見出し画像

Stones alive complex (Natural Aura Quartz)

囚われの塔のいちばん高い部屋に幽閉され、焦げ茶色の壁を物憂げに眺めながら座っていたオーラクォーツ姫は。

長い長い螺旋階段を誰かが下から登ってくる足音に気がつき、怯えた様子で立ちあがると、ドアに耳を近づけた。

その足音は。
悪い魔法使いのおばあさんがやってくるいつもの濡れモップで床をこするような不気味なひきずり音ではなくて。
カツンカツンとした、リズミカルかつ事務的な音だった。

姫は別の意味での警戒心を感じ、眉をひそめる。

しばらくすると。
囚われの部屋に景気のよいノックの音がした。

オーラクォーツ姫はびくりと後ずさり、か細くドア向こうへ言った。

「どちら様ですか?」

ドアの向こうから滑舌の良い快活な声が応えた。

「黒ヤギ宅急便です。
オーラクォーツ姫様宛のお荷物をお届けにまいりました」

「宅急便を?
ワタクシに?」

姫はドアへ近づいた。
そして尋ねる。

「あのう・・・
この塔の下に、
こう申しあげては相手様に失礼かと存じますがやや善良さに欠ける風貌をなさった年配の御婦人と、いつも落ち着きがなさげに火を吹いてらっしゃるトゲトゲの羽をお持ちの大型爬虫類さん、それとオデコに小物っぽい感じの角を生やしているおおぜいの小柄な下っ端さんたちがいらっしゃいませんでしたか?」

ドア向こうから黒ヤギ宅急便が答える。

「ええ。おられました。
しかし、塔の上にお届けものがしたい旨の了解を得ようとしたのですが全力で拒否されまして。
配達御指定時間が迫っていたのと、
お届け先様になんらかの複雑な御事情がおありとお察ししまして、
やむおえず当社の規定にもとずく範囲内で実力行使させていただきました」

「実力行使って?
あの者たちはどうなったのですか?」

「配達車前部に備え付けられております進路妨害対策用のプララズマズマビームの全開放射を浴びられました。
現在、対象物がどういう分子構造に変貌しているかを具体的な描写で御説明申し上げましょうか?」

「・・・いえ、結構です・・・」

「精神衛生上、極めて賢明な御判断です。
もし、この処置に何らかのご不満がございましたら当社のお客様サービス係までクレームを御連絡くださいませ。
では、お荷物受け取りの捺印かサインをお願いします」

「そうしたいのですけれど。
ワタクシには、このドアが開けられないのです」

姫の言葉が終わるか終わらないかのうちに。

ドアの長方形の形どおりに一瞬の火花が散り。
ドアが消失した。

薄い煙の中に。
背の高い黒山羊の顔をした男が、冷蔵庫でも入っているのか?という大きさのダンボールを抱えていた。

「配達御指定時間まで残り1分を切りましたので。
当社の規定にもとずく範囲内で実力行使をさせていただきました。この処置に何らかのご不満がございましたら・・・以下同文。
では、ここへサインをお願いします」

伝票とボールペンを差し出す。

姫が点々の丸の中へサインを書き込むと、

「ありがとうございました。
では、失礼いたします」

お辞儀をして、
登ってきたと同じのリズミカルに階段を降りていった。

姫は部屋の中央に置かれた大きなダンボールの中身を遠巻きにうかがっていたが、
やがてダンボールに貼られた送り状を読んだ。

品名(ワレモノ・なまもの)
『王子』

・・・王子?

「じゃじゃーーーんっ!!!」

いきなりダンボール上部をぶち破り。
王冠をかぶった若い王子が飛び出てきて、
空中でくるくる回転した。

「お姫様ーっ!お助けに参りましたよーん!
僕は隣の小国の王子だよ!
姫様を助けられたら嫁にしてよいとお宅の国王様の御触れが出てたので、さっそく飛んできたのさ!
飛んできたと言っても、魔法使いやらドラゴンやらゴブリンを相手にして、ゆとり育ちの僕が敵うわきゃないから、こうして最強の宅急便の荷物になってやってきたわけ!
どうよ?
めっちゃ頭いいでしょ僕ってさ!
じゃ!
早く一緒にお城へ帰ろう!
それから僕と恋をしようよ!」

その王子は。
空中でトリプルトウループしている間に以上の内容を早口でまくしたてた後、
すたっと床にキメポーズで立った。

ウインクして熱くオーラクォーツ姫の手を取る。

王子にぐいぐいと手を引っ張られても、
オーラクォーツ姫は足を踏んばり引っぱり返していた。

「・・・こう申し上げてはゆとり王子様へ失礼かと存じますが・・・こういう助けられ方は、なんかぜんぜん違うと姫ははっきり申しあげます・・・」

(おわり)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?