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少女A 第15話 (読了3分)

トイレのドアを静かに開け、リビングと反対の方向に歩く。足音がでないように静かに歩く。
 
「まさ美さん」
 
もう少しで玄関という場所で呼び止められ、体が大きく跳ねた。 振り向くと、いきなり長い鉄の棒のようなもので殴られた。かろうじて、よけたものの頭をかすめた鈍器は肩に直撃した。肩に強烈な痛みが走る。まさ美はそのまま玄関まで走った。はだしのまま玄関を開けようとするが、カギがかかっていて、外すのに戸惑った。
 
「あきらめなさい」
 
まさ美は再び鈍器で殴られると、そのまま気を失った。
 
「あなたは私のみかただった、だから少しは長生きさせてあげるわ」

まさ美をソファに寝かせると優香は窓際に立った。外からの明かりが部屋を照らす。熱を持った赤紫の光が優香とまさ美を包む。

優香はそのまま方向を変えると、壁の姿見に向かった。目を細めて自分の顔を見る。優香は姿見に向かって微笑みを作った。少女の顔が大人の顔に変わっていた。
 

「よし、次はその道路わきのカメラの映像を見せてくれ」

桐谷と田口はSSBCの中にいた。SSBCとは警視庁の捜査支援分析センターのことだ。SSBCでは犯行の手口から犯人像のプロファイリングを行ったり、防犯カメラの映像を分析したりする。この部署では防犯ビデオの画像を分析し、犯人の逃走を追うことができる。

八神優香の取り調べは任意のまま続いていた。木下佳奈美が自殺した日のアリバイを聞くためだ。ありがたいことに八神優香の情報は伏せてあった。

なんとか、本当の犯人を暴きたい。優香のためにも、まだ高校生だ、半ば桐谷は使命感みたいなものを感じていた。あの子は何もやっていない、桐谷の中の魂が体を動かす。

ビデオに写っている優香は身長が高く、実物の八神優香とは釣り合わない可能性が強くなっていた。では、ビデオに写っているのは誰なのか。今、頼りになるのは防犯カメラの映像だけだ。 

顔の画像が手に入ったところで、所長の中川のすすめでSSBCでの捜査に踏み切った。捜査本部の長は中川がやっているから心強いと田口は思っていたが、科学技術による捜査を信用していない桐谷は気がすすまなかった。

だが、遅々として進まない捜査だ、従わざるを得ない。

防犯カメラでの捜査は引き続き江東区の豊洲を周辺に進められていた。捜査ではもう一人の行方不明者である、藤浜まさ美を捉えることができていた。カメラはまさ美が地下鉄の中を急ぎ足で歩いている姿を捉えていた。

SSBC内でAIを使って、防犯カメラの映像から優香の顔を持つ人物とまさ美の足取りを追おうとしていた。今までは人間が目視で確認し追跡していたところをAIに変えて行っている。AIの使用はまだ実証実験の段階だが、AIを使うことで精度とスピードが格段に上がったという。AIは顔だけではなく、歩幅や歩き方でも人を認識するという。

藤浜まさ美を顔写真を記憶したAIが見つけ出していた。

だが、桐谷はAIをあまり信用していなかった。人が嘘をついているかどうかなんて、人間は勘でわかる、ロボットなんかにわかるはずがない。それが桐谷のハイテク化されてきた捜査に対するわずかながらの抵抗だった。

AIを使用しても、分析はそう簡単には進まなかった。まさ美と優香は琴美とは別のファミレスでビデオに映っていた。しかし、あいにく二人は防犯カメラが設置されていないエリアに消えていった。こうなるといくらAIを使っても二人を見つけることはできない。琴美の時と全く同じだ。
 
優香の顔をした女は防犯カメラがない場所を、あらかじめ調べている可能性がある。

振出しに戻った。やっとまさ美の足取りをつかめると思っていたが、追えないと分かると桐谷はどっと疲れが増した。

「だめか、万事休すですかね」

田口が肩を落とす。

確かに少女が犯罪を犯したわけでもない。わかっている限り、何も始まっていないのだ。桐谷がうつむいて何かを考えていた。

少女A 第16話へ続く


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