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リスキーな愛の告白 前編 (読了3分) 全2話
あらすじ
あれは10年以上前の高校2年の夏だった。ゆっこと一緒に放課後を過ごす生活に俊太が割り込んできた。気になっていた俊太との間に細いけど強い運命の糸が張られた。
リスキーな愛の告白 前編
あれは私が高校2年生のもうすぐ夏休みという日のことだった。今私は29歳だから、10年以上前のことだ。
その日はセミが大声で鳴き、ちょっと歩くだけでも大汗をかくようなとても暑い日だった。
「夏美行こうか」
教室を出るとうゆっこが誘ってきた。
そのころ、ゆっこと2人で学校帰りに、スーパー太陽でお気に入りのアイスクリームを買って、近くの公園で色々な話をしながらなめるのが日課になっていた。
角を曲がりスーパーの前の通りに出た時だった。スーパーから制服姿の高校生らしき男子が二人走って出てきた。私たちが来た道の反対方向に走っていったから、背中しか見えなかったが、ちらっと振り向いたほうはサッカー部の村上俊太だとすぐにわかった。もう一人の顔は見なかったが体型からして、同じクラスの池堂はじめだと思った。
一瞬だが俊太は右目でウインクしたように見えた。その後、右手をあげたようにも。それは都合がよすぎるだろうか。
私はそのころ村上俊太のことが気になっていたから、顔は見間違うはずはない。勉強もスポーツもよくできる上にアイドル並みのルックスだったから、彼のことを好きな女子は少なくなかった。もれなく私もその中の一人だった。私は彼が同じスーパーで買い物をしていることを知って少し心が弾んだが、浮かれた時間は束の間だった。
次の日の朝礼で私はちょっとしたショックを受けた。昨日の夕方スーパー太陽で万引きがあったというのだ。盗まれたのはチョコレート2枚だった。店員が、制服からして盗んだのはここの高校の生徒じゃないかと連絡があった。
ただ、スーパー太陽の防犯カメラを管理するシステムが少し前から壊れていたらしく、たまたまその日は修理に出していたから、カメラは作動させておらず、証拠となるものはなにもない、と先生は言っていた。
「そういう生徒がいるとは思わないが、心当たりのある生徒は自首するように。それから見かけた生徒も遠慮せずに先生に報告をすること」
話しの途中から私の心臓は爆発するくらい高鳴っていた。きっと俊太と池堂はじめだと思った。なぜそう思ったかというと、池堂はじめは万引きの常習犯で、色々なところでお菓子を盗んだことを自慢しているのを聞いたことがあったし、実際に犯行が見つかって、一度学校から処分されたこともある。
どうしようか、私はゆっこと相談した。池堂はじめは確かに確信犯だと思うが、村上俊太は盗みをはたらいていないのではないか、そんな話をした。そして行き着いた結果が、やさしい俊太は何も知らずにつきあわされただけで、池堂が盗んだ事実も知らないだろう、ということだった。
そして、私たちは盗んだ現場を見たわけじゃないから、先生にも報告をしないことにしたのだった。
結局犯人は見つからずに夏は終わり、すっかりセミの声も聞こえなくなった。私とゆっこはアイスクリームは必要なくなったが、部活のない私たちは相変わらず放課後の時間をうだうだと過ごしていた。
私は俊太に気持ちを告白することにした。彼の誕生日が9月24日だったから、プレゼントを渡すついでに好きだと告げようと思った。
これからやってくる冬に備えて、私は手袋をプレゼントすることにした。ちょっと値が張ったけど、お小遣いの一部を貯金していたから、わりといい素材の手袋をチョイスできたと思う。
誕生日当日、学校の前で待っていると、俊太がひとりで出てきた。絶好のチャンスだと思ったその時だった、校門の脇から一人の女子が出てきて、彼に何かを渡していた。
俊太と同じクラスの宮田メイだった。宮田メイは中の中くらいのかわいさだが、知的な印象のある子だ。そういう子が好きな男子はいるだろう。ひょっとすると俊太は彼女のことが好きなんじゃないかと思ったこともあった。よく図書館に二人でいるのを目撃していたからだ。
宮田からプレゼントをうれしそうに受け取る俊太を見ていると、あきらめというより、逆にどうしても俊太を自分のものにしたいという気持ちが強くなった。
スーパーでのことは誰にも言っていない、そんな気持ちが彼を守っているという感情に発展してしまっていた。
私は俊太とメイの後を尾行した。2人はカフェみたいなところにでも行くのかと思っていたが、しばらく歩くとあっさり手を振って別れてしまった。
チャンスだ。私は猛然とダッシュした。
私は俊太に追いつくと、「誕生日おめでとう」といって手袋の入った箱を渡した。
俊太は驚いた眼で私を見ていたが、ことを察したのか「ありがとう」と素直に受け取ってくれた。
「あ、それとあの時のこと言わないでいてくれてありがとう」
やっぱり2人だったんだ。
彼の言葉を聞き、私の心の中に黒いなにかが頭をもたげるのに時間はかからなかった。心臓が高鳴り、私の中で心臓以外にも何かがはじけているのがわかった。
「いいんだそんなこと、俊太さ、私と付き合ってくれるよね」
すんなりと言えた自分が怖かった。きっとその時の私はとても怖い目をしていたに違いない。
「あっ」
一瞬まずいという顔をした俊太は、しばらく考えて
「わかった、付き合う」
と言ってくれた。
すかさず私は「ありがとう」と言って右手を差し出していた。考えを変える前に証拠的ななにかをおさえておきたいと思った。俊太はしっかり私の右手を握った。
夏は終わったからアイスはとりあえずやめたがゆっこと一緒にいることには変わりはなかった。ゆっこと別れると、その後いったん校門の前に戻り俊太の部活終わりを待った。俊太が校門から出てくると駆け寄って、一緒に帰るという日々が始まった。季節は冬に差し掛かっていたけど、私には春が来ていた。
リスキーな愛の告白 後編につづく
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