StoM 第2話 読了3分 (全5話)

1話のあらすじ
雄太郎はつきあっている桜田まりなからSMを勉強するようアドバイスを受けた。とくにSMが好きなわけではない雄太郎。近くにできたレンタルショップからSMのDVDを5枚レンタルしてきた。1枚目を見ているとなかなかすてたものではない、という気がした。

StoM 第2話

女王様がムチで叩くと、奴隷の女が悲鳴を上げた。俺はSMが嫌いだったはずなのだが、なぜだか女の懇願する顔と声に、少し興奮してきたのだった。

次に女王様がアイスピックを出した。細くとがった先端を太ももに当てる。先端は照明の光を反射してとても鋭く見える。

「あん」

女王様がアイスピックの先端を太ももからお尻の方へずらすと、奴隷の女がいやらしい声を出した。俺もだんだんその気になって、思わず股間に手が伸びていた。股間をにぎりながら画面にのめりこむ。

女王様は奴隷の太ももから肛門を触り、背中へと軽く先端を当てながら肩のあたりまでずらした。全裸の奴隷は四つん這いのまま体をクネクネさせている。

次第に奴隷の声も大きくなっている。俺の興奮度合いも徐々に上がってきている。いい感じだ、そう思った時だった、女王様はアイスピックを高く振りかぶると、思い切り奴隷の背中に突き刺した。

「えーーーっ」

声がした方向を振り返ると、部屋の入口のドアのところに洗濯もののかごを抱えた母親が目を丸くして、大きく口を開けて立ちすくんでいた。

「えーって、いつからそこにいたんだよ」

俺は、股間に当てていた手を離すとDVDを止めた。

部屋に気まずい空気が流れる。俺は母親を無視してDVDをしまった。ケースを見ると、SM系ホラー映画という聞きなれない言葉が赤い血液を模した文字で書かれていた。俺は違う種類のSM動画をレンタルしていたことに気が付いた。果たしてほかの4枚もそうなのだろうかという疑問が浮かんだが、今それをゆっくり確かめる勇気はない。

母親は、そのままベランダに行き、洗濯物を干すと、部屋を通過して出て行った。なんとなくニヤニヤしているのが気になったが、とても今話す気にはなれない。

時計を見ると14時だった、そろそろ行くか、俺は今の状況を心にひきずりながらも準備をしてまりなとの約束の場所へ移動した。今日は青山にある大きな公園で待ち合わせていた。

まりなとの付き合い、いや付き合ってるわけではないが、この状況は同僚の高橋五郎にお金を貸したことから始まった。

高橋は会社の経理部に所属する同期で、週に1回はいっしょに食事をするくらいの仲だ。高橋は経理で普段はお金を扱っているが、資産管理の業務にも携わっていた。その業務の1つに投資という項目があり、会社の資金を使って投資をし、資産を肥やしていく業務も行っていた。彼はまじめなのだが、のめりこむところがあって、無謀な投資をして会社に損害を与えてしまった。その穴埋めをこっそりするために100万円必要としていた。高橋は70万円はなんとかなるがあと30万円足らないから貸してくれないかと言ってきた。

就職して一人暮らしをしている高橋にはそれくらいが限界だろう。俺は自宅通勤だから高橋より余裕はあるが、果たしてそのようなことに加担していいのか。

俺は少し気が引けたので、最初はそんなことはやめた方がいいと止めていたのだが、どうしてもミスがあからさまになるとまずいと懇願され、最初で最後だからと言って、貯金していた金から30万を貸したのだった。

それからしばらくして、貸した金を返してくれるというので、経理の部屋に入ると、誰もいない部屋の隅のケースの引き出しに封筒が入っているのが見えた。封筒を取り出すとそこにはまさしく現金が入っていたのだった。

なぜその金が返金される金だとわかったかというと、貸す際に、
「自分がいなくてもそのケースに入れてくれれば助かる」
と高橋から言われ、俺はそこにお金を入れたからだった。またそのケースを使ってお金のやり取りをするのだと思った。

家に帰って数えてみると封筒には40万円入っていた。なかなか気が利くじゃないか高橋君、俺は大金持ちになったような気分で、余分に入っていた10万円を財布にいれると焼き肉屋にいった。焼き肉を食べながら、余分に返してくれた金を独り占めするのも悪い気がして、俺は高橋を呼ぶことにしたのだった。

だが、世の中というのはそう甘くはなかった。

そのあと合流した高橋に確認すると、まだお金は持っているという。てっきり高橋が返してくれたと思っていたお金は会社の金で、高橋の金ではなかった。高橋は返す予定だった金をありがとう、と言って肉の横にそっと差し出した。

「あれは出張をしている連中が交通費を清算できるように準備している金だよ」

高橋からその話を聞かされた時、一瞬にして俺は血の気が引くのを感じた。俺は横領で捕まるのか、そんなことが頭をよぎった。

よくあるじゃないか、経理の女性が好きな男につぎ込むために会社の金を何億と横領した事件が。そういうことはたいていばれる、ばれたら終わりだ。果たして俺は何年の罪になるのだろうか、そんなことがどんどん思い起こされ、俺は高橋と話しながらも生きた心地がしなかった。

だが、それは杞憂だった。俺は運がやはりいいみたいだ。そのあと高橋がうまいことごまかしてくれたみたいで、大事に至らずにすんだ。

それから1週間位したころだった、桜田まりなから会社の近くのカフェに呼び出されたのは。桜田まりなは高橋と同じ経理部の社員だった。

「見たわよ」

カフェのテーブルに座ってコーヒーを飲んでいると、彼女からおもむろにそう言われた。すぐ何のことかわかったが、そこは慣れたものだ、俺は余裕の演技で

「えっ?なにを」

ととぼけてみせた。たぶん主演男優賞ものの「間」と「雰囲気」だったはずだ。すべては高橋が納めてくれている、そんな気持ちが自信となり、力強く生きている俺がそこにいたはずだ。だが物事は演技のうまさではどうにでもならないみたいだ。

「これを」

まりなは手に持っていたスマホをこちらに向けると、動画のスタートボタンを押した。そこは会社の経理部の部屋、そこには周りを気にしながらケースから現金の入った封筒を取り出す俺がいたのだった。

「あの時、私、廊下の窓から部屋の中を見ていたの、気が付かなかったみたいだよね」

「まあ」

「様子が変だったから、まさかと思って録画したんだけど、まさかね」

そう吐き捨てるように言ったまりなは、地獄から送られてきた使いのような冷酷な目をしていた。

ここで俺の素晴らしい演技は終わった。俺は本当に暗い闇の中に迷い込んだ気分だった。再び「社員が横領で逮捕」という見出しが俺の脳を支配する。その気持ちが伝わったのか

「大丈夫よ、言わないから」

まりなはそう言って、あやしい微笑みを浮かべた。

「えっ?」

「だから言わないよ、誰にも、この動画は私が保管しとくね」

保管という言葉に少し違和感を感じたが、彼女が言っている意味はわかった。おそらく助けてくれると言っているはずだ。

「ただね」

「ただ?」

「お願いがあるの」

「お願い?」

力の抜けた俺はただ彼女の言葉を復唱した。

「今度デートしてくれない」

「今度デートします」

まるで魔法にでもかけられたように俺は桜田まりなとデートの約束をしていた。

社内でもたぶん5本の指には入るだろうと言われる美貌の持ち主の桜田まりなとデートができるのだから、交換条件にしては悪くはなかった。ただ俺は年上より年下の方が好きだし、そこは今後も譲るつもりはないから、ほんの少しだけ遊べばそれでいいと思っていた。

StoM 第3話へつづく

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