そして、逢いたくなる
小川洋子さんの『小箱』を読んだ。数年前に買って積読していたのをやっと読む時が来た、と特に何かがあったわけではないけど急に読もうと思い立ったのだ。タイトルに惹かれて買った。表紙の美しさにも惹かれた。帯に書いてある内容を読んだだけで「持っておきたい」そう思って買った本だった。
小川洋子さんの作品はそんなに沢山読んではいないけど、読むといつも自分の想像力の無さを痛感する。これはどこの国の話なのだろう?日本にも思えるけど、日本だと少し無理な設定にも思える。だとしたら海外、ヨーロッパとか?小川作品とヨーロッパは相性が良い気がする。そしていつも同じ言葉が思い浮かぶ。
静謐
正直言うと言葉の意味を正しく理解出来ずているのかわからない。小川作品を読み解いている自信も無い。表面的なとこ、私の感性が受け止めている印象だけなのかも。それでも物語の中に流れる空気、音や形の大小など具体的に想像のつく物もあるのだけど、そうじゃないその場所の雰囲気、それがいつも“静謐”という言葉にピッタリなのだ。
『小箱』/小川洋子
例えば若くして亡くなった女優の夏目雅子さん。彼女は亡くなった当時のまま私たちの中に記憶されている。大人は亡くなったらその時のまま、その人が成長して(年齢を重ねて)どんな風になっていったかを想像する人はあまりいない。「もし生きていたら」と考えることはあっても、生きていたら今年は還暦だからとか、今頃はお孫ちゃんのお世話をしてるかもとか、そんなふうに考えることはあまりない。死んだ人はいつまでも若いままで良いわね、なんて羨ましがられたりすることはあっても。
でも子どもの場合は違うのかもしれない。この本を読んで初めてそういう考えに触れた。私には1歳になる前に亡くなった妹がいる。実家のお墓にはお地蔵さまを模した妹を祀る小さな墓石がある。そこに眠る妹は私にとっていつまでも赤ん坊の妹だった。3つ歳下の妹が歩いたり学校に通ったり、結婚して子どもを産んだりする姿を想像したことが無かった。でも、母は違っていたのかも知れない。母が私を見ながら「◯◯ちゃん(亡くなった妹)も生きてたら今頃はいいオバサンになってたんだろうね」と言ったことがあった。私の姿に亡くなった娘を重ねていた。母の中では、妹は成長していたのだ。
亡くなった子どものことを考えることは悲しみを思い出すことではなく、幸せな気持ちをもたらすことでもあるのだ。
物語の中でガラスの箱に入れているのは遺品ではない。亡くなった子どもの成長に合わせてそれらは時々入れ替わる。ファーストシューズやおもちゃが、いつしか文房具や計算ドリルになる。そういう供養のしかた、向き合い方は素敵だと思った。
でも、私が妹に、それじゃあ何をあげようかと考えても思い浮かばない。彼女はきっとこういう女性になったはず、こんなことに興味を持つはず、なんて想像するには私はあまりに妹のことを知らなすぎた。お別れした時の私は幼すぎたから。
そんなことを考えている時に新しいドラマ『海のはじまり』が始まった。タイトルに“海”を冠しているが楽しく明るい夏のドラマではない。登場人物全員が苦しくなるようなドラマだ。見ているとまたこの言葉を思い出した。
「静謐」。
言葉少なな主人公のせいか。第2話で主人公の恋人が過去に子どもを亡くして(中絶して)いたことがわかった。そこに出てきた納骨堂の箱の中を見て、私は「こういうことだ!」と思った。
この世に生を受けず亡くなった子ども、にもかかわらずそこにはおもちゃやおやつ(ビスコ)が置かれて(祀られて)いた。
『小箱』で描かれていた、“死んだ子どもたちは箱の中の小さな庭で、成長し続ける”が、全く関係ないドラマの中のエピソードとして私の前に映像で現れたのだった。
子どもを亡くした親がその死とどんなふうに向き合っているのか。あの1シーンで想像出来た。
私には幼くして亡くなった上の妹と、若くして亡くなった下の妹、2人の妹がいた。2人が生きていたら今頃どんな付き合いをしていただろうか。下の妹のことは想像に難くない。海外で流行っているコスメやスーパーフードを教えてもらったり一緒にユーミンのコンサートに行ったりしてる。
上の妹は‥どんな子ども時代を過ごしどんなふうに成長し、どんなものが好きな女性になっていただろうか?少しゆっくり考えてみようと思う。もうすぐお盆だから、今年は2人が喜びそうな物を考えてお墓にお供えするのも良いかもしれない。お供えするのが難しかったら、心の中で話しかけてみるのも良い。つい、カタチだけのお墓参りになってしまっていたことを詫びたいし、両親もいなくなった今、ホントは私のほうがやりたかった女同士の雑談を想像してみたくなった。痛い自慢や孫自慢‥案外自慢大会だったりするのかしら。それとも主人や姑の愚痴?それはそれで楽しそうだし、そういうこと、話してみたかったよ。
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