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Stones alive complex (white labradorite)

冷気の残り香が染みる風が、密を解いた窓から忍び足で入る。
指折りカウントダウンしていた四月二十三日。

家内制ひとり手工業のせわしない手が道具を離し、かろうじて情熱を保つコーヒーカップを重々しくつかむ。

ふふふ・・・

からかう鼻を突きだした「電脳公安部の女少佐」が、耳元に近い思考の場所へと、ゴーストの声をささやく。

「新作のわたしを観なくていいの?」

「うぐぐぅ。
仕事にキリがついたらね・・・」

「その仕事に、集中できないんでしょ?
気になって気になって・・・
現時点で想定できる最優先事項ではないと、いいかげんに自覚しなさい。
ノマドでも、スケジュールのジャミングがまだ不安なの?」

なるべく視界に入らないよう隅の方へ置いている、彼女が横目で流す動画配信に誘うリモコン。
ハートに火がつく棒のやつ。
ファイアースティックのやつ。

SPECシンプルプランの逆バージョンに酷似した重大事件が、ヒトの世を追い詰めている。
そのただ中に放映開始って。
裏ミッションのタイミングで放映開始って。

だがしかし。
そんなもん観とったら、仕事にならんがや!
一気見してしまうがや!

光学の迷彩服をまとう妄想内の彼女が、感触の欠けたインビジブルの頬を擦り寄せ、また口説いてくる。

「もう、桜の24時間監視は中止したら?」

「野盗じゃねえし。
サクラじゃねえし仕事だし!」

理性と衝動の相反する駆け引きは近接戦のように、必殺技と返し技と寝技、陽動とか囮とかフェイクとかを多彩に織り交ぜ踊り狂う。現世に蠢く帝国らのように。

血の気を慰めるコーヒーをすすり、最前線のテーブルへ戻す。
ナルシストじみた溜息をつき。
もうひと口とカップを再び持ち上げ口元へ近づけたら、胸騒ぎの違和感をおぼえた。

こ、こ、これは何だ?
手に持ったものを、怪訝に観察する。
カップとは似ても似つかぬものだ。
黒いプラスチック製のモノリス形状?

リモコンじゃねえかーっ!

自分ウケに慌てて。
禁断なる視界からなるべく隠蔽する場所へなんとか戻そうとした際に、押しやすそうに設計されたボタンをうっかり押してしまった。

ばばーあーん!!

巨大に赤く輝く「N」のロゴが、うかつな起動画面いっぱいに広がる。

「作戦行動を開始するわよ!
ついてきなさい!」

横で密着していた電脳公安部の女少佐が、シャープな笑みでその虚数座標の画面へとダイブしてゆく。

時は雄叫びに凝縮される。
部屋は少数精鋭にハックされる。
精神は歓喜に侵食される。
アナログの心は外界から強制的に隔離され、ニヒルなデジタル戦へジャックインされる。

なんということだ・・・!

密もネタバレも避けてうめく。
同時に初期化って!?
4891って!?

各セクションへと散りばめられたパワーワードは、アンニュイな暗示か予言か。
そして、某国への福音の示唆。

ああ・・・ああ・・・
生きとし生ける時の針が、
静かにてっぺんを回ってゆく。

(おわり)

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