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Stones alive complex (Chrysocolla)


再び、歩みが止まろうとしている。

生命の維持に必要なエネルギーから、損傷部分の修復へと緊急対応で使われるエネルギーが回される時。
最初にカットされるのは常に移動のためのエネルギーだ。

クリソコラは立ち止まり、倒れないようにかろうじて身体を支えた。

「シールドが、まだ12パーセントしか機能回復していないわねえ・・・
余裕かまして避けなかったから、邪鬼どもの牙を食らいまくったわ。
エネルギー配分の計算どおりシールドは全損することはなく、楽勝でワタシの完全勝利だったけども、
次回はもうちょっと戦略を変えなければね。
変えなきゃいけないのは戦略ではなく、戦闘に対するワタシのスタンスの方かしら?
やれやれ。
単独奇襲ミッションはコンプリートできたものの、
シールドが、ぼろぼろの穴だらけになってしまった。
あと半キロ程度で、我が故郷だっていうのに・・・」

今いる場所とすぐそこの故郷とを隔てている林の上に、
故郷の王宮の天守閣がはっきり見えてきた。

クリソコラはシールドへ全エネルギーを回して修復しながら、ふらふらとよろめく。

ちょうどその時、青緑のたくましい幹を持つ大木が一本。
彼女の視界前方へ忍び寄るように現れた。
それを見てクリソコラは眉を丸くし、にんまりとした。

( ͡ ͜ ͡ )💡

「なんてグッドタイミング!
ここでエネルギーをチャージさせてもらいましょう。
きちんと身支度が整ったら、晴れて故郷へ凱旋ってことで!」

地面へうねっているその木の根っこへ座り込み、頼もしい太さの幹へ背中をもたれる。
混合結晶の充電ケーブルを背中から突き出すと、
幹の奥まで挿入させて、木から生命エネルギーを吸い込み始めた。

シールドの穴の、というより、かろうじて身体を覆っているちぎれた破片から覗く、体育座りで曲がった膝小僧を眺め、呆れたため息をつく。
からの。
修復が進み始めたシールドが膝小僧その他の露出した部分を元通りに隠してゆくじわじわした動きへ、安堵のため息をついた。

『あのう・・・ちょっとよろしいですか?』

突然、その大木がクリソコラのケーブルを通して意思を語りかけてきた。

エネルギーが満ちる心地良さに、
うたた寝寸前だったクリソコラは飛び起きる。

「あ!どうも、ごめんなさい!
コミュニケーションとれるほどの年輪の木だったのね。
事後報告で申し訳ないけど、勝手にチャージさせてもらってるわ。
なんやかんやあって、活動エネルギーをたっぷり補充しとかなければならない状況なの」

クリソコラは、視覚を持たない木に対してそんなことをする必要などないのだが、
たしなみとして両手で胸元を合わせてから、頭上に広がる無数の葉が重なった屋根を見上げた。

「この御礼は故郷へ帰りついてから出直して、
改めてさせていただくわ」

木は、優しげに葉をさわさわと揺らせた。

『いえいえ。礼など必要ありませんよ。
あなたが吸い取っているエネルギーなど、
私にとっては大海の一滴』

それよりも、と木は続けた。

『見たところ、アナタの故郷はすぐそこで。
ケーブルから伝わって分かるのですが、
アナタが移動に必要とするエネルギー残量は、まだ充分に残っている。
どうして、さっさと故郷へお帰りにならないのですか?
この状況においてシールドなんかを修復しなければならない必要性が理解できなくて、
ささいな好奇心に駆られ、お尋ねしてみたまでなのですよ』

ああ。
年輪のわりには、なんてデリカシーってもんが分かってない木なのかしら・・・
そう表情は穏やかにキープで、クリソコラは困惑した。
けれどそれはデリカシーの問題ではなく、
木なのだから分かりようがない事なのだ、と思い直した。

言われたとおり、残りのエネルギーならば全力疾走ででも故郷へ帰れる。
しかし!
ワタシのエネルギーシールドは、比喩的な意味でも物理的な意味でもドレスになっているのだ。
ワタシは、ほぼ全裸のまま故郷へ凱旋するつもりはない!

出迎えてくれる歓喜したギャラリーから、
スマホのフラッシュを浴びるのは心地よいだろうけど、
あちこちモロ出しの姿を世界中へ配信されたくはない!

それくらいの見栄ってもんは、この戦闘用パワーストーン(♀)とて、ある!

だが、エネルギーを充電させてもらってる恩義もあり、
クリソコラは説明責任の必要性は感じた。

「えっとねえ。
どこらへんのレベルから説明したら、木にも分かってもらえるか・・・
探り探り話すけどもね・・・
まず。
インスタっていうのは、知ってる?」

クリソコラは、しどろもどろに木へと説明を始めたが。

それを木が完全に理解するのは、
クリソコラの完全修復よりも、はるかに時間がかかりそうだと計算した。

(おわり)

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