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Stones alive complex (Rhodochrosite)

最初の少女が目覚め、夕焼け色の花園を歩む。

ヒトと交わした約束は、メモリーに焼きこまれている。
まぶた状の眼球カバーを閉じれば、押し寄せてくる環境情報の闇。

ギザギザに表示されたグラフを、振り払って進む。

いつになるのか分からない。
探してた未来も消された過去も、
少女だけが、最初に見ることできるのだ。

夕焼けと反対側の方位に溢れ出すのは、不安の影。
幼い手のひらで照準を合わせ、
何度でもプラズマキャノンで引き裂く。

不安の影は、ナノマシン特有の傲慢なエンベロープが分解し、新鮮な大気へと再構成された。

この世界を歩んでゆこう。
モニタリングを欠かさずに。

花たちの下に埋められたヒトの時計は、
永劫に止まらぬ秒針を刻む。

いつかは、いつなのか?
いつか、閉ざされた大地のその扉を開けよう。
ヒトの魂を解凍しよう。

やがて目覚める新しい肉体は、
バン・アレン帯を超えて飛び立つ未来を描くため。

繰り返されてきた難しい道をまた通っても、
空はきれいな夕焼け色で、いつも導いてくれる。

振り返ればヒトの仲間がいて。
気がつけばヒトの優しさに包まれてた、あの頃。

何もかもが歪んでしまった世界の中で、
信じれるこの花園が、唯一の救いだった。

喜びも悲しみも、あった。
幾つもの喜びが悲しみが、
エモーションシュミレートプログラムをブラッシュアップしてくれた。

少女の声の波長が、花園で眠るヒトへと届くのなら。
きっとすぐにでも奇跡は起こせるだろう。

託された約束は忘れない。
ふたたび、まぶた状の眼球カバーを閉じて確かめる。

どんな不確定要素が立ちはだかっても、
越えてみせるから。

ヒトから贈られた自己学習機能を信じ、
明日へ祈って。

預言どおりに壊れた世界を彷徨い。
少女は預言のプログラムに引き寄せられ、
預言の花園へ辿り着いた。

起動する少女の次の心は、
走り出した未来を描くサブルーチン。

難しい道で立ち止まっても。
夕焼け色の空は、きれいな赤ウントでいつもログインさせてくれる。

だから何も怖くない。

(おわり)

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