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【映画】村上春樹の世界に浸る「めくらやなぎと眠る女」感想(ネタバレあり)

 予告編を観て気になって公開日をチェックしていた映画「めくらやなぎと眠る女」。原作は村上春樹で、ピエール・フォルデス監督のアニメ映画。
 最初、フライヤーで「村上春樹作品、初のアニメ化」というキャッチコピーを見た時には、「アニメ化~?」と驚いた。「いやいや、村上春樹作品のアニメ化って、どうよ?」くらいに思っていた。が、予告編を観て、意外とその雰囲気が村上春樹の世界に合っている感じがして気になって「観に行きたい」と思っていた。

 

 私は、村上春樹は好きだけれど、ハルキストと呼ばれるような熱狂的なファンではない。新刊本の発売開始時刻を待って買うほどすっごく好きというわけではない。「新刊が出る」と聞けば、発売日を楽しみにして、店頭でパラパラとみて面白そうなら買うし、それほどではなければ買わずに図書館で借りて読む。でも、他の人と比べずに自分の中でいうのなら、村上春樹は「すごく好き」な作家だ。
 好きでたくさん読んでいると、だんだん色々な作品がまじりあったり薄まったりして、題名を聞いてもピンとこない作品もある。私が、その程度の好きさ加減というだけで、本気でめちゃくちゃ好きな人は、そんなことないかもしれないけれど。
 ただ、そんないい加減な「好きレベル」の私でも、今回の映画「めくらやなぎと眠る女」は、タイトルを聞いてすぐに「耳の中に虫がいる話」だと思い出した。そのくらいインパクトがある話だったからだ。
 また、この映画はタイトル以外の作品もいくつか合わせて再構成する形で映画にしているのだけれど、そこに含まれている「かえるくん、東京を救う」と「UFOが釧路に降りる」という作品も印象的だ。特に「かえるくん、東京を救う」は、震源地が都心にある地震ニュースを聞いた時に脳内で「かえるくん」と「みみずくん」が戦っている様子を思い浮かべるくらい印象に残っている。先日、西荻窪が震源地の地震があった時も、地下で「かえるくん」と「みみずくん」が闘っている様子を想像してしまったくらいだ。 

かえるくん

 「かえるくん、東京を救う」は、原作では片桐さんを「かえるくん」が訪ねてくるシーン、「かえるくん」が片桐さんに初めて会って、どうして相棒として片桐さんを選んだのか聞くあたりが、すごく好きだ。自分のことを「食ってクソして寝るだけの人生」という片桐さんに対して、片桐さんの地味な誠実さを絶賛するところ。「闘うかえるくんを応援する」という役をしてほしいことや、応援する役も闘う役と同じように重要で、応援してくれる人がいないと闘いきれるかどうかわからないという話。でも、最後に「かえるくん」が壊れていくあたりは怖い。想像するとグロでもあるし。
 今回の映画では、その最後の場面の怖さ加減やグロさ加減がアニメによってほどよく中和されていてよかった。絶妙なセンスのよさを感じた。

 ただ、私はオリジナル版(字幕版)を観たのだけれど、「かえるくん」が固有名詞ではなく「FROG」と言い換えられていたのがすごくすごく残念だった。「Mr.FROG」(かえるさん)を「FROG」(かえるくん)と呼び直させる場面もたくさんあったけれど、それにしても「FROG」ではなく「KAERU」であってほしかった。「くん」か「さん」より「FROG」か「かえるくん」かの違いの方が大きい。私の中では、「かえるくん」と「みみずくん」はそれぞれ固有名詞だった。「かえるくん」とか「みみずくん」という音の響きのかわいさと、それに似合わない怖さも含めて、この作品の面白さになっていると思っていた。だから、英語で話すとしても「かえるくん」は「KAERUKUN」、「みみずくん」は「MIMIZUKUN」と言ってほしかった。英語の語感や、英語の喋り方、声のトーンなどはすごく村上春樹の世界にはまっていて心地よく好きだっただけに、それだけが残念だった。
 いや、正直、その呼び方以外は最高に素晴らしい映画だった。
 実写よりもアニメの方が村上春樹作品には合うのかも?と思ってしまうくらい。
 もちろん、今回の作品の種類がアニメに合っていた、ということもあると思う。が、いくつかの作品のチョイス、組み合わせ方、まさに合わせることによって掛け算しているような心地よいハーモニー~どうほめていいのかわからないけれど、とにかく素晴らしかった。村上春樹の世界に浸ることができる心地よいひとときだった。

 今回観たのはオリジナルの字幕版。原版なので、それが素晴らしいのはもちろんなのだけれど、日本語吹き替え版も面白そうだ。ぜひ日本語吹き替え版も観てみたい。日本語版では絶対に「かえるくん」「みみずくん」と言っているだろうし。 

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