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QAnonと米軍部の不思議な関係

2021/04/14 最新追記2021/10/05

 QAnonという2021年1月6日に米連邦議会襲撃事件を引き起こした米国発の陰謀論ムーブメントは、調べていると様々な米軍関係者を見かけることが多々ある。

 米民主党議員が影の政府(DS=ディープステート)を作って子どもを食べてる、という不気味だがどこか子どもじみたお伽話を信じている人々と米国の軍人とは全く接点を見出せないが、そもそも2017年10月に4chanで初めての投稿をした時から、Qは「Qクリアランスの愛国者」と名乗っていた。Qクリアランスとは核兵器の情報も扱えるほどの米国高官だけが得られる認証だ。

 QAnonはその始まりから米国軍部との関係を強調してきた。

QAnonと米軍関係者

 QAnonを調べていて最初にぶち当たる米軍関係者はマイケル・フリン元米軍中将かもしれない。フリン氏は現役時代、米軍諜報機関部門でイラン・イラク、アフガニスタンなどの中東地域を担当し、最終的には米国国防諜報局DIAの長官にまで上り詰める。QAnonでは、伝説的な存在としてかなり初期から英雄視されていた。2019年に発足した日本の最大のQAnon組織QAJFはQArmyJapanFlynn、つまり「フリンのQ兵士日本支部」の意味だ。

 フリン氏に始まり、Qの中の人と長く噂されていた掲示板8kunの所有者ジム・ワトキンス氏(日本では5ちゃんねるの所有者として有名)も1998年まで米陸軍に所属していたことで有名だ。そのジム・ワトキンス氏が「いや、あいつこそQの中の人だ」と指差す、元ホワイトハウス首席戦略官のスティーブ・バノン氏も元海軍将校である。

 QAnon信者が集まり起こした2021年1月6日の米連邦議会襲撃事件では非常に多くの退役米軍人が参加し、中には現役米軍人もいた。調査によると襲撃で起訴された人の5人に1人は退役軍人または現役軍人だった。起訴者全体の約20%にあたり、全米の国勢調査では成人人口の約7%が退役軍人であることから、かなり多い。かの有名なQAnonシャーマンことジェイコブ・チャンズリー氏も海軍出身だ。

 米連邦議会内で警備員に射殺されたアシュリー・バビット氏も米空軍退役軍人、人質捕獲用のジップタイを持って写真に映ったラリー・レンダル・ブロック・ジュニア氏は引退した空軍予備役中佐だった。

 また、米連邦議会襲撃時に警備の警察が暴徒をこっそり招き入れたとか、議会付きの司令官が国防総省へ州兵の出動を要請した際に、あのマイケル・フリン氏の弟で同様に軍部で働くチャールズ・フリン中将が州兵の速やかな出動を渋ったという不可思議な話もある。

QAnon軍関与説とウサギの穴🕳

 これほどQAnonと米軍は関係が深く、さらにディープな噂話も数多く耳にしたが、私はそれを記事にまとめることを躊躇していた。

 実は、このQAnonと軍の関係について西側の研究者やジャーナリスト内で紛争が起きていたのだ。

 軍の関与に関して2020年夏ごろから積極的に発信していた米国のジャーナリストのジム・スチュワートソン氏がその台風の目だった。彼の主張の目玉は「QAnonはロシアの軍事作戦」というものだ。

 確かに、マイケル・フリン氏は米軍高官なのに退役後に通常米軍部高官では前例のないロシア・プロパガンダメディアRTの式典に出席して晩餐会でプーチン大統領の横に座ったりしたし、2016年の米大統領選では米民主党のメールハッキングをロシアが行ったことも明らかになっている。また、2020年10月に話題になったバイデン大統領の次男ハンター・バイデン氏の醜聞疑惑について、トランプ前大統領が米国の軍事支援を条件にウクライナの大統領にハンター・バイデン氏の調査を依頼したという疑惑もある。

 だが、QAnonに関してロシアが当初から関与したという痕跡は全く見つからない。それどころかQのプロジェクトを米軍が計画したという話すら全く証拠がなく、QAnonの起源を調べる人々から言わせるとナンセンスな陰謀論だ。

 8chanの開発者でジム・ワトキンス氏をQAnon関係者と告発するフレッド・ブレンナン氏や米国の陰謀研究者マイク・ロスチャイルド氏などは、このQAnon軍心理戦(PSYOP)説やロシア黒幕説を唱える人々を「ブルーアノン」と名付けてからかっていた。ブルーアノンというのは、共和党支持のQAnonと同じような陰謀論を民主党(イメージカラーが青)支持者も唱える陰謀論者という意味で使われたようだ。

 このように研究者間で見解が割れた上に、このジム・スチュワートソン氏とその仲間は、見解の合わない研究者にSNSで粘着して攻撃を仕掛け、さらには議会襲撃後にQAnon側が別の意味で「ブルーアノン」という用語を使い始めてQAnon研究家を糾弾したり、デイビッド・アイク氏やアレックス・ジョーンズ氏、スティーブ・バノン氏らの主要陰謀家たちがこぞって「黒幕ロシア説」や「QAnonはPSYOP」説を言い始め、もはやQAnonと軍の関係を疑うのも信用をなくす要因になりかねない雰囲気となっていた。

 疑り深い私からすると、この状況こそ米軍部とQAnonの関係を調査させないようにするQAnon側の情報撹乱作戦だったのではないかと思っている🙄

 5(2)ちゃんねる内でもよく見る手法ではある。

 真実の中に嘘を混ぜ込んで、真実を丸ごと嘘とする方法だ。

 特にこのQAnonにおける軍関与の情報戦は非常によくできていて、関係資料をぱっと見ただけではどこが嘘でどこが真実か素人が見抜くのはほぼ無理だ。

 海外では、陰謀論に陥ることを「うさぎの穴に落ちる」という表現をする。先日公開されたHBOのQAnonドキュメンタリー、Q:In to the Stormでもこのうさぎの穴がモチーフとして頻繁に使われている。

 私はQAnonと米軍関与に関して、うさぎの穴に落ちない自信がなかったので、この件に関しては長く保留にしていた。

HBOドキュメンタリー「Q:In to the Storm」

 それがどうして今になってQAnonと米軍の関係について記事を書き始めたかというと、前述した米国HBO社のQAnonドキュメンタリー、Q:In to the Stormを観てうさぎの穴に落ちない指標を得たからだ。2018年から3年かけてワトキンス親子に密着取材、さらにはQAnonに関係すると思われる人物をしらみ潰しにインタビューして調査したカレン・ホーバック監督の情熱には頭が下がる。しかも全部1人でやったのだ。

 ホーバック監督は、研究者間でも名前の挙がっていた怪しげな米退役軍人たちの長いリストをほぼ全てインタビューないしは調査してドキュメンタリーにまとめた。「心理戦」著者ポールE.ヴァレリー元少将、米諜報員マイケル・アキノ、米軍と関係の深いInfo Warsのジェローム・コルシ博士、CICADA3301に関与したというトーマス・シェーンバーガー、元NSA(米国家安全保障局)技術者ジェイソン・サリバン、元海軍諜報部員にしてピザゲートの仕掛け人ジャック・ポソビエク、そして共和党の陰謀論ボスのロジャー・ストーン、など。

 ホーバック監督の示した指標は、QAnonは米軍や退役軍人ネットワークが計画して作ったプロジェクトだという証拠は見当たらないが、始まってブームになったすぐ後で非常に早くそして深くQAnonに米軍関係者が「乗った」という事実だった。

 QAnonは、2017年10月に4chanで初めてQが投稿し、翌月の11月には大人気になった。この初期のQはさまざまな人が書いていてる可能性があるが、主にポール・ファーバーという南アフリカの陰謀家がQの投稿をしていたとドキュメンタリー上でホーバック監督は示唆する。これは、2018年8月に出たNBCニュースでも同じ意見であり、8chan創設者のフレッド・ブレンナン氏も同じ意見だ。NBCによるとポール・ファーバー氏はコールマン・ロジャース氏と共にYouTuberのトレーシー・ディアス氏に連絡を取り3人でQAnonを作り上げたとされる。当時4chanではCIAanonやFBIanonなどの内部告発anonブームが流行っていた中での誕生だったが、このYouTuberとのコラボが効いたのか、QAnonは1ヶ月もしないうちに頭1つ抜けた大人気anonとなった。

 これにピザゲートに夢中になっていた極右ジャーナリストのリズ・クロキン氏は飛びつき、すぐにマージョリー・テイラー・グリーン氏に連絡したという。グリーン氏はのちに2020年にQAnon国会議員として当選する極右の女性だ。

 さらに、2017年12月には米国で大人気の陰謀論番組InfoWarsの出演者であるジェローム・コルシ博士がポール・ファーバー氏らに急接近、積極的に仲良くなりにきたとホーバック監督はドキュメンタリーの中で語った。そして同月にポール・ファーバー氏とコールマン・ロジャース氏はInfoWarsへの出演も果たす。このコルシ博士が米軍や退役軍人グループに強いコネクションを持っていたとホーバック監督は語る。

 2017年12月にはQの投稿が8chanに移動していたが、翌年2018年1月5日頃にポール・ファーバー氏が非常に取り乱し、以降一貫して「Qは乗っ取られた」と主張するようになる。ホーバック監督はドキュメンタリーで、この時にQが8chanの管理人(当時)であるロン・ワトキンス氏によって乗っ取られたと推定している。

 どうやって乗っ取ったかの技術的可能性の説明は、フレッド・ブレンナン氏の説明を読んで頂きたい。

 ロン・ワトキンス氏が乗っ取ったと推定される後、本格的にQAnonへさまざまな米軍関係者関わっていくようになる。

 ホーバック監督は、まずInfoWarsのコルシ博士がとても親しいポールE.ヴァレリー元少将について紹介していた。ヴァレリー氏はベトナム戦争も従軍した古参の退役軍人で1993年に太平洋軍の副司令官として引退。QAnonにも有名で陰謀論をたびたび推す元空軍中尉のトーマス・マキナニー氏と共に2004年に「エンドゲーム:テロとの戦いにおける勝利の青写真」を共著している。現在でも退役軍人団体や軍事シンクタンクにも従事している。

 ホーバック監督はヴァレリー氏と直接電話会談にも成功している。ここでヴァレリー氏はQAnonは、「北バージニア軍」と呼ばれるグループからの情報を得ている。とホーバック氏に伝えた。これは2020年5月にグレッグ・オン氏が記事にした内容とほぼ同じ話だと思われる。

 ヴァレリー氏の発言の真偽はわからない。ただ、ヴァレリー氏がQAnon運動に深い興味を抱いていることだけは事実だろう。

 また、ホーバック監督はドキュメンタリー放送終了後に出演した有名なQAnonバスターズのQAnon Anonymous(QAA)のポッドキャストで、2018年にロン・ワトキンス氏とマイケル・フリン氏がツイッター上で交流していたことも語っている。

Episode 136: Into The Storm feat Cullen Hoback von QAnon Anonymous auf #SoundCloud https://soundcloud.app.goo.gl/53kK72FfRJRKC6vd7

 このポッドキャストでは、リズ・クロキンとマイケル・フリンが交流していたとも言っていた。

 ドキュメンタリーQ: In to the Storm の中でもエキサイティングなシーンは、元NSA(米国家安全保障局)技術者ジェイソン・サリバン氏がロン・ワトキンス氏と初めて会話を求める電話会談にホーバック監督も参加したシーンだろう。そこで、サリバン氏はロン・ワトキンス氏にQAnon活動への技術提供を申し出る。

 BBC記者のシャヤン・サルダリザデー氏によると、この技術提供が2020年11月中旬以降のロン・ワトキンス氏のドミニオン集票機社への脆弱性告発ツイートが一挙に世界中に増幅した原因だと言う。それは決して「自然」に広まったのではないと言うのだ。

 このサリバン氏の一点だけでも、QAnonに米軍関係者が「乗った」ことの重要性が理解できると思う。

 サリバン氏の提供した技術提供に関する記事

CICADA 3301

 ドキュメンタリーQ:In to the Stormの中でも最も気味の悪いシーンの一つはトーマス・シェーンバーガー氏が関わったとされるCICADA 3301を紹介するシーンかもしれない。

 トーマス・シェーンバーガー氏についての噂は私も去年くらいから耳にしていた。とにかく怪しい人物で非常に魅力的だが胡散臭さ220%だという評価だった。

 ドキュメンタリーでも顔を出さないという約束だったそうで、CICADAの意味するの姿で描写されているのがまた気持ち悪い。本人の写真も角度のせいかサイコっぽくて怖かった。

 CICADA 3301というのは、2012年1月4日に4chanで始まった暗号解読を求める組織のニックネームだそうだ。なんの目的で誰が暗号解読を募ったか結局今でもわからない。検証済みのPGP署名付きメッセージのみがこの組織の公認メッセージというのがQに酷似しているそうだ。

 Wikipediaによると、“パズルを解いた人々は、情報の自由、オンラインのプライバシーと自由の支持、検閲の拒否について質問された。この段階で満足のいく回答をした人は、プライベートフォーラムに招待され、グループの理想を促進することを目的としたプロジェクトを考案して完了するように指示されました。” しかし、CICADA 3301の暗号を解いたという人が話すには、そのプロジェクトは完成せず、解いた後に出たサイトも今は消えてしまったという。

 ところが、米海軍がのちにこのCICADA3301を元にした人材採用用のパズルを2014年に作っていたのだ!
その名も「ダイオウイカ計画("Project Architeuthis")」

 プロジェクトの公式サイトでこのように書かれている。“Project Architeuthisは、米軍の支部がこれまでに立ち上げた最初の代替現実ゲーム(ARG)です。“、“私たちの海軍のクライアントには、暗号学の理想的な候補を見つけるという使命がありました。”

 この、QAnonに酷似してしかもQと同じ4chanで発生したCICADA 3301が、米海軍のプロジェクトに利用されていたという事実は、QAnonと米軍との関係をも連想させる話題かもしれない。少なくとも、米軍は4chanや8chanでのブームに大変興味を持って観察しているのは明らかだと私は思う。

 ドキュメンタリーではさらに、元米陸軍所属のジム・ワトキンス氏と共和党陰謀家の大物ロジャー・ストーン氏の出資関係疑惑などを話題にしており、QAnonと米政界や米軍部の大物たちとの陰謀論は果てしなく続いていく…。

参考ツイート

ジェイソン・サリバンについてのサイト






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