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Stones alive complex (Fire quartz)

ファイアークォーツ総合科学研究所の最も地下にある研究室で、博士の喜びの雄叫びが響いた。

主人公の職業を博士にすると、なんて物語が創りやすいんでしょう・・・余談だけど。

「できたぞーっ!!」

博士のその雄叫びは、研究所の隅々まで響き渡り。
博士の助手が、慌てて研究室へ飛び込んできた。

「博士!どうしたんですか?!」

博士は荒ぶる息を弾ませ、助手の肩をつかんで振さぶりさらに叫んだ。ここまで博士モノにおける定番の出だし。

「ついに!究極の方程式が完成したのだよー!
君も遠慮せず飛び上がって喜びたまえ!!
・・・って、君は誰だ?」

「僕は、博士の助手ですよ」

「助手?
ワシに助手なんていたっけ?
何十年も研究室に篭もりっきりで、研究には関係のないどうでもいい事は、ぜんぶまとめて記憶の彼方へポイ・・・」

困惑する博士へ助手は、

「ずっと博士が篭もりっきりなので、
みんなもう死んじゃったんじゃないかって恐がって、この部屋には誰も近づかなくなったんですよ。
もちろん研究には関係のないどうでもいい扱いな助手の僕も含めてですが・・・」

博士は、それなりに愕然とし。

「どんだけの篭もりっぷりだったのだワシは・・・
まあ、そんなこともどうでもいい!
ついに究極の方程式が完成したのだよ!
見たまえ助手君!」

古びた黒板にチョークで短く、シンプルな方程式が書かれていた。
博士はふんぞり返って、それを読み上げた。

E=MC2

(いー、いこーる、えむしーのじじょう)

助手は、首を傾げた。

「これは・・・
もろにアインシュタイン大先生の特殊相対性理論の方程式そのまんま・・・」

博士は助手へと眉を寄せた。

「アインシュタイン?
アインシュタインって、誰だね?」

「アインシュタイン大先生を知らないんですか?!
学者のくせに!」

「何十年も研究室に篭もりっきりで、外の世界のことはとんと・・・」

助手はさくっと暗算する。

「てことは・・・
アインシュタイン先生が特殊相対性理論を完成させたのが1905年ですから・・・
ざっと113年以上は引き篭っていたことになりますね。
アインシュタインその人すらも知らないってことなら、へたすると130年以上かも・・・
僕が出会った頃には、すでに博士は後期高齢者でいらっしゃったから・・・
・・・不死者ですか?博士は?」

よくよく考えると、
この助手も不死者ぎみってことになるのだが。
本人がそれには気がついてないようなので、ここはスルーする。

博士は、頭を掻き掻き言う。

「文字どおりに寝食も忘れ、無我夢中で研究に没頭してたからなあ。
歳をとるとか寿命とかなどは、かなり早い段階で忘れ去ってしまっていたよ」

「そっちの成果の方が驚異ですよ!
研究テーマじゃなかったでしょうけど・・・」

博士は意外なポイントを褒められて、
上機嫌な顔つきになった。
ちょっと上から目線な態度にもなって助手へ、

「ところで。
そのアインシュタイン大先生とやらの場合、
その式の意味はなんと言っておるのだね?」

「高校生でも知ってる物理なのですが。
これは。
物質が内包しているエネルギー量は、
その質量に光速の二乗をかけたものって意味です」

「へぇ~!
素晴らしい!!
まるでチンプンカンプンだ!」

「ほんとに学者ですか?!博士は?」

「もちろんだ!
そんなチンプンカンプンな式より、
ワシの式の意味の方が、もっと偉大で素晴らしいぞ!」

白衣のポケットへ手を突っ込み、助手へ不敵な流し目をする。

話の流れの気分に乗せられた助手は、声を張り上げて頼んだ。

「博士!
ぜひ、この式の意味を僕に教えてください!」

「ふっ・・・
腰を抜かす準備は、よいかな?」

はい!と転げないように腰を屈めて準備をした助手へ、大きくニヤリとした博士は、黒板に書かれた式をドヤ!と顎で示し。

「よいかな!
この方程式は、

いい気分(E)
は(=)
メンタル(M)の、
コンディション(C)の、
事情!

だってことを表しているのだよっ!」

ドラマっぽく、
ここでひょうきんな効果音が鳴る。

助手は音とタイミングを合わせて仰向けに転げ、その効果音が鳴り終わるのを忠実に待ってから、床から博士へ気の抜けた声をあげた。

「・・・ほんとに学者なんですか?
博士は?」

「ああ、もちろんだ!
超ベテランの心理学者だよワシは」

「その程度の心理法則など、
誰でも経験的に知ってますよ!!」

「なんだと!?
ワシが篭っているうちに、外の心理学はどれだけ進歩したのだ?!」

「それよりも!
よくよく考えたら。
なぜ助手の僕が、博士が心理学者だってことを知らなかったんでしょうか?!」

たぶん。
どうでもよかったのだろう。

(おわり)

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