Stones alive complex （Chiastos）

「救済業界で長く活動しているみなさんなら、よくご存じだろうが。
天使の頭の上に浮かんでいる光輪の輪っかは、元々はドーナッツ状した輪っかではなくて、お盆状で厚みのある円盤だった」

最高権威のシンボルである黒い十字架を胸にさげた教団連会長は、会場に集まった上級神父たちを舞台から見回した。

「そもそもは、旧来のオーラパワーブースターを改良し続けて出力効率を高めた結果、排気熱の放射形状が変わってしまったせいなのだが。
天使の輪っかのイメージは、広く定着してしまっている」

会長の背後にある大きなスクリーンが、人間型のボディを映し出す。
各ボディパーツへ矢印が伸びて、詳細なスペックが表示された。

「今回我々が、市場に投入する最新型の天使にはさらに次世代のオーラパワーブースターが装備されていて、試用テストの結果によると、ブースト効率はなんと６倍にもなった。
ブースターから排気される光輪もさらに環境にやさしく熱排気もなく、もはやほとんど見えなくなるそうだ。
この最新型の天使はもう量産体制に入っていて、来月初頭にも、みんなの所へ支給される予定だ！
どうか、楽しみに待っていてくれたまえ！
こんなにも集まってくれて、
今日はほんとうにありがとう！」

神父たちからどよめきが起こる。
会場のあちこちで鳴り始めた拍手は、やがて数千人の賛美歌のような万雷となり。
教団連会長は、綿密にリハーサルしたプレゼンの成功を確信した笑みを浮かべる。そして、喝采に手を挙げてこたえながら舞台のそでへはけようとした･･･が。

おっとっと･･･
という感じでスニーカーの足を止める。
ジーパンのポケットに突っ込んでいた手を抜き、黒いティーシャツの胸に揺れる黒い十字架を持つ。

「うっかりしていた。
大事なポイントを、ひとつ言い忘れてたよ！」

親近感がわく人懐っこい苦笑いをして、会長は新作発表会の舞台中央へゆっくり戻ってきた。

「新型の天使の移動装置には、クォンタムテレポートを採用した。瞬時にどこへでもテレポーテーションできるんだ。
だから、ばたばたと動かさなきゃならない邪魔な翼などは付いていない。
みんなは、これがどういう意味なのか分かるかな？
見た目は、普通の人間とまったく見分けがつかない姿になったんだ！
どうだい？
これで、どんな場所でも目立たずに救済活動ができるんだよ！
いずれは誰の隣にも、ご近所のふりしてこっそりと天使が寄り添える時代が来る！
この製品のコンセプトは、
『ひとりひとりにひとり！』
パーソナルエンジェルなのさ！
さあ！
みんなで世界を変えよう！」

救済業界のジョブズと呼ばれている革新派の会長は、ふたたび沸き起こる万雷の拍手へ黒い十字架をかざし、天使のニューモデルを祝福した。

（おわり）