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秀作が多かった「2018年テレビドラマ」 ベスト20~『昭和元禄落語心中』『透明なゆりかご』『女子的生活』『獣になれない私たち』他

◆2018連続ドラマ・ベスト20

結婚相手は抽選で(原作垣谷美雨 脚本関えり・香川嶋澄乃)       ②昭和元禄落語心中(原作雲田はるこ 脚本羽原大介)            ③透明なゆりかご(原作沖田×華 脚本安達奈緒子)            ④女子的生活(原作坂木司 脚本坂口理子)                ⑤この世界の片隅に(原作こうの史代 脚本岡田惠和)           ⑥今日から俺は!!(原作西森博之 脚本福田雄一)             ⑦やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる(脚本浜田秀           ⑧義母と娘のブルース(原作桜沢鈴 脚本森下佳子)            ⑨不惑のスクラム(原作安藤祐介 脚本櫻井剛)              ⑩anone(あのね)(脚本坂元裕二)                   ⑪平成細雪(原作 谷崎潤一郎 脚本 蓬莱竜太)               ⑫シグナル~長期未解決事件捜査班(原作韓国のドラマ 脚本尾崎将也・大久保ともみ)                              ⑬獣になれない私たち(脚本野木亜紀子)                ⑭グッドドクター(原作韓国のドラマ 脚本徳永友一)            ⑮ハゲタカ(原作真山仁 脚本古家和尚)                 ⑯明日の君がもっと好き(脚本井沢満)                 ⑰ブラックペアン(原作海堂尊 脚本丑尾健太郎・神田優・槌谷健)                   ⑱僕らは奇跡でできている(脚本橋部敦子)               ⑲ラストチャンス(原作江上剛 脚本前川洋一)            ⑳SUITS/スーツ(原作アメリカのドラマ 脚本池上純哉)               次)リピート~運命を変える10か月~(原作乾くるみ 脚本泉澤陽子・森山あけみ)                                次)トドメの接吻 (脚本いずみ吉紘)

『結婚相手は抽選で』                        抽選で政府から指定された見合い相手を3回断ると強制的に軍隊のような「テロ撲滅隊」に入隊させれられるという恐ろしい法律「抽選見合い結婚法」が施行された近未来の日本が舞台。                            基本的人権を蹂躙された若者たちが理不尽な悪法と戦うことを通して政治意識に目覚め、成長していく姿を描いた日本では珍しい「ディストピア風政治ドラマ」。

詳しい解説と評価についてはこちら。

『昭和元禄落語心中』                        世代をこえた三人の落語家の成長物語、あるいは、互いに落語の道を究めんと競い合うライバル同士の友情と確執を描いた芸道ものとして非常にレベルの高い作品だった。

ドラマの中に有機的に古典落語を組み込むという額縁構造の手法も効果を上げている。
また、中盤の山場である助六とみよ吉の悲劇的な死の真相が明かされるシーンの演出もなかなか衝撃的で、迫力があった。

ただ、ひとつだけ難点をあげるとすれば、若くして死んでしまう助六は別にして、八雲を最後まで岡田将生が演じ続けたこと。

晩年の八雲は、昭和の落語界随一の名人という設定。

しかし、当然のことだが、落語の素人岡田将生演じる八雲の話芸はあまりにもお粗末で(無理な老けメイクも変)、例えば昭和落語の名人と言われた三遊亭圓生の話芸とは、比べるべくもない。八雲の落語を名人の噺として聞かせられるのは、かなりの苦痛と違和感を伴うのだ(それでも、観ているうちに段々慣らされては来るのだが)。

原作マンガの場合は、当然文字だけだから全く問題はない。
アニメ版もこれほどの違和感は感じなかった。

勿論、噺を覚え込むだけでも大変で精一杯頑張っていることは分かるのだが、前座や二つ目の頃ならともかく、名人と呼ばれるようになってからは、声だけでも本職の落語家に演じさせた方がよかったように思える。
要するに吹き替え。
この場合も、多少の違和感が出るのは免れないだろうが、岡田本人が演じるるよりは、はるかにましだったと思われる。

助六役の山崎育三郎は、存在感抜群。出番はそれほど多くないのだが、明らかに岡田将生を食ってしまっていた。
「高嶺の花」の峯田和伸と共に今後の活躍が楽しみな俳優である。

『透明なゆりかご』

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今年、NHKの朝ドラ『お帰りモネ』で主演を務めた清原果耶の出世作。       医療ものだが、はやりのスーパードクターものとは一線を画したHNKらしいシリアス・ドラマ。                         沖田×華の原作マンガは、描かれている深刻な内容とギャグマンガ風ののほほんとした絵のギャップが大きくて驚いた。

産婦人科医院に勤務する見習い看護師の視点から、受診に訪れる妊婦や患者、その家族たちの人間模様を描いていくことを通して、医療現場が抱える深刻な問題や医療行政の矛盾を浮き彫りにしていく脚本が秀逸。

医療現場の現実をシリアスに描こうとすればするほど、医師や看護師の個人的努力・熱意だけでは解決できない医療制度上の問題が大きく立ちはだかる。そのため、喜びや達成感などよりも医療従事者や患者たちの悲しみや苦しみのほうに比重がかかり、どうしても暗くて重いエピソードか多くなる。

しかし、それを救っていたのは、作品全体を貫く強いヒューマニズムと主人公の看護師としての人間的成長。
特に中盤から後半にかけての盛り上がりが素晴らしかった。

『女子的生活』

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モノローグや頻繁にポップアップする字幕を多用する今風の作りだが、トランスジェンダーの主人公(志尊淳)の複雑な心の動きを表現する上ではなかなか効果的な手法だった。

特筆すべきは、第三話。                       主人公のミキ(本名は幹生)は、頑固な父が息子の「女子的生活」など絶対に認めるはずはないとずっと思って生きてきた。             社用で帰郷した女装姿の幹生を見て激高した兄が殴りかかろうとしたとき、「女に手を上げるものじゃない。」と止めたのは意外にも父親だった。

そして、それに続く父子の会話には痺れた。

父「一番苦労したのは、幹生なんじゃないんか?」            父「お前は、不幸なのか、幹生。」                  幹生「今は別に不幸ってわけじゃあ~。」               父「幸せなのか。」                         幹生「はい。」                           父 「なら、いい。」と、うなずく。                  父「子どもの幸せを願わん親なんておらん。」

別れ際、父親は、幹生に「ミキ」と呼びかける。

頑固な父の意外な言葉が、息子の女としての生き方を受け入れようとする親の深い情愛を際立たせる名場面だった。

また、幹生を理解し、支援するルームメイトの後藤(町田啓太)の少しとぼけた演技もいい味を出していた。
後藤が、上から目線で幹生をバカするセレブ男に反撃する最終回も痛快!

全4話とコンパクトな構成であるだけにテーマは明快で、LGBTの人たちに力強いエールを送るドラマになっていた。

余談だが、初対面の若い女性同士がお互いを品定めするときの視点や相手への評価が辛辣に描かれていて、「女子的生活」ならぬ「女子生活」もなかなか大変なんだなあと、妙なところで感心した。

『この世界の片隅に』                        戦争をメインに据えたドラマが作られなくなってきている現在のTV界では、非常に良心的かつ貴重な作品。

しかし、脚本と演出がやや平板というか淡々としすぎていて、銃後とはいえ、戦時下の非常時という時代の緊迫感や閉塞感があまり伝わって来ず、NHKの連続テレビ小説「戦中編」を観ているような感じがした。

劇場アニメ版より尺が大幅に長い分、細部のディテールはよく描けている(例えば、二階堂ふみが演じた白木リンのエピソードなど)。         その反面、主張すべきことがやや曖昧で中途半端だったのは否めない。  作品全体の完成度や衝撃度という点では、「反戦」という主題を明確に打ち出したこうの史代の原作や劇場アニメ版に及ばなかったのが惜しまれる。

『今日から俺は!!』                         ツッパリ・ハイスクール系のヤンキー高校生たちの抗争劇を描いたコメディ・ドラマ。原作は、西森 博之の同名マンガ。

演出・脚本が斬新というかぶっとんでいて、色々と変わった趣向で毎回楽しませてくれた。「金八先生」などのパロディや小ネタの使い方が非常に効果的で、制作者のセンスを感じた。

主人公役の賀来賢人が本当にうまくて感心したが、伊藤健太郎、仲野太賀の凸凹トリオのやり取りも面白かった。スケ番役の橋本環奈も意外性があって、なかなかのはまり役。このメンバーで、ぜひ、ドラマの続編を作って欲しい。

『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』

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法律という今までにない新しい視点を導入した異色の「学園ドラマ」。

スクールロイヤーとして中学校に配属された弁護士と教務主任との対立を通して、学校で起きている様々な問題を容赦なくえぐり出してゆく。
教育現場がまさにブラック企業そのものであることを可視化し、その過酷な現実を漫然と放置し続けている国の教育行政のあり方にまで疑問を投げかけているのが秀逸。

くせ者の校長を演じた小堺一機がなかなかの好演。           こちらも続編を期待したい快作だった。

『不惑のスクラム』

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病人役の萩原健一の演技が妙に真に迫っていて「萩原健ってこんなにうまい役者だったかな?」と何となくを違和感があったのだが、撮影当時、病をおして出演していたことを亡くなってから知った。

第一話の冒頭で萩原健一が、自殺しようとしていた主人公良平(高橋克典)を止めるのだが、このあたりの演出とカメラワークが見事。         自殺を思いとどまった良平は萩原たちがやっている草ラグビーチームに入るように誘われ、チームメイトに支えられながら再び生きる力を取り戻していくストーリー。

ラグビーを通した人間回復のドラマであり、こちらも人生に疲れた中年男たちへの力強い応援歌になっていた。

このドラマが萩原健一の遺作となってしまったのは残念だが、ドラマでは『前略おふくろ様』、映画は『約束』が代表作だと思っている。

『平成細雪』

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『女子的生活』と同時期に並行してBSで放送されていた作品。今風でポップな作りの『女子的生活』に対して、こちらは、正攻法で重厚な作りの女性ドラマだった。

本家を継いだ長女ではなく、分家の次女の視点から描いているので、姉や妹たちにも細かい目配りが行き届いていたのがよかった。

次女の視点から、主に三女の見合い話の顛末と四女の恋愛話が描かれる。   三女はいつものらりくらりでぼーっとしているおっとりした性格だが、見合い相手の欠点だけにはよく気が付き、なかなか決断できない。            感情をほとんど表に出さず、何となくつかみ所のない三女役を伊藤歩がうまく演じていた。

現在の境遇に特に不満は感じていない三女と対比的に描かれるのが、超跳ねっ返りの四女。彼女は上流階級の窮屈なしきたりや諸々のしがらみから抜け出そうと必死でもがいている。しかし、そのことがかえって事件や不幸を招く結果になってしまう。

4姉妹それぞれの立場や性格の相違をうまく際立たせる脚本がなかなか絶妙で、小さな諍いは起こしながらも、没落しつつある名家の娘として互いを思いやり、肩を寄せ合って生きていく姿を情感たっぷりに描いて見応えがあった。

音楽もドラマの内容によくマッチしており、ストーリーを盛り上げていた。

『獣になれない私たち』

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パワハラ社長に過重労働を押しつけられて疲弊していく女性社員を描いた第1話が出色の出来。
長時間労働とパワハラで疲労し消耗した主人公がフラフラと地下鉄構内の線路に飛び込みそうになるシーン が映画『ちょっと今から仕事やめてくる』にそっくりで、過重労働やブラック企業の問題を描いていく 社会派ドラマかと一瞬期待させる出だしだった。

しかし、早々と第2話で失速し、以後はだらだらとしたどうでもよい恋愛話に方向転換してしまったので、期待はぬか喜びに終わった。       まあ、電通に支配された今のドラマ業界で ブラック企業や過重労働問題を正面から取り上げるような骨のあるテレビ局なんてないことは、頭ではわかっているのだが。

『獣になれない私たち』は、主に①お互いに価値観や求めるものが違う晶と恒星とのすれ違い恋愛ドラマ、②晶が社長のパワハラ・セクハラに耐えて成果を出そうともがくお仕事ドラマ、③会計士の恒星が監査法人の粉飾決算に巻き込まれそうになる社会派ドラマという三つのドラマ要素から成り立っている。

それぞれ掘り下げて行けばそれなりに面白いテーマになるはずなのだが、残念ながら三要素がバラバラに提示されただけで有機的にかみ合っていないので、そこから更に大きな主題が浮かび上がってくることもない。どれもが浅くて、しかも中途半端に終わってしまっている。むしろ、どれかひとつに絞った方がまだ見所があったように思える。個人的には②か③に集中して欲しかったのだが。

『ハゲタカ』『ラストチャンス』、ランク外だが『ハラスメント・ゲーム』の3本は企業ドラマ。

三作ともテーマが似ている『下町ロケット』など、日曜劇場の一連の「大逆転」企業ドラマのようなセンセーショナリズムや「感動の押し売り」(特に大仰な演出やナレーション、やかましい音楽等)とは無縁の落ち着いたドラマで、むしろそんなものがない方が素直に感動できるという好例だった。

『シグナル』『リピート』『トドメの接吻』と、珍しくSF的要素の強いタイムスリープ系のドラマが3本もあったのが嬉しかった。

『シグナル』は韓国ドラマのリメイクで、映画版も公開されている。   過去の世界とと交信できるトランシーバーによって真犯人を追い詰めていく新感覚の刑事ドラマ。無線で過去と交信するというアイデアは、多分SF映画の佳作『オーロラの彼方に』から借用してきたものだろう。

『リピート』は、10か月前の自分に戻れるチャンスをもらった8人の男女の運命を描いた「IF、もしも」系のSFドラマ。
最後のどんでん返しにより8人の中でただ一人生き残ることになってしまった鮎美が、仲間たちを救うためにもう一度リピートを決意するラストシーンは、余韻があってなかなかよかった。

『トドメの接吻』もキスをすることでタイムリープを繰り返すジェットコースタードラマ。
上記2作と同様、タイムリープする度に現在が変化していくので、パラレル・ワールドものとしての面白さも楽しめた。             

時間テーマSFの常として、つじつまが合わない箇所が所々に散見されるのはご愛敬。

『明日の君がもっと好き』                      伊藤歩、森川葵、志田未来の芸達者女優3人の演技が火花を散らしていて、なかなか見ごたえのある恋愛ドラマだった。                低視聴率で回数を減らされたらしく、ラストが駆け足になってしまったのが惜しまれる。3人の演技バトルをもっと長く観ていたかった。

その他の連続ドラマ                                           

『BG~身辺警護人~』は、キムタクの老けぶりにびっくり。
ストーリー、アクション共に『SP』や『 BORDER(ボーダー) 』などに大きく見劣りする。

『きみが心に棲みついた』は一応水準作と言えるが、主人公(吉岡里帆)の優柔不断ぶりにはいらいらさせられ通しだった。上司でサイコパスのDV男向井理が不気味で怖かった。

『海月姫』、主演の芳根京子はうまいが、やはり能年玲奈(のん) の映画をなぞっている感じで、あまり新鮮味が感じられなかった。

他に「大恋愛」「コンフィデンスマンJP」「高値の花」「チア☆ダン」「ザ・ブラックカンパニー」「FINAL CUT」「アンナチュラル」「デイジーラック」「健康で文化的な最低限度の生活」「99.9 -刑事専門弁護士- SEASON II」「花のち晴れ~花男Ⅱ」「下町ロケット」などが印象に残る作品だった。

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