*読了10冊目*『祖母姫、ロンドンへ行く!』
『祖母姫、ロンドンへ行く!』 椹野道流著 を読んだ。
もともと『ハリスおばさんパリへ行く』など、おばちゃんが異国の地で珍道中を繰り広げる系の話が好きである。
しかも今回は80代のおばあちゃんと20代の孫娘という凸凹コンビが繰り広げる旅だというので楽しみに読んだ。
まずこの旅は普通の旅ではない。
超ゴージャス旅である。
飛行機は行きも帰りもファーストクラスで、宿泊しているホテルも最高級、しかもジュニアスイートである。
そして登場してくるそれぞれの分野のスペシャリストたち(たとえばファーストクラスのキャビンアテンダント、高級ホテルのバトラーにドアマン、老舗百貨店の店員さんなどなど)が、ことごとく神接客で驚くのだが、おそらくこういった上流社会ではこれが当たり前に行われている接客なのだと思うと羨望のあまり溜息が出る。
そしてなんというか、人間力だな!と思ったのである。
そこにはお客さんとお世話係という枠を越えた「人間」対「人間」のやりとりがあった。
祖母姫は本当にそのまんま姫なので、かわいいワガママをたくさん言う。
それにいちいち振り回される孫と、一緒にその要望に応えようとするスペシャリストたちとの連携プレーがすばらしいのだ。
そしてこのスペシャリストたちは心からそれを楽しんでいるのだ。
もちろんこの顧客が超高級ホテルのスイートルームに泊まっている上客であるというのはあるんであろうが、それを考慮しても余りあるサービスなのである。
なるほど、高級ホテルというのは社員教育が行き届いているんだな、と思って、いや待てよ?と。
そもそもこの従業員たちは、もともと人間が大好きで、人を見たら何か助けたいと思うような人たちのはず。そうじゃなかったらホテルで働きたいなんて思わないだろうし、そうやっていつも気を配って周りの人を見ているから、人が何を欲しているかすぐに察することができるんだろうな、こういう察し力というのは学んで後から身に付くもんじゃない、ほとんどエスパーみたいな能力だし…と思った。
もともとそういう資質のある人だから、こんな超高級ホテルに採用されたのだと。つまりこのホテルにはそういう従業員がウヨウヨしているのだと。
たとえば、祖母姫たちの部屋のバトラー「ティム」は、ベテランのドアマンからある忠告を受けて、一大決心をして孫娘(この本の作者)を夜のドライブに誘う。
この一大冒険記も感動ものなのだが、この「ビジネス」という枠を超えた接客のすごさというのは、こうして代々先輩から後輩へ、実地で受け継がれてきているものなのだなと。
つまり類は友を呼ぶのだなと思ったのである。
そして類は友を呼んでいるのは顧客も同じで。
「お金のある人はいいよな。こんな高級なホテルに泊まれて」などとつい私なんかは思ってしまうが、じゃあその人はなぜそんなにお金持ちなのか?
おそらくいっぱい勉強したんだろうし、やはり最終的には人を集める魅力があるのだと思う。そしてその家族もやはり皆同じような雰囲気の人たちなのだと思う。
これもまた連綿と受け継がれるのだ。
祖母姫は本当にチャーミングなおばあちゃんなのだが、孫娘である作者もこのエッセイの中で何度も言っているが、とにかく自己肯定感の強い人なのである。
だが、その自己肯定感は決して夢夢しいところから出て来たものではなく、とことんシビアな目で自分というものを見つめ続けたからこそ出て来たものなのである。
たとえば祖母は自分が美人で無いことを知っているという。
だからこそ肌のお手入れもお化粧もきちんとするのだと。
いつでも自分の思う最高の自分でいるために。
実は相手の気持ちがわかるというのは、自分のことをどれだけ分かっているかということにかかっている気がする。
逃げずに自分を真っ直ぐ見ること、これは愛である。
自分と正直にまっすぐ向き合い続けて来た人は、たぶん相手と向き合った時にもその人のことを真っ直ぐ奥まで見通すことができるのだろう。
だから旅の行く先々で出会った凄腕スペシャリストたちも、おそらく自分ととことん正直に向き合って来た、今も誠実に向き合い続けている人たちなのだろうと思った。
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