見出し画像

*読了8冊目*『成瀬は天下を取りにいく』

『成瀬は天下を取りにいく』 宮島未奈著 を読んだ。

志が大きいって大切なことだなと思った。
成瀬の掲げた志は「200歳まで生きる」である。
だから毎朝走り込み、丁寧に歯を磨く。
200歳まで生きるためには与えられたリソース(肉体資源)を大切にする。

掲げた夢がドデカイ奴は、大抵身の回りの小さなことに気を取られない。
それはスポーツ選手などもそうだと思うが、日々の練習で友達との仲が疎遠になってもそのことでクヨクヨ悩んだりはしない。
眼差しはひたすらゴールをしっかりと見据えている。

成瀬は色々なことに手を出す。
シャボン玉や漫才やかるた等々。
一見ブレブレのように見えるのだが、実は一貫性がある。
つまり「やりたいことをやるのだ」という一貫性。
そして「納得したらやめるのだ」という一貫性もある。
成瀬は自分の気持ちに常に正直だ。

そして傍から見ればおおよそ何の人生の得にもなりそうもないことに興味を示す。
西武大津店の閉店にまつわる一連の動きなどまさにそれであろう。
もしクラスの友達がこれをやり始めたら、単なる目立ちたがり屋だと思ってしまうと思うが、成瀬は自分が目立ちたいなどとは露ほども思っていない。
あるのはただ西武大津への「愛」である。
いや、これだけじゃない、すべての行動がびっくりするほどの「愛」である。

一見クールで他者に何の関心も無さそうな成瀬だが、その行動原理のすべては「愛」だ。
それは生きとし生けるものへの、そしてその一員である自分への愛だ。
自分への愛といっても自己愛ではない。
自分という存在を育んでくれたものへの愛というのか、ここに存在していることそのものの喜びというのか、生まれたばかりの赤ん坊のような喜びが成瀬の中には溢れている。

そしてその喜びから「200歳まで生きる」という夢も生まれてきている。
なんて健康的な話なのだろうか。

ドデカ過ぎる愛は往々にして周囲には理解されず、成瀬はいつも浮いている。
だからこそ島崎という理解者の存在がものすごい光を放っていて、何事にも動じない成瀬が、島崎のこととなると動揺を見せる。
初めて勉強が手につかなくなる。
この場面は成瀬も人間だったのだなと思えるとてもいいシーンである。

そして気づくのだが、成瀬がどうして勉強も運動もその他の活動も全方向に偉大な能力を発揮できているのかといえば、それは神経回路がスッキリしているからである。

友達関係で悩んでは眠れない夜を過ごし、恋愛関係で悩んではヤケ食いをし、親子関係で悩んでは家を飛び出し、世の中の不公平さに悩んでは不平不満をあげつらう、といったエネルギー消耗タイムがほぼ無いのだ。

だから持てるエネルギーのすべてを自分の目標を達成するためだけに使いきることができるのだ。
実にシンプル。
こんな風に清々しく生きられたらどんなにいいだろうかと思った。

続編もあるようなので、また最高の成瀬に会えることを楽しみにしている。







この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?