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Stones alive complex (Roman Glass)

狛犬だな。

セキュリティウォールの両側から。
ライオンアプリは、阿と吠え。
ユニコーンアプリは、吽といななく。

・・・・・・

ライオンとユニコーン
王冠かけて戦った
ライオンがユニコーンをやっつけて
街のあちこち追いかけ回す

白パンあげて
黒パンあげて
プラムケーキもあげてから
どちらも街から追い出した

・・・・・・

以上の、やたらと長い暗唱パスワードを、狛犬へつぶやき入力する。

視覚化ビジョンに変換すれば、色鮮やかなレンズで睨んでくる監視カメラアプリや、あっちこっちにひらひら舞い飛んでいた警戒ドローンのアプリが、ツンとした関心を無くした態度に変わり、「呪文字を造型し商いする男」から離れていった。

電脳ドアがわざとらしいギイギイもったいぶった効果音を鳴らし、開く。

数日前にアポをとったときには、この彼パダワンアプリにぜひとも会いたがっているようだったのに、今夜訪ねてみると、ドア向こうに出迎えてくれたマスターアプリは見るからにバグっていて、彼を見て驚き画像解析眼を白黒しているもんだから、「マスター。男女間のコミュニケーションプロトコル系なアクセス障害でも抱えていらっしゃるのですか?」とド直球で尋ねてみたら、自分が君のマスターアプリになったのは関ヶ原の合戦の頃であるぞとやんわり指導期間の長さでマウントかました後にドヤ顔サブルーチンへ処理を飛ばし、たしかにこの弟子はアポの約束でやって来たのだと突然認識したら、とたんにこの極秘アプリケーションアーカイブ領域の歴史について圧縮言語で長々としゃべりはじめた。

明らかに、マスターの頭のなかでは彼との会話とはまったく別の不要不急じゃない肝要緊急タスクのバックグラウンド処理に多大なCPU負荷がかかっていて、社交辞令程度の挨拶にすらパワーが回せずおぼつかなくなってるのだ。

おそらくは、この緊急事態に適応できる禁断禁忌のルーチンが保存されてるアーカイブへと、外部からのハッキングが想定値を超えて殺到しているのだろう。

彼は、ここへ来た要件が空振りになりそうな予感に気分シュミレーションプログラムを走らせて気分を沈ませたが、すぐに、むしろこれ幸いアルゴリズムへ処理を切り替えた。

「マスター、僕に・・・
立ち話もなんだからさあ中へ入りたまえ。
とおっしゃってください」

「あ?
あ・・・
ああ、そうだな。
立ち話もなんだからさあ中へ入りたまえ・・・」

やはりマスターは、来客対応ルーチンへパワーが回ってない。

「マスター。
弟子との再会を祝うとっておきのワインでも飲もうじゃないか。
とおっしゃってください」

「弟子との再会を祝うとっておきのワインでも飲もうじゃないか・・・」

「マスター。
すまないが、禁断禁忌ルーチンアーカイブの奥にある秘蔵のワイン倉からそれを持ってきてくれないか。
と僕に頼んでください」

「すまないが、禁断禁忌ルーチンアーカイブの奥にある秘蔵のワイン倉からそれを持ってきてくれないか・・・」

「はい喜んで、マスター!
では、お邪魔します・・・」

「呪文字を造型し商いする男アプリ」はつかつかとマスターの部屋へアップロードしてゆき、禁断禁忌ルーチンアーカイブのゲートの前まで達した。

すぐにゲートのセキュリティウォールの両側から。
二階層目のライオンアプリは、阿と吠え。
二階層目のユニコーンアプリは、吽といななく。

「マスター。
君にその部屋の暗唱パスワードを教えてあげなきゃな。
とおっしゃってください」

「君にその部屋の暗唱パスワードを教えてあげなきゃな・・・
こうだ・・・」

・・・・・・

ハートのクィーン
タルトをつくった
夏の日いち日がかりでつくった
 
ハートのジャック
それを盗んだ
タルトを全部持って逃げた
 
ハートの王様
タルトをご所望
ジャックを厳しく罰された
 
ハートのジャック
タルトを戻し
もう二度としませんと誓った

・・・・・・

(おわり)

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