読書感想「ニムロッド」

僕が言葉を紡いでいくことで、人々の精神に何かを書き込む。遺伝子に誰かが書いたコードみたいに、ビットコインのソースコードみたいに、僕が誰かの心に文字を通じて何かを記載することで、それが世界を支える力になる。そう思っていた。(本文131頁より)

 先日読み終わりました、上田岳弘さんの「ニムロッド」です。

 物語を支えるキーパーツとして「ビットコイン」という仮想通貨が頻繁に登場しました。時事問題として度々ニュースなどで取り上げられるビットコインですが、正直その仕組みは僕自身把握しきれていないです。。。

 しかし、無から生み出されるビットコインという空虚な存在価値に、物語性としてどこか惹かれるものを感じたのも事実でした。

 ビットコインは、その存在自体を担保することによって価値が生まれます。第三者である誰かが、その取引が行われたことを記録することにより、「そこにビットコインが存在した」という事実そのものを保証することで、報酬となって存在の認知と価値を広げていきます。姿形のないものに名前をつけていく感覚に似ているかもしれません。

 この感覚は、本記事の冒頭に記した本文の抜粋からも読み取れるように思いました。

 初めは何もないその場所から、名前のない感情や行き場のない思いを言葉という、ある種のコードとして並び替え、人の心に訴える物語を生み出す。

 これはまさに、創作するという表現そのもののように思いました。

 現代の最先端カテゴリーを取り入れながら、芸術性のある質の高い内容に収められていることに、読後、感心せずにはいられませんでした。ある意味でノスタルジーな気分のする、とても不思議な小説でした。

 余談ですが、今作と同名タイトルであるPeople In The Boxの楽曲がタイトルの由来だと聞きました。

 確かに、テクノロジーの先にあるどこかディストピアでブラックユーモアのちりばめられた楽曲に沿った内容だった気がします。

 そのほかの楽曲もメッセージ性が高く、独自の世界観を築く歌詞と高度な演奏が魅力的なので、ぜひ聴いてみてください。

 それでは、またいつか。

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