少女A 第13話 (読了2分)
前回までのあらすじ
江東区で女子大生、藤野もえの死体が発見される。捜査を続けていると半年前に横浜で自殺していた木下佳奈美という女子大生が幼馴染だったことがわかる。さらに同じバスケット部だった部員が行方不明になっていた。
少女A 第13話
ヘリコプターから落ちてくるけたたましい爆音の下で桐谷がいらついていた。
「なんだ、今頃になって、あいつらを止めろ」
ヘリコプターに向かって唾を吐こうとして辞めた。空に向かってはいた唾は自分にかかることを思い出したからだ。
「これで部長たちも本腰をいれてくれるんじゃないですか」
青い空がどこまでも広がっている。大きな鳥が上空を舞い、多くの人が平和な日常を送っていることを告げているようだ。
2人は豊洲橋の上にいた。午前6時、海上を運航していた貨物船が死体を発見したからだった。貨物船と言っても、海上で工事をする部品を運ぶ小さな船だ。人が多く乗り込んでも10人がせいぜいいいところだろう。
死体は豊洲市場と晴海の間にかけられた豊洲大橋から落とされたというのが、警察の大筋のよみだった。
「滝川ゆうが殺されたとなれば、やはり八神優香しかいませんかね」
八神優香は以前話を聞いた八神メイヤの双子の兄弟だった。
「あの子は違う、そうあせるな」
端の歩道にゴルフバッグが無造作に置かれていた。おそらく犯人は滝川ゆうを殺した後、このゴルフバッグに入れて運んだと思われる。死体の顔には刃物で切り刻まれた跡が残っていた。すぐに藤野もえの顔を思い浮かべた。
ゴルフバッグの内側には大量の血液が残されていた。おそらく滝川ゆうの血液だ。
海に浮かんだ滝川ゆうは遠くから見ると、ビニールのごみのように見えたそうだ。ジーンズのポケットに入れていた定期券入れから出てきた身分証明書で滝川ゆうと判明していた。
死体が滝川ゆうのモノだとわかったとたんに警察署内がざわついた。1時間後には殺人事件として捜査本部が立ち上げられたのだった。
桐谷はひととおり現場検証を終えると、あとは鑑識に任せ待たせていた車に乗り込んだ。田口も慌てて隣りに滑り込む。
「殺意はどこにある?」
独り言のように桐谷がつぶやいた。
「バスケット部で何かがあったに決まってます」
田口が勢いだっている。
「藤野もえ、木下佳奈美、楢崎琴美、滝川ゆう、いずれも顔に傷が残されていた。なぜだと思う」
前方を見据えたまま桐谷が田口に話しかけた。
「顔にコンプレックスがあるとか」
「それもあるが、それだけじゃない、もっと深い何かがあるはずだ」
「バスケット部にいた誰かだと思いますが、桐谷さんは八神優香だとは思っていないんですよね」
車が信号で止まる。人が横の歩道を前方に向かって歩いているのを見て、車がバックしているような気になった。
「八神優香は何もしていない、それくらいはわかるだろ」
田口が黙ってうなずく。
「宮野美紀はどう思いますか?行方不明なのはおかしいし、高校の時に大きな交通事故に巻き込まれている。宮野がバスケット部に何かの恨みを持っているということは考えられませんかね」
桐谷は黙って前方を見ている。桐谷もそう思っていたからだ。さらに気がかりなのは犯人がだんだん大胆になっていることだ。殺人犯は時間が経過すると自分が犯人だと気が付いてほしいという衝動にかられることがあるらしい。
橋の上に残されていたゴルフバッグは偶然ではない。わざと残したとしか思えない。死体を入れていた巨大なバッグを誰が忘れようか。
「宮野美紀を見つけるしかないな、これ以上の犠牲者がでないうちに」
少女A 第14話につづく
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