼれそうになる笑みをこぼす今度は。
肩をすくめて話しだす。

「やつらは、ぬるぬるのナマズを『南海の虎河豚』へ食わせようとしていた。あの拡散型のトラウマパルス発生器は投下されてしまったら心理断層内部の広範囲に伝染してしまい、捕捉も解除もまず不可能だ」

「そうよね・・・」

人間ってのは、時々全く理解しがたい行動する。
道を歩いている時にみんなが空を見上げてたら、思わず空を見上げてしまう。
そして空になんにも無くても、みんなが見上げている間は同調圧力なのか見上げ続けてしまうものなのだ。
そんな時。
みんなに合わせているように振る舞いつつも、横目で下方にあるスリットを探すのがエージェントである。そのスリットの奥には、目先の利益のためには地球ですら悪魔に差し出す連中が足を組みかえてる。

横目で妖気妃を見ながら灼熱の鼓動は、

「そこでだ。
俺はロードクロサイト加工した『ヒョウタン』を『生ける鹿骨』に乗せて『独りよがりの未来地図』と照合して割り出した『もたれるピザの斜塔』へ『段取りチキン』したのさ」

「え!
まさか?
段取りチキンは『@驚く為五郎』のアカウントが無いと『食べログ』できないはずよ!」

「『カルメンマギ』に『666プロテクト』をかけたんだよ」

「信じられないわ!
そんなことしたら、『お嫁産婆』が『びっくりして卵を産む』じゃない!」

「まあね。
大義のためには多少の犠牲はつきものなのさ・・・
リスクの無いミッションなど、存在しない。
リスクの無い『柿ピー』が、存在しないようにね。
おっと・・・!」

このアストンマーチンを、飢えたピューマのスピードで追いかけてくるヘッドライトが、ドアミラーに映った。
灼熱の鼓動は、沈着冷静に妖気妃へそれを伝える。

「どうやら、
その『柿ピー』が、おいでなさったようだぞ」

妖気妃がアクセルを、スリット足でベタに踏み込む。

「追っ手の比率は?!」

「『柿の種』が6で、
『ピーナッツ』が4てとこだな」

「私はその比率がいちばん美味しいと思うわ!
シートベルトにしがみついてて!
合流ポイントの『いきなり素敵』まで飛ばすわよ!」

妖気妃がステアリングを回し、そう鋭く叫んだとたん。

タイヤ全部が棺桶を内側から引っ掻くような音をたてて、アストンマーチンは反対車線へ飛び出した。

(おわり)

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