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Stones alive complex (White Labradorite)


「カーボンナノチューブも桑の葉に混ぜてたっぷり食べておきましたから、
糸の強度はかなり増しておりまして。
宇宙空間の飛行にも充分に耐えられるかと思われます」

蚕はそう言って、織り上げられたばかりのシルクの布を、
ホワイトラブラドの目の前まで引っ張ってきた。

「そうなの!」とホワイトラブラド、
「気が利くわね、ありがたいわ!」

その気が利く蚕が作ったシルクの布は、
夜空に輝く色反転した日の丸の光を、キラキラ乱反射している。
それをホワイトラブラドは、うっとりとした気分で眺めた。

真珠色の窓枠をフレームにして、
色反転した日の丸の衛星は、ホワイトラブラドが持つ金のペンの尖端も光で尖らせる。

シルクをぴしっと机に広げ。

ホワイトラブラドは、はやる心を抑えながらも、はやる心がこもった文面を布へペン先で走らせた。
はやる呼吸を止めて一気に書き上げると、
布を、はやる心のカタチに忠実にせっせと折り曲げ、一羽の鶴を折った。

引き出しからCとGの音階が鳴る音叉を取り出しカチンとぶつけ、
ふたつの異相が干渉しあう波紋でシルクの造形物に、命を吹き込む。

シルクの鶴は寝起きのアクビみたいに身じろいだ後、事務的な金属音で言った。

(ほな。左の翼んとこへ、差出人の住所と名前の記入をヨロっす!)

ホワイトラブラドは左の翼へ、
『地球。青い瞳のウサギちゃんより』と書く。

(それでいいんすか?本名じゃなくっても?)

「いいのよ。
本名を知られるのは照れちゃうの。
すごく知られたいけどすごく知られたくなくて・・・」

鶴は折り目の首を、なんやそれ?の角度に傾げ。
翼をしばし呆れた感じに震わせてインクを乾かした。

その様子を見守るホワイトラブラドの表情にはずっと、
心はやる種類のまばたきもしない興奮があり。
ぞくぞくした声質でつぶやく。

「これはね。ファンレターなの・・・」

(わざわざ告白しなくても大丈夫っすよ。
自分の身体の裏側にある文面だから、知ってるっす。
ほな。届け先の宛先を、右の翼へ上寄りに記入をヨロ!)

ホワイトラブラドは『月』と一文字、書く。

(ほな。その下に続けて相手の宛名をヨロ!)

「なんだか、文字にすることすら激しい動悸と目眩で照れちゃうわ・・・
匿名じゃダメ?」

(そっちを匿名って・・・そりゃあんた、あかんでしょ?)

「あかんの?
じゃあ。アカウント名じゃ、あかんと?」

(話のオチが思いつかない時に、ダジャレで逃げるのは禁止!でヨロ!
ちゃんとした宛名が無いと、届けるアテがないと・・・)

「ダジャレ禁止!」

(おま言う?!)

「じゃあ・・・
宛名はアテナ様で!」

(だーかーらー!
ダジャレ禁止やて!)

「これは、ほんまやて!」

(おわり)

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