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*読了17冊目*『イーロン・マスク 下』

『イーロン・マスク 下』 ウォルター・アイザックソン著 を読んだ。
とんでもなく面白かった『イーロン・マスク 上』の続きである。

上下巻通して思ったのは、たぶん究極の心配性なんだなということだった。
頭のいい人は物事の突端に触れただけでその全貌を知る。
だから今の人類の様子を見ただけでこの先の地球の行く末を見通してしまって「このままじゃダメだ」と思ったのだろう。

私たちがせいぜい数十年(自分の寿命)の範囲で考え行動しているのに対して、イーロンは何百年、何千年、いやひょっとしたら何億年(要するに星の寿命)単位で考え行動していると思われる。
なので普通の人間には見えていない地球の危機が全部見えてしまっていて、その不安を少しでも払拭するべく、お尻に火が付いたように走り続けているのだと思う。
彼から見ると、何も知らずにバカンスを楽しんでいる地球人はどれだけ能天気に見えることだろう。

火星移住計画を急いでいるのも今の人類が火星旅行を楽しむためではない。
とりあえず何人か火星に行っていれば、いつか地球が滅亡してしまっても、火星に残っている種がそちらで生き続けてくれるだろうということである。

とにかく桁外れの天才の日常を丹念に写し取ったのがこの本である。
日常とは言っても私たちの考える日常とは全く違う。
よくこの状態で身体も壊さずに生き続けているなと思う。
食品の栄養バランスなんて全く考えてもなさそうだし、レッドブルをギンギンにきめて夜通し現場なんて当たり前のこと。
規則正しい生活習慣なんてあったもんじゃなく、問題から問題へ駆けずり回っているのだが、どんな修羅場にも必ず抱えて行くのは息子のXである。

そういえば人類という種の保存を第一に考えているマスク氏は自身の子供も11人いる。体外受精や代理出産も駆使するし、これぞと才能を認めた女性には精子も提供する。
妻以外の女性に勝手に精子を提供していることは、そこだけを取り出して考えたら大問題だと思うのだが「種の保存のことを考えているのだから当然ですよね」って思えてくるのが不思議だ。
彼の人生全体がぶっ飛び過ぎているので、もうひとつひとつのぶっ飛びが総じて薄まって見えてくるのだ。

そして上巻に引き続き相変わらず身近な人たちへの接し方が容赦ない。
それなのに一度辞めた社員がまた戻ってくるのが不思議だ。
「他の会社で働いてみましたけど、面白くないんですよ」と言う。
そりゃ世界中どこを探してもこれと同じような会社はひとつも無いだろうと思う。絶叫コースターにハマってしまった人のように、一度降りてもまた何度でも乗りたくなってしまうのだろう。

私も段々本を読み終わるのが惜しくなってしまい、最後の方はわざとゆっくり読んでいた。
これはまずい、イーロン・マスク中毒になりかかっている。

彼の周りを取り囲む人々もこうやって中毒にかかり、無理難題を押し付けられても、理不尽に罵倒されても離れられなくなってしまうのだろう。
本当に不思議な人である。

本は終わってしまったが、幸運なことにイーロン・マスク氏の人生本編はまだ続いている。
人徳という意味ではあまりにも規格外のマスク氏を、これだけ魅力的に(しかも美化せず赤裸々に)映し出せているのは、インタビュアーであるウォルター・アイザックソン氏の手腕であろう。








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