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Stones alive complex (Green Amethyst)

「つまり。
あなたが言いたいのは、なにかをほんとうに理解したかったら、特に自分自身のことなら、いちばんいいのはそれを客観的に外から観察できる事物として実際に造ってみることだと考えた、ってことですか?
そうすると、頭のなかでごちゃごちゃしている妄想を嫌でも整理しなくちゃなりませんからね。
複雑な妄想であればあるほど、まずはどんどん単純な要素に分割していかなくちゃならない」

「そのとおりだ。
しかし・・・
複雑であればあるほど単純に分けていったら、要素は星の数ほどに増えてってしまったんだがね・・・」

ぼそぼそ答える彼のどこからか、低くうなるような音があがった。その音はハウリングに似た微かなリズムがあって、その音波に吸い寄せられた光の粒が彼の額の前に集まり球体となった。球体は彼の頭の周りを公転しはじめ、それを透明な深緑色の瞳で追いつつ、彼は話しを続ける。

「まあ。星の数ほど要素の星が増えたあたりで、分割作業は見切りをつけることにしたんだ。
それ以上細かく分割を進めると、認識できないほど小さくなってしまって、もはや消去になってしまうからね」

「それから、完全に理解できてる要素の組み合わせ順に、ゆっくりと再び妄想を組みたて直していったんですね?」

うむ!とうなづき、彼は超重力安楽椅子から身を起こした。
見透かすような目つきで、逆に質問してきた。

「きみは・・・何か自分の作品を完成まで仕上げたことがあるかね?」

「いいえ。
僕は安全で無責任なポジションから世界へ言論を投げ込む、ただの評論家ですよ。
作ってるようなものがあるとすれば、批判と賞賛です。
世間が求めてくるニーズに合わせて、批判か賞賛かを作り分けるんです。
もちろん、ちょくちょくニーズは読み違えますよ。
賞賛すべきところを批判しちゃったりとか・・・」

そこで取材の言葉を切って、 自らを笑った。
彼もつられて、

「 私もしょっちゅうあるんだよ。
読み違えはね」

ふふと、笑う。

「それは知りませんでした。
世間では、あなたは完璧な存在だと信じられてるんです」

それを否定するかに彼は語気を強める。

「自己憐憫するのではないが、その評価はとんでもないよ。
できると思っていたものが、やってみたら今の自分では到底できなかったり・・・
実際に作ってはみたものの、これはなんだか作りたいものでは無かったな、と悟って壊したり・・・
その繰り返しの毎日だ。
今のところ上手く創れるようになったと自負できる作品は、私を完璧な存在だと信じこんでくれる世間というか、世界基盤だけだな・・・
無限に繰り返してきた試行錯誤で、その種のスキルだけはようやく確立できてきたようだ」

「作品は自己の投影と言いますから。
自覚していない真の願望が、色濃く反映されるものです」

彼は超重力安楽椅子に深く沈んで軽く身じろぎをし、あくびをかみ殺した。
すると彼の頭を中心に公転していた球体が、パチンと弾けてダークマター粒子に還元されて霧散した。弾ける直前に、球体の表面からデモ隊のシュプレヒコールみたいな大勢の声がしたような気がした。

そろそろ取材は切り上げたほうが良さそうな頃合かな。
メモで埋めつくされたノートも、余裕がもうない。
彼が創造した出版社から依頼された締め切りまで、彼が創造した執筆時間の余裕もない。
インタビュー記事を書き終えたら、万物の創り主である彼が創造してくれた自分の役目も終わり、ダークマターへと還元されるのだろう。

ノートの余白を探しながら、
最後のまとめの質問をした。

「で。
結局のところ。
あなたはそこまで無限の苦労をして、
いったいどんな妄想を創りたいんですか?」

「それがどうしても知りたいから、
ここを何回も創り直してるんだよ・・・
私にインタビューできる者を創って取材を受けたら、
客観的にその答えのヒントが得られるかな、と思ってたんだが・・・
もっと時間が必要なようだ。
追加の時間を創るよ」

取材が振り出しに戻った。

(おわり)

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