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PS.ありがとう 第26話

今は祐輔には気を使いながら伺いをたてて、本当のことを言えずに時間だけが過ぎている。小さな望みをかなえるためにこれだけの労力を要するのか。そう思うと将来どれだけのことを耐えながら生きていかないといけないのか。でも、別れたら終わり、いくら祐輔のことが許せない事態になっても、それだけは通そう。

「シラスピザです」

ウェイターがそっと大皿を二人の前に置いた。薄い生地の上にシラスがちりばめられている、この店特製ピザだ。

ふわっと魚介類のいい匂いが漂った。

「おいしそー」

2人でピザをシェアしたらそれだけでお腹いっぱいになった。体が満足しているのはレイナちゃんママの話のせいでもある。

「あー、グラタン入るかなあ」

「大丈夫、美羽ちゃんママならいけるよ」

レイナちゃんママの笑顔が、すーっと肌を通ってくる化粧水みたいに心に染みわたった。

シャンパンだけでも2人の話は尽きなかった。

食事を終えて店を出ると大粒の雨が気持ちいいくらいに地面を叩いていた。雨で景色が曇っている。

「もうちょっといよか」

レイナちゃんママがいそいそと元いた席に戻る。

「雨降ってるからもうちょっといさせてな。アイスコーヒー二つ頼むからええやろ」

レイナちゃんママのオーダーに、店員が笑いながらタブレットを叩いていた。

「私な、美羽ちゃんママがうらやましいねん」

レイナちゃんママがそう言って、真剣な目で瑤子を見つめる。

「なんで私なんか、ただの事務員兼主婦よ。それに浮気をする夫を持っている」

「あはは、いいよ、それが楽しいやん。それでもなたくましく生きようとしてる。わたしでけへんかったわ。夫の浮気を知って、いつも泣いてばかり、あの時に私の人生は終わったって思った」

「大丈夫よ、レイナちゃんママは今レイナちゃんと強く生きてるやん。私はいつも強いなーって思って見てるんよ」

それを聞いて、レイナちゃんママはにこっと笑った。やはり褒められるとうれしいのだろう。

「それとな、レイナちゃんママと話しているとな、旦那のことなんか忘れてしまうっていうか、何とかなるって思えるんよね。元気をもらえるっていうの?そんな感じかな、いつもありがとね」

瑤子は普段思っていることを正直に話した。

「何言ってん、私もよ。私あんまりママ友と話ができへんけど、美羽ちゃんママだけはなんか話せるんや。たぶん美羽ちゃんママがきれいだからやと思う」

「何言ってん」

お互い、大声で笑った。隣の席の老夫婦がうるさそうに見ていたので、それ以降は少し小声になった。

小一時間ほど話したら、雨が小降りになった。

「そろそろいこか」

瑤子から声をかける。

「そうね、楽しかったわ。また誘ってな」

「もちろんや、東京行くまでにまた会おう」

不思議な連帯感が生まれた気がした。

まだ小雨が降っていたので速足で歩いた。瑤子はいったん家に帰ってベランダの洗濯ものをしまおうと思った。レイナちゃんママと別れ、急ぎ足で自宅に向かう。

しばらく歩くと腕を打つくらいに雨が激しくなったので、あわてて道路わきの書店の軒下に走りこんだ。すでに先客がいて雨が止むのを待っている。

「ひどい雨ですね」

「えっつ?」

声をかけてきた男性を見て瑤子は思わず声を上げた。

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