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Stones alive complex (Libyan Desert Glass)


深夜、皆が寝静まる頃合を見計らい、
ボクはリビアン・デザートグラス星人の宇宙船へ忍び寄る。

この首都の街のいちばん高いビルより2倍は高く、
デザートグラスの宇宙船は地面から突き立っている。

暗視双眼鏡を覗いて入口の位置を確かめる。

入口のハッチがあるところまでの宇宙船の胴体を、
用意してきたロープも使ってなんとかよじ登り、
できるだけ静かにハッチをノックする・・・

「。・:+°ゥオ!・:+°ヘヘラ!」

デザートグラスのヒステリックな声がハッチの奥からする。
これは、「大きな薄い本はいりませんてば!もう来ないでって言ってるでしょ!」というデザートグラス語なのだが。
その言葉の翻訳は、ボクへは直接思念として正確に伝わってくる。

ボクだよ、ボク!
頼まれたものを持ってきたよ!

思念を返し、ハッチの向こうのデザートグラスへ返事をする。

ハッチがぷしゅんと音をさせ動き、開く。

「さっさと入って!見つからないように!」

デザートグラスはハッチから顔だけのぞかし、
キョロキョロ辺りを伺うと。
ボクの手を掴んで宇宙船の中へ引っ張り込んだ。

「よく来てくれたわ!」

彼女は万感こもったハグで、ボクをひしっと抱きしめる。

「まさか思念波通信ができる生命体が、
こんな辺境で文明的に孤立した惑星にもいたなんて。
何事もダメ元でやってみるもんね・・・」

ボク以外にもメッセージを受け取った人がたくさんいるかもだけど、
たまたまボクがいちばん近かったので・・・

宇宙船内部のハイテクノロジーな装置がひしめき合う通路を、
エンジンルームへとボクを先導して歩き始めたデザートグラスは。

よほどこれまでの成り行きでストレスが溜っているらしく。
継ぎ目なく(思念で)これまでの出来事を夢中で喋り続けた。

「不時着した直後はね。
ものすごい数の花火で大歓迎されたわ。
ワタシの母星のカミサク祭に匹敵するくらい。
そのゴージャスなウエルカム花火大会が終わると同時に、
皆同じカーキ色の服を着てる浮かれた人たちが、この宇宙船に群がってよじ登ったりしてきてね。
最強度のヘルクルスコーティングしてある船の外壁を、
ふざけてるのか原始的なドリルでガリガリ削ろうとしたりして・・・
バカ騒ぎにも程があるノリでもってはしゃぎまくるのよ。
その歓迎イベントは7日ほど続いたかしら」

その人たちは、軍隊っていうんだよ。
その様子はテレビで見てた。
国家の枠を超えて招集された国連軍の攻撃は、なかなかの大規模だったな。

まあ。
首都のど真ん中に、巨大な謎の宇宙船がいきなり突き刺さったんだから、
この星の常識としては、宇宙からの侵略者襲来す!って大騒ぎになるのは当然だけどね。

しかも、その未知の宇宙船はだ。
どんだけ攻撃してもキズひとつつかず、
それに対してなんら反撃をしてくる気配もなく、
この星をすみやかに明け渡せ的な定番の要求すらもアナウンス無しで、
ずーっと沈黙を続けてんだから。

こちらサイドからすると逆に不気味で。
いったい何の用事じゃ、わーれー?!
って、パニクるよ。

「ワタシはワープに必要な燃費の計算を間違っちゃったの。
ワープ途中でガス欠になり、ワープ空間から放り出されたとたん!
真正面にこの星があったってわけ。
コントロール不能のまんま地表と直角に不時着しただけなんだから、この星には1ミリも用はないの。
燃料補給したら、とっとと母星へ戻りたいだけなのよ!」

わかってるわかってる。
その言い逃れ・・・じゃなくてトラブル状況は思念が送られて来た時に何度も聞いた。
不可抗力の成り行きなんだよね。

デザートグラスは、そうそう!という自分に向けた納得のうなづきを大きく繰り返し、

「その長ーい歓迎セレモニーがようやく終わったら今度はね。
黒い服とサングラスをかけた何人もの大柄な人たちに囲まれた、
ピシッと太めの服を着こなして堂々とのけぞり歩く人が来たの。
この星の植物らしきものを束にまとめたのを持ってきたわ。
こっちはずっとそっちの歓迎にも無愛想な態度してたから、
なんかしらクレームでもつけられるのかなーって居留守使ってたわけ。
シカトしてたこっちが悪いのは分かってるけど・・・」

その、のけぞった人は、大統領っていうオール人類代表の人だよ。
キミにはまるで勝ち目がないって国連が判断したので、友好の花束を持ってきたのさ。

「それから、キンキラな服を着た人たちがキランキランなシンボルかなんかを掲げて来たの。
宇宙船を取り囲んで膝まずいてペコペコ頭を下げる行為をずっと繰り返してたわ。
夜通しでなにかぶつぶつ唱えてるのが気持ち悪かったあ」

ああ・・・どこかの宗教団体だね。
よくある勘違いで、キミを予言に書かれてる待ち人だと思ったんだよ。

「その次に来た人は。
船外モニターの前で緑色の書類を見せてきて、
なんかに登録してくれないと立ち退いてもらうとかなんとか言って脅してくる人。
立ち退けるもんなら、とっくに立ち退いてるわよ!
誰よりもワタシの方こそが、立ち退きたい立場だっちゅうの!」

それ、市役所の住民課の人っぽいね。

「その後しばらく静かだったんだけど。
ふいに、にこにこしながら、この星で作ってるらしい不思議な装置の説明をしにきた人が来たわ。
これは吸引力が衰えない唯一の脂肪吸引器だとかなんとか・・・」

ああ・・・訪問販売の人ね。
異星への販路拡大を目論んだんだね。
そのセールスマンは、かなり大胆かつ、やり手だね。

「それから最近ここへ頻繁に来るのはね。
大きくて薄っぺらい本を持ってくる人。
ここの世界で毎日何が起こってるか細かく書いてあるからって。
アナタには、ぜひ我が星のことをより良く知っておいてもらいたいのですって。
その本を毎朝、船の前まで届けてくれるって言ってくれたんだけど。
ここの情報にはまったく興味ないっちゅうのワタシは・・・」

それはたぶん、新聞の勧誘員の人だよ。
さっきは、ボクをその人と間違えたんだね。

「で。アナタは彼らと違い、
ワタシの本当に欲しい物を持ってきてくれたわよね?」

うん。指示された物を持ってきたよ。

バッグのジッパーを開け、
隙間から、満タンに詰め込んできたレモンを見せる。
デザートグラスの顔には満面の笑みが溢れる。

よもや。
ビタミン C(天然に限る)を連鎖バイオプラズマ変換して膨大なエネルギーを発生させる超技術があるとは、
ボクも実際をこの目で見るまでは信じられないね。

このレモンを注入すればキミの船のバイオエンジンが回復し、
キミの宇宙船はすぐに飛べるようになって、
この全米が驚愕、それ以外は気絶な大事件は一件落着となるのだね?

「その通りよ!
ただねぇ。
飛べるっちゃあ飛べるようになるんだけどねえ。
ほんのささいな問題点が、ひとつあって。
この宇宙船には逆噴射エンジンが付いてないの。
つまり、前にしか飛べないの。
何かに突き刺さる事態なんてゆう基本的なポカミスは、ぜんぜん想定して設計されてないから。
実はアタシ、操船の腕前は初心者以前の、無免許なのよ、テヘペロ」

ええっ?
じゃあどうするのさ?

「この星を突き刺したままワープすることになるわね。
ワープの転送エネルギーは宇宙船に触れているもの全てに伝搬されるから。
ワタシの母星宙域まで、ここの皆様を星ごと御案内することになるでしょうか・・・」

マジで?

「いい星よ!ワタシの母星は!
無尽蔵に地層から湧き出てくる、
酒(に相当する飲料)は上手いし、
ねーちゃんにーちゃんは綺麗だ(あっち基準で)!
めっちゃホリデーのパラダイスよー!
きっとこの星の住民のみなさんも気に入ってくださると思うわ。
いつも酔っ払ってのほほんとしてる牧歌的な住民ばかりの星だから、移住も大歓迎されるはずよ!」

どうやらエンジンルームへ到着したようだ。
連鎖バイオプラズマ変換エンジンの燃料注入口らしき蓋を開いて、
デザートグラスはボクに手を差し出す。

「じゃあ!それをこっちへ渡して!」

え?
ああ・・・そうだね今・・・渡すよ。
えっと・・・でもちょい待って。
んー。
どうしたもんかな・・・
えー、
あー、

(おわり)

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