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Stones alive complex (Ethiopian Opal)

「諸君。
私は、告白が好きだ・・・」

乙女はセーラー服をひるがえし、窓から見下していた開放感に溢れる放課後の校庭から振り向き。

他の生徒たちがそれぞれのクラブへと慌ただしく駆けてゆく廊下の隅で。
眼前に整列している配下の女学生たちへ向き直ると、開会宣言を開始した。

「諸君!私は告白が大好きだ!!!」

配下の女学生たちは、改めて整列のラインを正す。

「一目惚れが好きだ!
二目惚れが好きだ!
片思いが好きだ!
10年越しが好きだ!
20年越し以上のしつっこさも好きだ!
失恋が好きだ!
恋に恋して恋気分が好きだ!
恋に恋して恋気分になってみたい気分はもっと大好きだ!

相思相愛などよりも、
告白行為そのものが、大好きなのだ!

校内で!校外で!
校区内で!校区外で!
通学途中で!放課後で!
お昼休みに!
給食中に!
授業中に!
山中で!山上で!
海岸で!海中で!

この地上でいつ何時でも行われている、
ありとあらゆる告白行為が大好きだ!」

ノーブレスの長ゼリフがこれから続くため、
大きく準備の息を吸い込む。

「差し出したラブレターが、相手の回し蹴りで雲ひとつなき大空へ吹き飛ばされるのが好きだ。

返事が来ないラブレターが、
氷雨に濡れる通学路脇のしょぼい公園のブランコに置かれ、水墨画のように渋い感じに濡れ滲んでいるのを発見するのが好きだ。

下駄箱に入れておいたはずのラブレターが、
誰もいない校庭という舞台で、突風に踊らされ孤独に舞っている優雅な様を、難解な数式が黒板に羅列されてる数学の授業から横目で眺めるのが好きだ。

体育館裏へ呼び出したはずの相手が、午前零時を回っても現れず、さすがに撤収宣言をしようと付き添ってきた諸君らへ向き直ったならば諸君らは自己判断でとうに撤収していた跡の、空虚で真っ暗闇な美しい空間を夜明けまで鑑賞するのが好きだ。

ラブレターの受け取りを拒否し脱兎の勢いで逃亡する相手を、ヤツらの溜まり場のゲーセンまで追い詰め。迎撃してくるヤツの仲間の男子高校生らと我らぶちキレれた女子高生軍団とが大乱闘を繰り広げ、ヤツらがゲーセン側から出入り禁止処分にされたことは、このガラスハートな胸がすく思いだった。

だが。その大事件により。
我らもそれぞれの親が学校に呼び出され、
「うちのバカ娘が大変に申し訳ないことを・・・」と詫びる我が母が、ぺこぺこしながら職員室の先生方へお詫びの品のレターセットを嬉しそうに配る光景には、ガラスハートがちょっとだけキシキシした。

所詮、カエルの子はカエル。
所詮、羊の子は羊。
所詮・・・
狼の子は狼なのだ!
そこから我が宿命を悟ったのだ。

諸君。私は。
幾度となく粉々にされたプライドへ、
尽きることがない激怒の接着剤を塗りこめ、革新的なる未知の配列で懲りずに組み立て直すのが、大好きなのだ!

諸君。私は告白を。
悪魔が断末魔に絶叫する永遠にフェードアウトしない執着質の告白を切望している。

そもそもからネジが外れている私の頭から、昨夜景気づけで鑑賞し直した大好きな『ヘルシング』と『キルラキル』が春の陽気と混じりあったテンションのせいで、
すべてのネジを無くした主要な脳内パーツが、ほとんど吹き飛んでいるのだ!

諸君。懲りもせずに私に絶対服従しているネジが外れてしまった同志諸君・・・
諸君らは一体、何を懇願している?

更なる告白を懇願するか?
ズレた認知不調和マウンティングから噴き出すマグマのような告白を望むか?

紫電一閃の斬撃を尽くし、三千億の曼荼羅仏を涅槃へ斬り落とす関ヶ原が合戦のような告白を望むか???」

その問いかけが終わると同時に。
いっせいに右手を突き出した配下の女学生たちが、

 「 告白!!告白を!!告白をーっ!! 」

と、校舎を歪ませるほどの激情コールをした。

乙女はどこか寂しげに微笑み、そのコールを鎮めた。

「よろしい・・・
ならば・・・告白だ。

ここにあるラブレターは私の全魂魄が込められた、まさに相手の心の真の臓を直下の大腸ごと貫かんとするオパール原石の剣だ!」

乙女はおごそかに、
手につまんでた便箋を広げる。

桃色のパステルマーカーでトンガリ気味に殴り書きされたそこの一遍の告白文を配下の者たちへと掲げ、唱和を促した。

『まず!付き合おう!
自己紹介はそれからだ!』

その聖文を一糸乱れぬ敬礼で唱和する配下の者たち。

乙女はラブレターを手際よく折り畳み、手中へ戻した。

「だがこの永劫に繰り返されたハートブレイクのみの三年間。
在校するあらゆるすべての男へ、まんべんなく告白し切った三年間。

この三年 、苦渋のみをラッパ飲みしつつ堪え忍んできた我々には!
もはやただの告白では、
ぜんぜんぜんぜんぜんぜんっもの足りないっ!!

大告白を!!
鉄囲山の鬼神ですら裸足で逃げ出すがごとくな大告白を!!

されど。
我ら同好会の志は、わずか数名。
片手で数えられるほどの小隊にすぎない。

予定調和が狂い、うっかり告白が受け入れられてしまった退会者どもからも、取り残されてしまった惨めな残党だ・・・

しかし、諸君は。
たった一人でもツァーリーボンバー級の傷心破壊気質だと、私は信頼している。
ならば我ら集団には、米露中軍トータルよりも強大な破壊力が備わっているはずだ!

我々を校舎の裏門掃除道具部屋へと追いやり、午後の退屈な教科の余韻で無関心な惰眠を貪っている学友どもを叩き起こそう!
床へひれ伏させ、第二ボタンどころかズボンのジッパーすらも剥ぎ取ってやろう!

連中にコジれた思春期本来の痛みを思い出させてやる!
連中に屈服の範疇でしか鳴らない反抗期のジダンダを思い出させてやる!

「自分を幸せにしてくれそうな人を選んだらどうなの?」などという外野からの腐りきったアドバイスはほとほと聞き飽きた!
そんなものを見極める眼力など、今の私にはない!
断じて、ない!
まだ第一次性徴期真っ盛りの私に、そんな経験値の下支えが要求される高度な眼力など、備わっているわけがないだろう!
ならば!
踏み歩く戦さ場の土汚れを出来うる限りの数で、この学校指定の黒き靴へと塗り重ねてゆくしかなかろうがーーつっ!」

配下の女学生たちは身を震わせ、
なんだかいろいろ複雑な心境が入り混じってる滝の涙を流す。

「まあ、いい。
とにかく。

天空と大地の間に走る亀裂には、大人たちの良識などでは思いもよらなぬ青春という心の病があることを思い知らせてやるのだ・・・
特にだ!
我が同好会を一笑に付して、いつまでもクラブ認可していないこの学校の指導者たちへ思い知らせてやるのだ!

ただいまから会長としての私は、
諸君らと共に!
最終告白行動を開始する!

偃月(えんげつ)陣形を組め!

逝くぞっ!!
諸君っ!!!」

乙女は、セーラー服のスカートを廊下奥の階段へなびかせた。

「告白同好会」の部員たちは、
高校卒業直前の最後の告白、それも校長先生へと挑みゆく会長の背の白いヒラヒラしたやつへ刮目で敬礼し。

それぞれのクラブへ慌ただしく急ぐ生徒たちの真ん中を突き進む会長の後を、微塵も乱れぬ隊列でザッザッザと校長室へ行進していった。

(おわり)


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