山口県防府市の地域ブランドについて
[ Vol.006 ] (4693文字)
どこの地域でもあるのだろうけど、わがまち山口県防府市にもご当地キャラと地域ブランドロゴがあります。
ぶっちーくん、、、
熊本県のくまモンが流行ってから色んな地域でご当地キャラが生まれた時期がありましたが、防府市もかなり乗り遅れて2013年12月にこの「ぶっちー」というご当地キャラが発表されました。
正直初めて見たときには愕然としました、「やっちまったなぁ」って。
くまモンは、水野学さんと小山 薫堂さんが先頭に立ち、県の職員たちと一緒に考え抜かれて作りあげられてきた素晴らしい「作品」です。
参考リンク
世界で愛されるキャラクター「くまモン」の知られざる真実
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/hasegawa01
そんなくまモンの成功事例を見て「ゆるキャラが流行ってる!他の地域もやってるしそろそろ防府市もつくろうか」といった安直な感じがいかにもします。
そしてデザインを公募して地元の小中学生に投票で決めてもらうという市民からの文句の言われにくい選定方法でマスコットが決定。
おでこに防府の「防」が書いてある、、、うーむ。
防府ブランド「幸せます」、、、
こちらは防府ブランドとして2010年に設定された「幸せます」ブランド。
幸せますブランドHP
http://shiawasemasu.jp/
「幸せます」という言葉は、2010年5月に日本テレビ系列(YTV 読売テレビ制作)のバラエティ番組である『カミングアウトバラエティ!! 秘密のケンミンSHOW』で取り上げられ、全国的に知られるようになりました。
【幸せますブランドのHPより】
「幸せます」を防府の地域ブランドとする提案が、防府商業高等学校より行われ、防府商工会議所として検討を重ねた結果、「幸せます」を防府商工会議所が申請者として、商標登録を行い、その権利保護を行うとともに、「幸せます」とそのイメージ(ロゴ)を使用した商品開発の推進・管理を行うこととした。
うーむ。。。
防府市を案じてくれる防府商業高等学校の提案は素晴らしいし、ロゴも若々しくてかわいくてホッコリしますよ、確かに。
でもそれを防府市のブランドロゴにそのまましますか?
大人の考え抜いた意見はないのでしょうか?
地域のブランディングって地域活性において非常に重要で、そのブランドロゴやブランドイメージは恐ろしく慎重に時間とお金をかけて作り上げていかないといけないし、長期的に高いモチベーションでの運営が必要です。
ケンミンSHOWで取り上げられたからという理由で飛びつくように「幸せます」をそのまま文字でブランドにするかなぁ?
なんだか始まりがあまりにも軽々しいと思うし、設定や運営についても疑問が多い。
デザインのガイドラインは定めていてるけどHPトップページのトップ画像から指定のフォントを使っていないし、防府市のブランドロゴのはずなのに、他の市の商品に貼ってもいいという基準の曖昧さ。
幸せます公式ツイッターは7年間で11ツイートというやる気のなさ。
挙げればキリがない。
典型的な作って終わりのパターンなんですよね。。。
「無難に」作ったものは支持されにくい。
「光浦醸造さんの商品に幸せますのロゴシールを貼って販売してもらえませんか?」といった話を貰うんだけど、これを商品に貼って売れると思いますか?
たとえ売れるのが目的じゃなくて防府市をアピールするのが目的だとしても、一生懸命作っている自分たちの商品に貼るのはちょっとリスクが高く厳しい。
確かにデザイン自体も個人的には好みではないけど、そういう問題じゃないんです。
デザインの良し悪しはいつまで経っても平行線。万人に受けるものはなく自分の商品との相性もあると思うし、そこを論じるつもりはないけど、そこに至るまでの経緯や運営側の地域ブランディングへの意識の低さがどうしても最終的なかたちや運営に現れている気がします。
地域ブランドをつくっていくということが超絶難関な問題だということを理解していたのかなぁ?
こういうのって、一度進みだしたら引き返せないから専門家を交えて3年くらいかけてでもじっくり考えてスタートさせないといけないし、その後の運営も慎重に継続的にやっていかないといけないことです。
地元の高校生が一生懸命考えてくれたから採用しよう。っていう事ではないと思うんですよね。
なにか事業をしないといけないから、、、他の地域もやってるから、、、とりあえず「ゆるキャラ」や「地域ブランドロゴ」を作ったほうがいいんじゃない?っていう流れだったんじゃないかなぁと邪推してしまいます。
『とりあえず他の地域がやってるから、平等に公募して無難に小中学生にでも選ばせてできるだけお金をかけずに問題なくやろう』
という、「とりあえず」「無難に」「平等に」「お金をかけず」「問題なく」やろうとしていることこそが大きな問題だと思うし、そうやって出来上がったものがこの資本主義の世の中で圧倒的に支持されるなんてことは残念ながら100%あり得ないです。
奈良の国民文化祭ロゴ問題
一方、こちらは2017年の奈良県国民文化祭のロゴマークです。
ロゴタイプは、奈良時代に確立した書体である「楷書」をベースにし、シンボルマークは、正倉院の宝物に描かれた動植物を円形に配置。シンボルマークの色には、奈良県の色である「蘇枋(すおう)」を選びました。
制作:水野 学(クリエイティブディレクター)
先述のくまモンを作った水野学さんのディレクションによるロゴです。
厳かさと親しみやすさを兼ね備えていつつ、歴史の学びや県のカラーのアピールもあり、今後の明るくて前向きな奈良のイメージも外向きの動物たちから感じる、個人的にはとても素晴らしいデザインだと思います。圧巻です。
もちろん好みの問題もあるので「どこが?」って感じる人もいると思いますし、例えばこれが商品に貼るようなロゴだとしたらそれぞれの会社の商品との相性などがあるので一概に「幸せます」より良いデザインだとは言いません。
ただ、問題はデザインそのものではなくて、このプロジェクトを手がけた人たちがデザインへの意識を高く持ってコストを厭わずにこのロゴを水野学さんにお願いしたという点にあります。
同じ奈良県の成功企業「中川政七商店」さんでも水野学さんは素晴らしい仕事をされていて奈良県との親和性が良いということはもちろん、国民文化祭という文化の祭典におけるロゴデザインの重要性を県の職員の方たちがしっかりと理解されていたということです。
このロゴマークをめぐって住民訴訟が起きた。
実は、この奈良県の国民文化祭のロゴについてこのような問題がありました。
https://www.huffingtonpost.jp/2016/09/22/is-the-nara-logo-design-too-expensive-_n_12130574.html
奈良県で2017年に開催される「国民文化祭」のロゴマークをめぐって、540万円の制作費が不当に高すぎるとして県内の市民団体「見張り番・生駒」メンバーらが9月16日、奈良県に対して住民訴訟を奈良地裁で起こした。「30万円程度が適切」だとして、差額の510万円を損害額と主張。奈良県に対し、同祭実行委会長の荒井正吾知事に請求することなどを訴えている。
過去の他県で開催された国民文化祭のロゴ(↑)は賞金5万円程度の公募で選んでいるのに、奈良は540万円を事務局の単独指名により特定のデザイナーに作らせたことが問題とのこと。
確かにデザインの金額って目に見えにくい部分が多くて理解するのは難しいけど、こんな大プロジェクトの場合、公募ではなくプロが正式に依頼を受けたらプレゼン費用や資料集めなどの実費だけでも30万円以上はかかるだろうし、ましてや水野学さんですよw。
540万円は正直安くはないけど、30万円は一般常識的にも安すぎでしょう?
・・・という風に、住民の方たちがデザインやブランディングといった目に見えにくいものについて価値を理解することは当然難しく、こういう苦情がくるということは容易に想像できたと思うけど、それでもそこにコストをかけたということです。
「問題なく」やろうと思っていなかった奈良県の職員の方たちの姿勢が素晴らしいと感じるし、そういう自治体っていいなぁと思います。
防府市はどうすれば良かったのか?
後から文句を言うのは簡単だけれども、今後のための個人的な意見です。
1.予算がないのならやらなきゃいい。
第一に予算の問題があると思うので奈良県のような事は期待していません。でも予算が無いならやらなきゃいいんです。地域ブランド作りって絶対にお金と時間がかかる事なんだし、最初にマイナスのベクトルのものが出来てしまうと、その後で運営をいくら頑張ってもどんどんマイナス方向にいってしまいます。
低予算で公募をするにしてもせめて募集の目的設定や審査員にはコストをかけてプロに任せて、良いものがなければ「該当なし、また来年。」という思い切った選択も必要だと思います。
何年も先までその市のイメージになるものなのでそれくらい慎重に決定して欲しいと思います。
2.長期的なものにポップなデザインは控える。
デザインのことでいうと、ポップでカワイイ路線は単発のイベントでは成功することもあるかもしれないけど、市のブランディングのような長期的なものには向いていないと思います。
まぁ市を挙げて『かわいいまち♡防府(萌)』とかを目指すなら止めませんし、目指すなら徹底してやってくださいw。
ただ個人的には歴史ある防府天満宮のある町として上質で落ち着いた芸術性を感じる大人の町のイメージをつけて欲しいです。
3.目的をはっきりさせる。
大きな方向性として「市のブランディング=市の高付加価値化」ということをしたいのは分かるのですが、誰が誰にアピールしたいのかすら明白ではないです。市内の内需拡大なのか、県外市外からの外需誘導なのか?商品が売れることが目的なのか、市のアピールが目的なのか?
全部です。・・ではダメです。
4.デザインリテラシーを持ってほしい。
今回の最大の問題は「デザイン」や「ブランディング」に対しての重要性を運営側があまり認識できていなかったことだと考えています。
今、防府市だけではなく全国的に市町村運営に求められてるのはデザインに対するリテラシーです。
デザインって気取った言葉だけども、そういう表面的な話だけじゃなくて社会の仕組みや将来を俯瞰して再配置させたり、大枠のテーマをしっかり定めて明るい未来を想像させてくれるビジョンを分かり易く住民に説明してくれる表現力であったりします。
もちろん単純に上辺のデザインに対する評価力を鍛えることも必要です。
そしてそういった力って生まれながらに備え持った力じゃなくて、いろんな成功事例を見ることを蓄積させていけばある程度身に着くものだと思うので、デザインは苦手だと逃げずに向き合う努力が必要だと思います。
以上、好き勝手に色々書きましたが、あくまでも防府市がより良くなって欲しいという願いを込めての個人的な意見ですし、そもそも「ぶっちー」や「幸せますブランド」に問題があると思っているのはぼくだけかもしれません笑。
ただ、職員の方たちが一生懸命頑張られてるのをよく知っているからこそ自分の意見を記事として書かせてもらいました。住んでいる町がより良い町になればいいなというのはみんなの共通の願いですから。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?