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癒される不思議な話 11話「荷物が置かれたままの家」

これは、特に怖い話ではありません。私にとってはほのぼのした話です。読む方によっては怖いと感じるかもしれませんが・・・。


ほどよい武家屋敷

まだ、以前住んでいた地域で家を探していた頃は、本当にいろいろな物件を見に行ったものです。結婚前は、セキュリティ面を考えてマンションを中心に内覧しましたが、結婚後は次第に戸建て派になった私。
当初はハウスメーカーと話を進めていましたが、後半は古民家が気になるようになっていきました。

そんな折り、見つけたのが二軒の武家屋敷です。駅からほど近い、立地の良い場所に建つ二軒の武家屋敷。一軒は部屋数も多く釜戸なども残されていましたが、問い合わせたときはすでに買い手が決まっていました。
もう一軒はそれよりやや手狭ですが、コの字型の平家で居間と台所に三つほどの和室、納戸があり、夫婦で暮らすにはほどよい広さです。しっかりした木の塀が廻された、適度に現代風に手が加わった屋敷でした。

ところで、空襲があった場所なのに立派で古い建物はところどころ残っているのですから不思議です。恐らくですが、目ぼしい建物はあえて燃やさずに残したようですね。祖父母からそういった話を聞いたという人もいます。実際、初めに見つけた釜戸のある屋敷は、敗戦直後は進駐軍に接収されて使われていたそうです。

内覧で迎えてくれたのは?

さて、そんなわけで平家のほうを内覧することになった私たち。当時住んでいた家からそう遠くなかったため、愛犬を伴って散歩しながら向かいました。もちろん、愛犬は中には入れません。私は家の中に上がり、愛犬と夫は中庭から見るという感じです。

現地で待ち合わせた不動産会社の人に案内され、さてお邪魔しようかと玄関で靴を脱ぎかけたときです。
誰かが見ている感じがしました。自分の感覚を頼りに、唐突に正面の廊下を奥へ進んで行ったとき、その理由がわかりました。

居間の奥にしつらえた仏壇に、二つの遺影とお位牌・・・。
特に気になったのは、そこの主人とおぼしき紋付きの羽織を着た老人です。知らない人の遺影ですが、まったく怖いという感覚はありません。笑顔の写真というのもありますが、温かい空気が伝わってくるのです。

(生前のように、来客を快く迎えてくれているのだろう)

そう感じた私は、まず遺影に手を合わせて挨拶をさせていただきました。それから、家中を案内してもらったのです。
家の中には、至るところに家財道具がそのまま置かれていました。その家の先祖が「従五位」であったことを示すものも飾られた状態です。

不動産会社の説明によれば、その家の相続人は他県に住んでいるようで、荷物を片付ける目処は立っていないということでした。
事情はあるにしても、空き家に放置された遺影とお位牌が気の毒になったものです。ただ、昨今ではこういった事情を抱える空き家は珍しいことではありませんが。

最後まで温かかった主人

庭を含め、一通り屋敷を案内してもらい、売主の事情も聞いて物件を後にした我が家。その後も近所を散策しながら帰ってきましたが、件の主人は途中まで送ってくださったようで、暫く気配がありました。その間、ずっと穏やかな笑みを浮かべる姿が脳裏に浮かんでいました。温かい空気とともに。

広い駐車場にほどよい間取り、日当たりの良い庭、そして立地は希望に合っています。気になるのは手付かずで残された荷物です。
ただ、私は、空き家に残された遺影やお位牌が気の毒になりました。もし買ったときには、荷物の処分はうちで行い、供養もしてあげよう、そう考えました。

帰宅後、夫とその家について話したところ、驚くことに夫も同じことを考えていたと言います。荷物どころか仏壇には遺影やお位牌まで置かれたままなのですから、普通なら嫌がるでしょう。ところが、まったく同意見なので驚きました。

でも、その家とは縁がありませんでした。その直後、我が家は新たなトラブルが起こって現在の土地に移住する流れになり、その家も他の人の手に渡りました。ただ、住まいとしては使われていないようです。




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