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Stones alive complex (White labradorite)


ホワイトラブラドライトは、棚ぼたで幸運だった。

アイデンティティの肖像が描かれたキャンバスは、
DNAの標準配列が縫いこまれた本能でできている。

そこへ変幻自在のオリジナル配列が描ける筆と染料が、
風が吹けば桶屋が儲かる的な幸運で手に入ったのだ。
時事的な例えをして補足するならば。
風とは解散総選挙のようなものであり、
桶屋とは急ごしらえの新党みたいなものである。

ゲノムの筆を指ではさみホワイトラブラドライトは、
ホワイトラブラドライトをホワイトラブラドライトの肖像たらしめてる輪郭線の配列へと、
慎重に近づける。

ぴちょっとイメチェンの染料を、一点つけた。

DNA配列の特異点へピンポイントで打たれたそのドットは、群青色のピクセルとなった。

新たに加えられたな一点の隣に並んだドット列は、
ドミノっぽい動きで色味を伝言してゆき、
繋がった列の染色体を、次々にパターン青へ染色した。
輪郭線が順次、なめらかな彩度のグラデーションになる。

自覚しているアイデンティティの印象が、ルネッサンス風になった。

自覚というものは、
正確な写実で自己認識できてるつもりだが、
できてるのはすべて希望的観測に元ずいたアバウトな印象だ。

この青色とて客観な青だけども、
もしかするとホワイトラブラドライト個人の主観で青なのかもしれないのだ。

ドミノが自動描画するタッチは速度を増し、曲線運動をはじめた。
うねってゆく点描のラインが、キュービズムを追い越し主線をぐいぐい太らせプリミティブアートの領域へ踏み込んでから、キャンバス上ですでに居座っていた既存の主線へ突っ込んだ。
接触した新旧2本の主線はお互いに一歩も譲らずぶつかり合い、
反発しあって表面張力の張り手を交しながら、
キャンバスの土俵際からはみ出るところまでがぶり寄る。

片方が「芸術は爆発だ!」と叫び、
もう片方が「爆発は芸術的だ!」と叫ぶと。
どっちの信念でもいいんだけど、どっちかがキャンバスの外へ浴びせ倒された。
その衝撃で。
どっちでもいいんだけど、爆発か芸術かが巻き起こって、
真っ青などっちかの信念の飛沫があたりに飛び散った。

絵の具の飛沫の球体がひとつ、ホワイトラブラドライトの顔前を銀色のスローモーションで飛び越し、
彼女の肖像の表面に張りついた。
球体がパカッと割れて千手観音のような多関節アームが出現したかと思うと、眉間の部分の絵の具表面をひき剥がし、下地に刷り込まれていた近代文化的な色彩をむき出しにした。
それは旧式の機械仕掛けで、骨ばった部品が寄せ集められた自虐史観の骸骨に見え。
千手のアームは、そこから使えなさそうなボーンをすみやかに放り出し、
使えそうな部品だけは残した上に純朴なタペストリーを描き足しだした。

『この作風は、ジャポニズム!』

ホワイトラブラドライトの声は、喜んでいるというよりは懐かしげだ。

『で、しかも、葦原の中つ国タッチ!』

ホワイトラブラドライトは美術評論家の眼つきでテイストを追いかけ、印象を感じた。

「さらに、と・・・主義はビフォア天孫降臨派・・・かも?」

(おわり)

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