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Stones alive complex (Dumortierite in Quartz)


「真の魂魄美容医術が、もっと手っ取り早く会得できたらよいのですが・・・」

ドュモルチェライトは、
口からこぼれた自らの言葉にはっと恐縮して身を引いた。

「いえいえ!
なんて幸運なことでしょう」

ドュモルチェライトのなめらかな声が、怯えのあるトーンになった。

「ワタクシが師から直々に教えを乞う機会が持てること・・・常日頃から感謝申し上げております」

ドュモルチェライトは、やや頭を垂れた。

「口が過ぎました、わが師よ」
そしていつもの上品さを崩さずに言った。
「ふと思ったことを述べたまでです。決して師からいただいた長期の習得カリキュラムに異を唱えたわけではありません。そんなことは断じてありません。異が唇の端からうっかり漏れ出た感は、正直否めませんが・・・」

いずこかの虚空におられる姿なき師の声が・・・
スカイプを通じて響いてきた。

「気にしてはおらん。
習得の困難さは、われわれの魂魄美容医術普及にとってむしろ好ましい。美容と健康の名のもとに、そなたが費やしてきた永き修練の記録は、半永久的なシンボルとなる。献身的行為の資格証明書であり、生きているかぎり、隠すことなく身につけていなければならぬ。各種SNSにもその真摯映えする記録を逐一投稿し宣伝するのだ。
その姿を見て、その栄光、決意、誠実さを疑える者はいない。
完璧だ。
そのままで完璧なコンテンツなのだ。
唯一の問題は、吹き込まれた生物学的限界の教えに浸されてしまっているまがいものの肉体の領域を、超えられるかどうかだ。
まさにそれを明らかにするために、私のカリキュラムは練られている」

ドュモルチェライトは反論できなかった。
師は、ドュモルチェライトが最大限に想像力を働かせて思い描いていたものをも超える魂魄美容医術の領域へと導いてくれただけでなく、魂魄美容業界内での立ち回りスキルにも非常に長けており。
根回し術、付け届け術、太鼓持ち力、魂魄美容院経営ノウハウ、
さらには資産運用スキーム、仮想通貨投資の裏情報などなど、その美容にとどまらない多岐に渡るいかがわし気味の知識を前にすれば、師の持てる魂魄美容の力さえ、ちっぽけに思えてしまう。

遠隔操作スコープが魂魄のポートを開き、
ドュモルチェライトの生命の根源が、拡大されて映し出された。

この数年のあいだに、魂魄に付着したたくさんのシミシワそばかす無駄な出っ張りがスコープに映し出されてきたが。
いかなる時もどの場面にも、そこには師の魂魄の質と形状を追う厳しい視線と言葉があり。
じっと覗きこみ、どう盛ればいちばんナチュラルか、どこを削ればラインがアンチエイジングになるか、その加減を教えてくれた。

「深く心せよ、ドュモルチェライト。
一般通常医療だろうが魂魄美容医術だろうが。
どちらもその基本精神は、同じ。
『医は仁術』なのだ」

いまいち、その師の言葉から説得力を感じきれないのは、己の魂魄がまだ整形しきれていないせいなのだろうか?

ドュモルチェライトはそう恥じ入り、
きゅっと目を伏せたが。

その恥じ入り理由は、たぶん違う・・・

(おわり)

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