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Stones alive complex (Ethiopia opal)


ボクはエチオピアオパールへ軽く首を傾げる仕草で、
もうちょい身を乗り出して聞いてくれよと伝えた。

オパールが本腰を入れて話を聞きましょうと胸の前で指を組むのを見届けてから、続きを話す。

・・・でもだからといって、ボクやキミがこの二項対比次元の世界で孤立無援だというわけじゃない。
要するに、こういうことなんだ。
ボクたちはいっときも休まず眼を見開いていて耳をそばだて、
回りの状況がどんな影響を自分に及ぼすかを、
自分の行いが回りにどんな影響を及ぼしてるかを、
よくよく考えるようにしなくちゃならないって丹念にシツケられてるんだ。
そのシツケの教え自体は、たいへん結構なことだ。
けどね。

この教えには難点があって、それはその「影響」ってやつは測定も予測も不可能ってこと。
あまりに広範囲すぎるし流動的すぎる。
状況は広くめまぐるしく変わってゆく。
ある状況で測定したデーターは、次の状況では使えない。
次の状況では内包されてる要素が前とはまったく異質だってことなのさ。

予測不可能なことを予測しようとして考え続けても答えは出ない。
考えてる間にも、状況はころころ変化してゆく。
そうなるとどんどん脳は疲れきってゆき結果的に思考を放棄して思考停止にならざる負えないんだ。
むしろここは思考ステージじゃなくて訓練による条件反射ステージへの刷り込みが必要なカテゴリーなんだけど。
やっかいなことに「考え続けろ 」がすでに条件反射として刷り込まれてるパラドックスてなわけ。

ボクはボクサー気取りの体勢になった。
脇を締めて肘を曲げ、コブシを上げる。
そのコブシを顔の前でシュッシュッと素早く前後させる。

それにその「思考しろという条件反射」は、
「思考」の左ジャブよりも数段速い。

こちらが撃つもっと前にメビウスの輪みたいな巻き込んだ右ストレートを撃ってくる。
一生懸命に考えろ。それと同時に一生懸命に考えてばかりではダメだ。
両方を足して2で割って、一生懸命に考えないで済むような方法を一生懸命に考えろとややこしいパンチがくる。

ボクはそんな思考しろの条件反射からクロスカウンターをキメられ撃ち負けた思考のポーズを実演してテーブルにダウンするギャグをかます。
目を回して舌をだらんと出すサービス付きでだ。
少しでもこの場の雰囲気が和みますように。
まだ話は続くから。

オパールは、穏やかに見下ろし。
組んだ指を小指から順番にぴくぴく動かす。

その指のなめらかな動きをボクは目で追いながら。
有用な直感ってやつは、思考を完全停止した瞬間しか降りては来ない。
さっき言ったジレンマ由来の思考停止の有効活用ができるとしたら、思考を停止する目的で限界まで思考するという禅問答のロジックで使えるかもしれないけど、たいていは直感にも蓋がされて停止したまんまフリーズになる。
収束させるべき終着点へのベクトルを誰からも教えられてないか、
向こうさんの都合のいいベクトルを教えこまれてるか、
が原因でね。

ほんとうは自分は好きなようにできる。
元々自分は自分の支援者だった。
ま、少なくとも産まれたばかりの頃に、そうでなかった人はいない。
その支援者は今じゃ脳内議会の末席に座らされている。
でも身を堕としたとしてもいちばんの古株だ。
一番若いんだけれどもね。
永遠に歳もとらないし。

オパールがじわじわ沈んでゆく背を伸ばして、
上半身、おもに首から上への血の巡りを良くしようとする。
指も組み直す。

まあ。簡単にできるとは思わないよ。
クダらないことを延々と思考させられ、とどのつまりは思考嫌いにされてしまうシツケがはびこってるこの二項対比世界では。
だが!
しかし!
このマインドパレスの中となれば、話向きも変わる。
こんな黄昏のパリのレストランをリアルに妄想するのもお望み次第。
パリに行ったことはないけどたぶんこんな感じだろう。
とりわけ、目が合うたびにニッコリ微笑んでくれる綺麗な鎖骨をした女性パワーストーンと同席することも。

ぎりぎり合わさないように、
オパールは目を最低限の角度に伏せる。

なので。
キミの方から、なんにもできない私だけど何かできることはない?という謙虚な申し出をしてくれてもいいけど。自分で宣言してるように、なんにもできないのなら、できることはないのだし。なにかできそうな事を始めてもできないってことになるよね。

そこを正しく言うなら。
現時点では何もできない私だけど、できるようになれることがあるかもしれないから、何か私にできるようになって欲しいことはある?
だよね?
わかってるわかってる。
その申し出の真意は別階層のとこにあるってーのは。

そして、自称なんにもできない人でも確実にできることはある!
それはね。
「根拠なんかなくてもぜんぜん構わないむしろ無いほうがいい安直な同意」ってやつなんだ。
ただ「大丈夫!」と同意してあげることなんだ!!!
これは、「根拠があるから前に進む」の進化系となる「前に進んだら根拠が後からついてくる」へのシフトなんだ。

そこの大丈夫だという中身に確固な根拠はいらないし、
逆の大丈夫じゃないという中にも確固な根拠もいらない。
理屈としては可能性が五分五分だとしても、
なぜか大丈夫じゃない根拠ばかりを思いついてしまって大丈夫だという根拠の方はあまり浮かんでこないこの心理を客観的に観察してみると、
大丈夫だと思いたいくせに、大丈夫じゃない!と思いたがろうとしてるアンビバレントな動きをしてるってことになるよね?
ここも変な設定にシツケられてるわけなのだよ。

オパールは拳にグッと爪を立てる。
目は口ほどに物を言う、はずの目はなにも物を言わず。
指先の方がはるかに雄弁に喋ってる。

眼頭が急に熱くなってきた。
(妄想の)パリのレストランに置いてあった七味唐辛子を豚汁定食にかけすぎたせいかもしれない。
眼球の端っこに遊色が泳ぐ。
うずうずする種類の微かな恐怖を感じている。

過去に味わった自由は、拘束への恐れが錯覚させようとした理論上の自由であり、
感覚上の自由はどこにも無かったのかもしれない。

そういう自由を想ってボクはタイミングを計る。

そこへウエイトレスさんが来た。
和風ランチセットなのにデザートがなぜかチーズケーキ、その食べ終わったお皿を片付けに来たのだ。
ピンクのチェリーが後味を引き立たせていて彼女と同じオパール色した極上のケーキだった。

いいタイミングで介入してくれたねウエイトレスさん。

よし!
長ったらしい前振りはここまでにして、
本題に入ろう!

・・・

オパールの目を正面から見据える。

ところで。
現時点で限界をとうに超えて満腹になってるボクの胃が、
キミにどうしてもお伺いしたがってることがあるんだが・・・

・・・

もう一個チーズケーキ、追加して食べても大丈夫かなっ??!!!!!

・・・ヾ(*ΦωΦ)ノ・・・


間を置かず、オパールは即答した。

「大丈夫じゃないわね」

・・・( ¯−¯ )

・・・さて。
・・・もう一度最初っから、今度はもっと噛み砕いて話そうか。

ボクはオパールに軽く首を傾げる仕草で、もうちょい身を乗り出して聞いてくれよと伝え。

・・・でも、だからといって・・・

(おわり)

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