見出し画像

Stones alive complex (Black opal)

巣にしている邪悪に呪われた岩山の頂きを覆わんばかりの巨大なドラゴンが、その牙のあいだから地獄の業火のごとき炎と、雷を呼ぶ咆哮を吐き続けている。

『選ばれし七人の騎士団』は。
ドラゴンが起こす地響きで揺さぶられるその岩山の頂きから、わずかに下の場所にある薮の影に身を潜め、ドラゴンとの決戦を始めようとしていた。

「よし。
皆の者、命をかける覚悟はできておるな!
せーの!で、いっせいにドラゴンへ飛びかかるぞ!
全員の心をひとつに結集せねば、あの邪悪なるドラゴンには絶対に勝つことはできないのだ、忘れるでないぞ!」

騎士団のひとりが他の騎士たちの決死の表情へ静かに、されど力強くそう言う。

それぞれの腰の鞘から、騎士団はすらりと剣を引き抜いた。

「では。
せー・・・」

「待て!」

騎士団のひとりが、立ち上がろうとした騎士団を止めた。

「なんだか・・・
せーの!じゃ、心をひとつにして飛び出す勢いが出ない。
別の掛け声はないのか?」

まあ、確かにな・・・と。
騎士団たちは、伸びかけた腰を下ろす。

「別のって、たとえば?」

「突撃ーっ!
とかは?」

「我らは誇り高き騎士だ。
そんなんで安直に飛び出す使い捨ての歩兵じゃない」

「いちにの、3っ!
とかは?」

「それこそ勢いのテンポが庶民的でイマイチだな。
別の方向で考えてみれば。
これは後世まで伝説に残るであろう騎士の壮絶なる決戦なのだ。
せーの!も、突撃ーっ!も、いちにの3!も、騎士さに欠けすぎている」

「確かに。
伝説として後世に伝わるのなら、ここは騎士として、こだわるべきだと思う。
『騎士団たちは、いちにの3!という掛け声とともに勇ましくドラゴンへと飛びかかった』
なんて幼稚園の学芸会みたいな伝説が残るのは嫌だ」

「じゃあ。
本格的にこういう掛け声ならどうだ?
『やあやあ!我らこそは、選ばれし七人の騎士団!
世界の半分を焼き尽くした邪悪なる暗闇のドラゴンよ!残された世界の半分は我ら選ばれし七人の騎士団が命をかけて守り通す!今日この岩山がお前の墓標になると思い知るがよい!我らが盾に輝くブラックオパールのエンブレムにかけて、いざ尋常に勝負だーっ!』
っていうのは?」

「いいね!
心が騎士っぽく一丸となれるナイスな掛け声だと思う!
これなら後世に恥ずかしくない伝説が残せそうだ!
・・・しかし、やや長めじゃないか?
誰が言うんだ、そんな長ゼリフを?」

「それは、考えついた俺が責任を持って噛まずに言うよ」

「いいだろう。これで決定だな。
その掛け声でゆくぞ!」

話がまとまり。
騎士団は抜いた剣を改めて構え直す。
互いに目配せして、タイミングを合わせると。
同時に薮から立ち上がり、剣先をドラゴンへと向けた!

「やあやあ!我らこそは、選ばれし七人の騎士団!世界の半分を焼き尽くした邪悪なる暗闇のドラゴンよ!残された世界の半分は我ら選ばれし七人の騎士団が命をかけて・・・」

「ちょっと待ってくれ!」

騎士団のひとりが、掛け声役のセリフをさえぎった。

「なんとなく、引っかかるのだが。
『尋常』ってさ。正々堂々と潔く、って意味あいだと思うんだが。相手は邪悪なるドラゴンだから、そう呼びかけても正々堂々も潔くもしようがない獣系なのだし。そこの言葉だけどうしてもそんな違和感を感じて、心がひとつになり切れないのだが・・・」

騎士団は、そう言われてみればそうかもなと、うーん・・・な顔を見合わせ考え込んだ。

掛け声役は言いかけてしまった掛け声を止められず。
時間をかせぐから早く結論を出してくれと、掛け声の続きをゆっくりに・・・

「え~。
我ら・・・七人の騎士団・・・が・・・守り・・・通す?
今日この岩山がお前の墓場になる・・・と思い知るが・・・よいの?
我らが盾に輝・・・くブラックオパールの紋章・・・にか・・・けて?
いざ・・・
いざ・・・??
いざ、何な勝負??」

ひとつの心で飛び出すキッカケ待ちの騎士団は。
余裕で狙いを定めたドラゴンから地獄の業火のごとき炎と、雷を呼ぶ咆哮を吹かれ。

一瞬のうちに『選ばれし七人の騎士団』は、まずは『残されし三人の騎士団』になった。

(おわり)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?