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Stones alive complex (Roman Glass)

虫眼鏡を額に上げて愛想笑いを浮かべる修理屋の両の目つきは、『CC』に似ていた。

右手の人差し指で引っ張ってきた鳥かごを彼の前へ寄せ、要望を告げる。

「この鳥を修理して欲しい」

修理屋はドラッグ・アンド・ドロップで受け取ったその鳥かごを作業台へ乗せると、丁寧に観察する。

「ほお。これはこれは・・・
ディレク鳥だね」

「これはディレク鳥なのか。
レジス鳥かと思った」

にんまり笑う修理屋の表情は、素人じゃあそこの微妙な見分け方は難しいんだよとほのめかしている。

虫眼鏡を額から下ろし、鳥の白く光る腹の産毛を慣れた手つきで掻き分け、接続ジャックを見つけると、指の先から伸ばした解析プローブを差し込んだ。

「ふむふむ・・・
ファイル定義が壊れているだけだな」

「治るだろうか?」

「治るとも。
拡張子を交換すれば、すぐだ」

修理屋は、ぴくりとも動かない鳥の尾を抜く。

どこかから落ちてきたらしいこの白いヒナ鳥を、デスクトップの隅に発見した。
なんの色もついていない謎の白紙ファイルが机の上にあるのは落ち着かないものだ。その真っ白さは正体を失って気絶してるようで、気の毒な気分になる。

修理屋は、引き出しからつまみ出したカラフルなアルファベットをいくつか組み合わせ、鳥のお尻に打たれた『.』の後ろへ連結した。

ぴくりと鳥の羽が動き出す。
鳥は、白からローマングラスの生き生きした模様となった。

虫眼鏡のレンズへ、解析結果の文字列をリスト表示させながら修理屋は、

「こいつは、どこか深いところにある鳥かごに、巣を作ってるはずだ。
鳥かごを多層に作りすぎると、この鳥ははるか遠くのサーバーから渡ってきて見つからないような深い階層で繁殖するんだよ」

デスクトップを全画面表示で占有している修理屋は、メンテナンスソフトらしく全ディスクのスキャンも行おうとしているので『キャンセル』をクリックする。画面の真ん中でキョロキョロ回っていた虫眼鏡が、ピコンという音をたてて止まった。

「いいのかね?
巣の場所を特定しなくても?」

「いいんだ。
イタズラをするような鳥には見えない。
素人判断だが」

それに・・・と、付け加える。

「ちょうど、新しいPCを買おうと思っていたところでね。
この古いやつはオフラインにして、鳥たちの楽園にしてあげたい」

「なんとまぁ物好きな人だねえ・・・
だが、くれぐれも新しいPCにもフォルダーを作りすぎて二の舞にならぬことを強くお勧めす・・・」

修理屋の額の右上にある『❌』を押し、有難いアドバイスの途中だが、飛び立とうとする鳥を抱えてすみやかに退店する。

(おわり)

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