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少女A 第12話 (読了3分)

前回までのあらすじ
江東区で亡くなった女子大生と横浜で自殺した女子大生は幼馴染みだった。キーワードは高校時代のバスケット部。捜査一課の桐谷と谷口はバスケット部の部員に壮絶な事故にあった女子生徒がいたことを知る。

少女A 第12話

まさ美はとりあえず話を合わせようとするが、バイトのデザインの進捗が気になっていまいち話に入り込めなかった。ここは早く終わらせて帰ってデザインのことでも考えよう、そう思っていた。

「私お酒を飲んだからかな、トイレが近くなったみたい、ちょっと行ってくるね」

まさ美がトイレ方向に消えたのを確認すると、優香は周りを見て、自分を気にしている人がいないことを確認すると、まさ美の飲んでいたワインに白い粉状のモノを入れた。

まさ美はトイレに入るとスマホを取り出した。もうこんな時間か、9時になろうとしていた。スマホのロックを解除する。バイトのデザインの件で連絡がメールに来ているかもしれない。そう思いスマホのブラウザーを立ち上げる。フリーメールを開く瞬間、視界に見たことのある文字が目に入った。ログイン画面からもう一度トップ画面に戻る。ニュースのテキストにそれはあった。

“調布市の楢崎琴美さんに捜索願い”

慌ててタップして開く。行方不明になっているのは琴美に間違いなかった。すでに3週間が経過していた。警察と相談をし、今まで伏せていたようだ。それで来なかったのか。胸の中が灰色になった。

まさ美はスマホをバッグにしまうと、急いでテーブルに戻った。

テーブルでは、優香がチーズケーキを口に運ぶところだった。その姿は幼い子供のようだ。

「優香、聞いて」

「どうしたんですか、ワインでも飲んで落ち着いてくださいよ」優香が笑ってワインをすすめた。

すすめられて、一気にワインを喉に流しこむ。視界に入った窓の外の光景が少し回転した。

「琴美が行方不明になっているの、しかも3週間前に」

「えー、マジですか、だから来なかったのかなあ」

優香の目つきが一瞬変わる。落ち着き払って目は恐怖すら含んでいるようだ。

「でも、不思議だと思わない?私今日もメール貰ったんだけど、琴美から」

そういった瞬間、まさ美は目の前が暗くなって、すーっと意識が遠のいた。
 
目を明けると白い天井が見える。柔らかいものが背中を支えている。周りを見渡し、自分はソファに横たわっているのだと気付く。状況を確認しようと顔を上げて見回した。床がフローリングになっていて壁が白く、キッチンは対面式の物だ。高級な雰囲気が漂っている。

「気が付きました?」

優香がキッチンに立っていた。

「どうぞお水です」

「ここはどこ?」

「私のおうちです、姉といっしょに住んでるんですが、今日は外出して遅くなるので、まさ美さん、気分が良くなるまでいてくださいね」

なんとなくだが、優香に肩を借りてここまで歩いてきたおぼろげな感覚がある。思い出すと頭痛がした。頭痛と同時に随分前にかいだ香りが鼻をついた。

まさ美は目の前の水を飲もうとして、手を伸ばした。キッチンから優香がこちらを伺っているようだ。まだ気分がすぐれない、一旦手に持った水をテーブルに戻す。

「ちょっとトイレ借りるね」

吐き気をもよおしたので、まさ美はトイレを借りることにした。

そうだ、何かを思い出したようにまさ美はバッグからスマホを取り出した。ブラウザーを立ち上げ、もう一度ニュース記事を見る。

琴美が3週間前から行方をくらましているのは間違いなかった。記事にはもえの自殺と関係があるのではないか、と書いてあった。

もえは自殺ではないの?琴美はどこにいるのか。3週間前から家に帰っていないと書いてある。では、なぜ私に連絡があったのだろう。頭の中で嫌な妄想だけが膨らむ。琴美からは今日、念を押すメールが入っている、でも来ていない。そして、駅の改札口からバス停への場所の変更・・・優香・・。

まさ美はそこまで考えると体の力が抜けそうになった。とにかくここから出た方がいい、何か確信があるわけではないが、とにかく優香から離れた方がいいことだけはわかる。そっとトイレのドアを開け、玄関の方に向かう。

少女A 第13話へ続く

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