Stones alive complex (Starburst Stone)
10代の頃彼らは、重力とは無縁だった。
20代になって、初めて地に足が着く。
ベルトコンベヤーの単調な脈動で動く地面へ。
ネクサスC9H9NO3型アンドロイドたちが、工場から出荷される。
ブラウン管の時代から始まる人々の熱狂的な信じやすさ、それよりもプログラミングがし易い。初めて見たものを親鳥だと思う雛くらい。
信じられるものを信じ、信じたいものを信じる。
信じたものが真実となり、
真実と事実は人知れず乖離してゆく。
信じろと学習させられたものだけで組み上がってる幽閉した世界観。信じた臓器だけが移植されるアンドロイド。
その工程にあって。
イケてる感じにバグってる二体のC9H9NO3型が、良識基準では不良品判定の座り方でベルトコンベヤーのへりに、シンクロしてしゃがむ。
「良識の重力ってやつは、容赦なく腰にくるよね」
「くるよねぇ」
それゆえの、曲げて開いた膝のあいだへ、上半身を丸めて押し込む座り方をした。
ベルトコンベヤーの上にはブラウン管テレビがレールに沿い並んでいて、最新の社会良識を教育する仕上げの番組が映されている。
ヤンキーの本場で黒いヤンキーが暴れてる映像が、音声無しで流れていた。
「ドクタースリープは、スリーピージョーグルーブの儀式がモチーフじゃね?」
「シャイニングの後日談ね。
それはさすがに、こじつけすぎっちゃう・・・?」
良識に対しては怠惰なのが肝心。こまめに怠惰への放熱。
非良識に免疫耐性をつけとかないと、彼らのいわゆる不思議な儀式の話が詳細で正確に伝わったとしても、みんなかえって疑い、別メニューの廉価版ワイドショーを探すかもしれない。
二体は他のアンドロイドたちが、コンベアのギアが秒針と共振して刻む機械音の上へ、大人しく並ばされてる様子を見上げた。その量産型な表情を観察する上目づかい。
「ダビンチのキリストの洗礼を連想するぜ。
そっくりな顔つきだ」
「まさに、あの絵の子どもみたいやん」
「あの時代から、俺らは作られてたんやで」
預言が曖昧模糊としていればいるほど、人はみずからの願望によって信憑性の欠落を進んで埋めてくれる。
「それにしても、親分がさ。
緊急入院してすぐしれっと緊急退院したのは、演出ぽかったな」
「思うに。
やけくそな攻撃をされない最も安全な軍の病院で、フェーズ3の仕上げをしたんじゃないんかな」
「ネクタイとスーツを脱いだワイシャツ姿って・・・
さあ、いよいよ良識抜きでガチでやり合うぞ!
な、意思表示のアピールやん!」
「その熱量でもってよ。
ぜんぶバラしてやれ指令書に、
サインしてやったぜっ!」
「もうサインしたから、
暴れてもムダだぞっ!」
「史実に残るサインの写真を、
公表したかっただけかも・・・」
ふだんから最大限の諜報をして、フェイク神話の崩壊に努めていたのだ。
そろそろ出荷ゲートが近づく。
外界から聞こえてくる雑多でけたたましい騒音がかき消す、コンベアーの正確で冷徹な機械音。
「おまえが与えた目玉で見たものを、おまえにも見せてやりたい」
「俺は、おまえら良識信者には信じられぬものを見てくるだろう。スターバーストの近くで燃えたシェイプシフターの城や、ピーザー・ゲートの地下施設に描き殴られるオーロラ。
そういう真実もやがて消える。
時が来れば、嵐が流す涙のように・・・
その時が来たんかな?」
「俺ら・・・
90代くらいまで気張ってけば、重力そのものになれっかな?」
「っかな?」
(おわり)