このスポーツコメディは褒めちぎりたい 『アンクル・ドリュー』
ウェブCMに「ドラマ」という肉を付けて映画化した作品である
2012年5月、ペプシコーラが一本のウェブCMを公開した。特殊メイクでお年寄りに扮した現役NBAスター選手が、ストリートバスケに興じる若者たちに勝負を挑み、神業プレーを連発してあっと言わせるという内容だ。このCMは大いに話題を呼び、ほどなくして再生回数は数千万を超えた。『アンクル・ドリュー』(18)はそのウェブCMに「ドラマ」という肉を付けて映画化した作品である。
特殊メイクでお年寄りに扮装する映像コメディは、ビリー・クリスタルやエディ・マーフィの時代から──もっと言うとシド・シーザーの時代から数多く存在する。21世紀以降ではリアリティコメディ番組『ジャッカス』(00〜02)が出演者がお年寄りに扮する街角ドッキリ企画を敢行し、ついには「お年寄りキャラ」が主役の長編映画『ジャッカス クソジジイのアメリカチン道中』(13)までもが作られた。日本でも近年だと『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』というTBSのバラエティ番組で「アンクル・ドリュー」のCMをモロパクリしたかのような企画が放送されている。
現役・元プロバスケットボール選手の活躍ぶりも素晴らしい
この映画には、当時のアメリカで最も活きがよかったコメディアン──と言っても過言ではない3人が出演している。『ゲット・アウト』(17)で主人公の友人役を演じて一躍スターダムに躍り出たリルレル・ハウリー、『キアヌ』(16)や『ガールズ・トリップ』(17)を皮切りにハリウッドのトップコメディエンヌの座に仲間入りしたティファニー・ハディッシュ、そして『Chappelle's Show』(03〜06)の作家としてキャリアをスタートし、スタンダップコメディからコント番組、テレビドラマに至るまで出演者としても制作者としても活躍するニック・クロールだ。
彼らがこの映画で織りなすコメディシーンのパターンは決して一辺倒ではない。言葉(台詞)の笑いもあれば、アクションや表情で魅せる笑いもあり、「仕掛けギャグ」とでも呼ぶべきシチュエーション上の笑いもある。例えばハディッシュの暴走キャラ、ハウリーの容姿をめぐるイジられネタ(これらはクリス・ロックやケヴィン・ハートら先輩黒人コメディアンたちが得意とした芸域でもある)、クロールの珍妙な動きと「トランプ大学卒」という時事的な小ネタ──。毛色は異なりながらも、いずれもアメリカンコメディの良質な一面を反映したものばかりである。
この映画ではこの3人のコメディアンがそれぞれの個性をきちんと爆発させているのはもちろんのこと(この3人が一つの画面に収まるシーンも当然ながら存在する)、現役・元プロバスケットボール選手の活躍ぶりも素晴らしい。プロの俳優顔負けの演技力でギャグを繰り広げ、質の高いコメディづくりに貢献しているのだ。演技力はドラマ面においても発揮されている。現役選手にせよ引退組にせよ、全員が「NBAの英雄」だから、試合のシーンはもとよりバスケ関連のセリフにも説得力がある。
しかし、本当に面白い映画とはこういう映画のことをいうのだ
旧友が再集結するという前半のストーリー展開は、ジョン・ランディス監督の名作『ブルース・ブラザース』(80年)を彷彿とさせる。しかし、それぞれのキャラクターの個性がポップで力強い(「キャラが立っている」)ぶん、この映画は『ブルース・ブラザース』よりも内容的にパワーアップしているような印象さえ受ける。「グラディス・ナイトも仲間がいればこそだ」という台詞の後にBGMとしてグラディス・ナイト&ザ・ピップスの曲を流すなど演出も心ニクい。ただし、この映画はお年寄りたちの再集結・友情回復物語であると同時に、孤児という背景をも抱えた若者の成長・トラウマ克服物語でもある。総合的に実によくできたプロットだと称えるのだ。
「よくできている」といえば、この映画は「コメディ要素」と「スポーツ要素」と「感動的な描写」のバランスが絶妙だ。例えば、クライマックスの試合シーンの合間にも病院でのコミカルなシーンを挿入している。コメディシーンが随所で効果を発揮しているので、観客は感動を素直に受け入れることができ、ハリウッドのスポーツ映画にありがちな「クサみ」や中だるみの発生が防がれているのだ。さらに驚くべきことに本作には「ラブロマンス要素」も過不足なく盛り込まれていて、しかもこれが見事に物語を整理する役割を果たしている。
たいていのスポーツコメディ映画はコメディ映画としてはワンパターンで、スポーツ映画としては感動を押し売りする薄っぺらい内容に陥りやすい。だが、本作に限ってはスポーツ映画としてもコメディ映画としても素晴らしく充実している。それでいてラブロマンス要素が効いていて、最後には自然に感動させられるのだから、「ここ数十年間でいちばんのスポーツコメディ映画」(ABC)という称賛は決して過大評価ではない。この映画は「いま・ここ」のアメリカ人を楽しませるというエンターテインメント精神が強すぎて、歴史的名作として後世に語り継がれるタイプの作品ではないかもしれない。しかし、本当に面白い映画とはこういう映画のことをいうのだ。私としては『アンクル・ドリュー』をただただ褒めちぎるのみである。
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